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第61話 お忍び小冒険譚 ~アウラサイド~

--アグリやゾルダたちがムルデの街についたころのシルフィーネ村に時を戻す。

--シルフィーネ村ではいつもと変わらずアウラが長としての仕事をこなしていた。


勇者様とフォルトナは、もうどの辺りまで行ったでしょうか……

旅路が苛酷になっていなければいいのですが……


勇者様とお付きの人か旅立ってだいぶ経ちます。

あとから追いかけたフォルトナも勇者様に追いついたとの報告は受けています。

勇者様のお邪魔をしてないでしょうか。

多少は心配ですが、私に比べたらしっかりもののあの子のことなので、大丈夫でしょう。


そんなことを考えながら、家の執務スペースで書類を確認しています。

相変わらず私のところに持ち込まれる話も多くて……


えーっと、これはまた話を聞きに行きましょう。

これは……当面は問題なさそうですね。

後回しにしておきましょう。


私も一人しかいないですから、申し訳ないですが、優先順位は決めさせてもらっています。

そのことで特に何か言われたこともないので、問題ないでしょう。

そうなると、このお願いが喫緊の課題になるのかな……


書類整理をしていると、大きな音でドアを叩く音が聞こえてきました。


「ドンドン! ドンドンドン!」


誰でしょう。

何か急ぎの話でしょうか。


「おい、長。

 長はいるか?」


大きな声が響き渡ります。


「はーい、少々お待ちくださいね」


急いで入口に向かうと、オンケルがそこに立っていました。


「おー、いたいた。

 忙しいのに悪いな」


オンケルは申し訳なさそうな顔をしながら私に話しかけてきました。


「いえいえ~。

 何事でしょうか」


オンケルは村一番の大工の棟梁です。

そんなオンケルが慌てて私に伝えたかったことなんでしょう。


「実はな、公園の遊具が壊れてしまっていてな。

 あのままではいつか子供たちがケガをしちまう。

 早めになんとかしてあげたいんだが、直しちまってもいいか?」


そういうことなのですね。

もっと深刻な何かかと思っていましたが、案外身近なことで良かったです。

ホッとしましたが、子供たちの安全も村では重要なことです。

ケガをしてしまったら大変です。


「そうですね。

 オンケルが出来るなら、修理していただいても問題ないですよ。

 それより、オンケルの方が忙しくないですか?」


「あっしは大丈夫です。

 今の現場は若い衆でなんとかなってますので」


オンケルはドンと胸を叩いて、任せろと言わんばかりです。


「それならお願いするわ。

 早く教えてくれて助かったわ。

 ありがとう、オンケル」


「おうよ、あっしに任せてくだせい」


そういうとオンケルは公園に向かっていきました。


「ふぅ」


ため息を思いっきりします。

まだまだ至らないところが多い私ですが、こうやってみなさんが助けてくれます。

それは本当に嬉しいことです。

みなさんに頼り過ぎないように、私もしっかりとやらないといけません。


この後は……

あっ、そうそう、フォルトナが行ってしまってから誰にもお願いしていない祠の見回りをしないと。

たまには私も村の外へ行きたいですからね。

いつもだとカルムがいるのですが……

カルムもムルデの街のこともあってあちこちに行ってもらってここにはいません。


………………

勇者様が危険な魔物は倒してくださっていますし、私一人でも問題ないですね。

それに村の人たちに言うと心配してしまうので、ちょっとだけ内緒で行ってきましょう。


そう考えたら、居ても立っても居られなくなりました。

急いで準備をして、こっそりと北西部の祠へ向かいます。


浮遊魔法を使って北西部の森を移動します。

風が心地よくていいですね。

木々も青々としていて、なんだかとても気持ちがいいです。

こう颯爽していて風になった気分です。

村長としての仕事に追われてしまい、なかなかこう出かける機会もなくて……

やっぱりこちらの方が性に合っている気がします。

またこうやっていろいろなところへ行ってみたいですね。


そうこうしているうちに北西部の祠へ到着しました。

祠を確認し、風の水晶も問題なし。

大丈夫そうですね。

一安心です。


さぁ、みなさんに心配かけないうちに帰りましょう。

そう考えながら、祠がある大きな木から出てくると、その周辺から大きな鳴き声が聞こえます。


「ガーーガーー」


どうやらグリズリーのようです。

勇者様があらかた殲滅していただいたはずですが、残っていたのでしょうか……

それも普通のグリズリーより大きいようです。

なんだか荒れ狂っているようで、私を見るなり襲い掛かってきます。


「グガーーーー」


勢いよく突進してきましたが、間一髪で避けることが出来ました。


「ふぅ……危なかったわ」


さて、この後どうしようかしら。

逃げたほうがいいのかしら。

でもこのくらいの魔物ならなんとかなるかしら。


「ゲイル」


グリズリーに向かって風魔法を唱えます。

周りの木々が揺れ、大きな渦となりグリズリーに向かっていきました。


「グギャグギャーー」


とりあえず直撃はしたようですが、まだ大きなダメージにはなっていないようです。

かなり厄介ですね。


グリズリーはひるむことなく、また私に向かってきます。

大きな爪を振るい、攻撃をしかけてきました。


「グガーー」


その鋭い爪のスピードが速く、一瞬対応が遅れました。


「うっ……」


二の腕にグリズリーの爪4本が掠り、出血をしはじめました。


「ちょっとまずいですね……」


なんとかなると思ったのが私の怠慢でした。

ここからは慢心は捨てます。

腰に携えていた短剣を取り出し、グリズリーに向かっていきます。


「ゲイル」


再び風魔法で相手の動きを止めます。


「はぁーーっ」


素早く動きながら短剣をグリズリーに刺していきます。

何度も何度もこれでもかというぐらいに。

グリズリーも当然ながら応戦してきました。

他にも足やお腹に爪が当たりましたが、怯まずに刺し続けます。


ようやくグリズリーの動きも止まり、その場に倒れこみました。


「はぁ……やっと倒せたわ」


だいぶダメージは負ったためか、気持ちが切れたせいかわかりません。

私は力が抜けてその場に座り込んでしまいました。


「もう、ダメ。

 力が出ないわ」


精魂尽き果てた感じがします。

昔はもっと体力があったはずなのに。

若いころとは違うわね。

まぁ、鍛えていないこともあるのだけど。


これはもうしばらく動けそうもないわ。

どう帰ろうかしら……

行く先は村のみなさんには伝えていないし……と途方に暮れていました。

しかし、私が村に居ないことに気づいたカルムの友人たちが私を探しに来てくれました。


みなさんがグリズリーの亡骸を片付けている間、横になって待ちました。

概ね片付けが終わると、カルムの友人の一人、シュヴァルが手を差し出してきました。


「ありがとう、助かるわ」


そして、シュヴァルの手を引き、起き上がろうとした時です。

ピキッと腰のあたりに痛みが……


「いたたたた……」


それ以上動けなくなってしまいました。


「シュヴァル、申し訳ないのですが、抱きかかえていただけますか」


シュヴァルはそんな私に対して何も言わずに村まで抱きかかえてくれました。

本当に助かりました。


ベッドまで運んでもらい、横になっていますが、しばらく動けそうもないです。

さて、長の仕事、どうしましょうね……

私たち一族の仕事なので、他に任せることは難しいですね。

これはフォルトナを呼び戻すしかなさそうですが……

あの子、怒るかな……

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