遡ること三日前。
ワシに異変が起きて、剣の中に戻ってしまったのじゃが……
その時何がワシに起きていたかと言うと……
さっきまで魔物を気持ちよく倒しておったのに。
何が起きているのかさっぱりわからないのじゃ。
確かに普段以上に魔力を消費して、使っておったのは確かじゃが……
剣の奥底からいつもなら感じられないようなものを感じ、それに引きずり込まれたようじゃった。
「んっ……
いったい何が起きたのじゃ。
魔物を倒して憂さ晴らしをしおったのにのぅ」
片手でこめかみのあたりを押さえ、頭痛を振り払うかのように頭を左右に振ってみたのじゃが……
「っぅ……
なんだか少し頭が痛いのぅ……」
周りを見回してみたのじゃが、真っ暗で何も見えないのぅ。
剣の中に入った感覚があったから、剣の中なのじゃろうが……
いつもなら、外の様子は伺えたのじゃが、今回は何も見えないし聞こえてこないのぅ。
耳を澄ましてみたが、何かしら微かに聞こえてきた。
「……ル……!
だい……うぶか?」
あれはあやつの声かのぅ。
心配しているようじゃが……
「案ずるな!」
暗闇に響き渡るような大きな声で答えてみたのじゃが、聞こえていたかはわからんのぅ。
音もかき消されるような静寂の暗闇が広がっておるしのぅ。
本当にここはあの剣の中なのじゃろうか……
この感覚はあやつと出会う前の剣の中の感覚に似ておる。
最近はこんなことはなかったのに、何故じゃ……
それに手足に何かが絡みついているようにも感じるのぅ。
そいつらが引っ張っているようにも感じる。
ワシは引っ張られる方向に歩を進めてみた。
どこまでも続く暗闇と静寂。
ただ引っ張る感覚は徐々にはっきりとしてきた。
それとともに、多くの亡霊のような手が浮かび上がってきた。
「こいつらはなんじゃ。
ワシと共にいっしょに封印されておる何かかのぅ」
さらに引っ張ってくる亡霊のような手が伸びている方向に向かってみた。
そうすると思念体のようなものが目の前に現れた。
ワシの何十倍もある大きな思念体じゃった。
そこから手が数十本もうねうねと生えておる。
マリーじゃったら卒倒しておったのぅ。
「なんじゃ、お前は。
何故ここにおる?
何故ワシを呼び寄せるのじゃ?」
思念体に向かい言葉を投げかけてみたのじゃが……
「……は……お……か……」
意思はしっかりとありそうな雰囲気はしておるが、いまいちはっきりと聞こえてこないのぅ。
「はぁっ?
何を言っておるのか全く分からんのぅ。
もっとしっかり喋らんと伝わらんぞ」
こんなやつは恐るるに足らん。
思念体に対して強気に言葉をぶつける。
「お前は……魔王……か?」
今度はしっかりと聞こえてきた。
ワシが魔王かと問いかけてきたようじゃ。
「如何にも。
ワシは魔王……」
と言いかけたのじゃが……
そう言えば、ワシは今の魔王ではないのぅ。
「ワシは元の魔王じゃ
今は……なんじゃろう……
今は何ものでもないのぅ」
言い直しをして、そう思念体に答えた。
すると思念体は
「お前は……勇者……に……仇名す……者か……?」
と再度の問いかけをしてきおった。
質問ばかりで鬱陶しいのじゃが……
「それはわからんのぅ。
今はあやつとはあくまでも協力関係じゃ。
今今はあやつと事を成すことはせんが、今後はわからん」
ありのままにワシは答えた。
すると、思念体は赤く色づき、言葉の語気も強くなってきた。
「勇者の障害となる者は容赦しない……
我は魔王に立ち向かう者なり……」
そういうと、さらに多くの手がワシを取り囲み次々と体を押さえていく。
「くっ……
何をするのじゃ……」
力の限りで手を振り払おうとするがびくともしない。
ワシの力でも無理なのか。
「お前はワシの話を聞いておったかのぅ。
ワシはもう魔王ではないのじゃ。
今の魔王をあやつと一緒に倒しに行く途中じゃ。
あやつの力になっても、障害にはなっておらん。
お前もここから見ておったろうに」
さらに次々にくる手を振り払いながら、そう叫ぶ。
本心とは違うところじゃが、間違ってはおらん。
「ここから感じるのは放出された強大な魔力のみ。
お前は勇者の障害になりうる魔力を放っていた。
再度問う。
お前は……勇者の……敵か?……味方か?」
思念体はワシに何度同じ質問をするのじゃ。
「ワシは敵でも味方でもないのじゃ!」
ブチギレたワシはそう言い放ったのじゃ。
すると思念体は
「勇者に仇名す者……
容赦はしない……」
あの思念体は何故に勇者の敵かどうかにこだわるのじゃ。
…………
もしかしたら、あの思念体は、過去の勇者たちか。
厄介なものを一緒に封印してくれたのぅ……
ゼドとアスビモのやつめ。
となると、さっきのワシがおかしくなったのもこいつの所為か……
派手に魔力を使った所為で勇者の敵判定されたかのぅ。
ただ今までおとなしくしておったのに、なぜ今こいつは動き始めたのか……
正直それはわからんが、このままではまた閉じ込められたままになってしまうのぅ。
力でも振り払えんし、嘘でもなんでもいいから、こいつを納得させないと……
「もう一度問う。
お前は勇者のなんだ」
…………
ワシはあやつの何かか……
確かに最初は打算で近づいたはずじゃ……
それは今でも変わらない……
ただ、あやつはワシの事を元魔王だとかで毛嫌いすることもしない。
頼るところは頼ってくれるし、好きにやらせてくれることも多い。
あやつはあやつでワシの事を信頼しておるのかもしれん。
ワシものびのびとやらせてくれるあやつには多少心を許しておるのかもしれんのぅ。
「ワシは……
ワシはあやつの協力者じゃ。
あやつと共に今の魔王を倒すのじゃ」
協力しているのも嘘ではないし、今の魔王ゼドも倒すのも間違いじゃないのぅ。
すると思念体の手はワシの体からするすると離れていきおった。
「お前は勇者の……協力者なのだな……
もし今後勇者に仇名すことがあれば……」
本当にしつこいのぅ。
同じことの繰り返しじゃ。
一つの事に縛られておるだけに余計に厄介じゃ。
「何度も言わせるな。
ワシはあやつの協力者じゃ。
なんならここまで強くしてあげたのもワシじゃ」
そう自信満々に思念体に対して言い放った。
それを聞いた思念体はしばらくすると消え去り、いつもの剣の中の様子に変わっていった。
「ふぅ……
とりあえずはなんとかなったのぅ……」
しかしいつまたあの思念体が出てくるかはわからんのぅ……
勇者の怨念か……
こいつらを納得させないとまた出てきそうなのはちぃっと大変じゃのぅ。
ただなんとなく感じゃが、こいつらが封印の鍵との関係もありそうじゃ。
上手く丸め込めれば封印も解けるかもしれんのぅ。