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第59話 ムルデの行く末 ~アグリサイド~

まだゾルダは怒っている……

当分は荒れそうだ。


いいかどうかは別にして、一応これで騒動は落ち着いたのだと思う。

領主であるランボは魔族となり消えた。

傍若無人に振舞っていた領主がいなくなったことで、この街は救われるのだろうか。


「マリー、申し訳ないけどあの鉱山に一度戻ってくれないか。

 ゾルダも、いつまでも怒っていないでさ……

 ちょっと付き合ってほしい」


ただ落ち着いたとは言え、俺はなんかずっとモヤモヤしている感じが残っている。

まずは生贄の儀式で助け出せなかった人たちのもとへと向かおうと思った。


「なんでマリーが連れて行かなといけないの?」


「悪いとは思うけど、お願い、マリー。

 どうしても助け出せなかった人たちを……」


「弱い者がどうなろうと知ったことではないですわ。

 マリーにはその気持ちはよくわかりませんわ」


マリーは文句を言いながらも、鉱山まで連れて行ってくれた。

ゾルダはと言うと


「もうやってられん。

 ワシは剣の中に戻るぞ」


と言い残し、剣の中に姿を消した。

まだまだ怒りが収まらずというところなのだろうけど……

外で暴れるよりかはマシかな。


鉱山に着くと生贄の儀式があった場所まで歩いていく。

あれほど居た憲兵たちも大半が魔族だったようで、ランボに付いていなくなった。

残った憲兵たちはランボたちの恐怖に怯え、仕方なくといった感じだったのかもしれない。


人気が少なくなった坑道を歩いていくと、先ほどの大きな空洞に着いた。

そこでは何名か救えた人たちと、残った憲兵が、生贄の儀式で犠牲になった遺体を並べていた。


「すまなかった……

 救い出せなくて……」


そこにいた男の人にそう声をかけた。

自責の念が大きく、何か気の利いた言葉は出せなかった。

それでも、生き残った人たちは


「そんなことないです。

 この街は生きている心地がしなかった。

 あのまま生きていても死ぬ以上の苦しみがあったのかもしれません。

 それを救ってくださったのだから……」


「それでも、俺は何も出来なかった……」


「何も出来なかったなんて、言わないでください。

 確かに多くの犠牲も出しましたが、それでも大半の領民は生きています。

 その領民たちの多くがあなたに感謝していますよ」


そう言われても何も成せなかった気がする。

もっとうまくやれたのではないかと……


しばらく遺体の整理を見届けていると、陽動作戦に行っていたフォルトナが合流してきた。

あまりの遺体の多さにフォルトナは絶句していた。


「な……なんてことを……

 あの領主は……」


「すまない。

 せっかくフォルトナが憲兵を引き付けてくれたのに……」


もう謝る言葉しか浮かんでこない。


「目の前のことだけに囚われたらダメだよー

 仕方ないでは済まされないのかもしれないけど、良かったこともあるんだしー」


フォルトナは力を落とす俺に対して、いろいろと慰めの言葉を言ってくれた。

それでもなかなかとモヤモヤが収まらない。

分かってはいるのだけど、うまく切り替えが出来ないって感じがかもしれない。


騒動を聞きつけてか、街の人たちも坑道の中に入ってきて、徐々に人も増えてきた。

その中に宿屋の女主人もいた。

そして俺を見つけて駆け寄ってきてくれた。


「本当にありがとうございます。

 私の話を聞いてくれて」


女主人は俺に対して深々と頭を下げた。


「いいえ……

 任せてくださいと大見えを切ったのに、これだけ犠牲者を出してしまいました。

 約束を守れずに申し訳ない」


この人との約束を守れなかったことが、モヤモヤの原因なのかもしれない。

何が任せてだと……

全然ダメだったじゃないかと。


「そんなことを言わないでください。

 あなたは私との約束を守ってくださいました。

 この惨状を訴えてほしいという願いを。

 これだけのことになれば国も知るところになるでしょう。

 そういう意味でも、私との約束を守ってくださったことになるのではないでしょうか」


宿屋の女主人の言葉に、少し救われた気がした。

多くの人々を守れなかった悔いはあるけど、多くの人の未来も守れたのも事実なのかもしれない。

結果は良い悪いのどちらかではないのかもしれない。

良いことも悪いことも両方あるのかもしれない。


「ありがとうございます」


俺は宿屋の女主人にお礼を言った。

全部が全部飲み込めたわけではないが、少しモヤモヤが晴れたような気がした。

いつまでも落ち込んでいても仕方がないのかもしれない。

俺以上に大変な思いをしているこのムルデの街の人たちが前を向いているのだから。


「フォルトナもありがとう。

 気にかけてくれて」


フォルトナにもお礼を伝えた。


「いやー、お礼なんてー、そんなこともないよー」


フォルトナは若干照れくさそうに答えた。


「マリーもありがとう」


ここまで運んでくれたマリーにも感謝をした。


「マリーは何もしてないですわ。

 お礼をされることなど何もしていないですわ」


マリーはふくれっ面で俺に言ってきた。


「いいんだよ。俺がみんなに感謝したいんだから」


今回は俺の助けたいというエゴに付き合ってもらったのもある。

巻き込んでしまったのだから、お礼ぐらい言わせてほしい。


「ワシへの感謝はないぞ、おぬし」


剣へ姿を消したゾルダの声が頭に響く。


「あぁ、そうだな。

 ゾルダもありがとう」


「そうじゃ、いつでもワシには感謝しろ。

 ワシは偉大じゃからのぅ」


少しは機嫌が直ったようで、ゾルダの笑い声が頭の中でこだましている。

俺も思わず顔が綻んでいた。

フォルトナも俺の笑顔を見て、安心したのかにこやかな顔になっていった。


しばらくすると坑道の遺体整理や片付けなどがあらかた終わった。


「それじゃあ、今日は疲れたから、宿屋に戻って休もうか」


とみんなに告げて、宿屋に戻ろうとしたときに、すっとカルムさんが俺の前に立ちふさがった。


「カルムさん、来ていたんですね。

 フォルトナのことを手伝ってくれたようで、ありがとうございます」


カルムさんも作戦を手伝ってもらえたようで本当に助かった。


「……いいえ、当然のことをしたまでです」


ただカルムさんはなんだかいつもと違う様子に感じた。


「あの……、カルムさん、何かありましたか?」


様子がおかしいので、確認をしてみると……


「大変申し訳ございません。

 実は……

 アウラ様が倒れまして……

 至急、フォルトナ様には、シルフィーネ村に戻ってきていただきたく」


あの元気そうだったアウラさんが?

思わぬ事態に俺とフォルトナは大声が出てしまった。


「えーーーーーーっ」

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