目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第69話 ゾルダの復活 ~アグリサイド~

あれからさらに数日が経っていた。

王様の使者はそろそろこの街ににつくらしい。

そうアウラさんの仲間が知らせてくれた。


そうすれば次の目的地に行くことになるのかな。

また王様からの指令があるのかな。

それともゾルダがあれだけキレた相手……

アスビモの行方を追うことになるのか……


それにしてもまだゾルダは剣から出てこない。

『案ずるな』と言われたが、それでも心配ではある。

マリーは日中に魔物討伐に行く以外はずっと剣に寄り添っている。

ただ俺としては待つしかないので、今やれることをやっていくしかない。

ということで、ゾルダが出て来るまでは俺自身が強くなっていかないと。


「マリー、今日も魔物討伐に行くけど、手伝ってくれないか」


「また行くのですか?

 毎日毎日飽きないですね」


マリーは憎まれ口をたたきながらも、なんだかんだで同行してくれる。

正直俺一人だけだと何もできなかったかもしれない。

だけど、マリーが居てくれてすごく助かっている。


「今日の依頼は……

 あっちの山岳地帯にマタンゴが大量に発生しているらしい。

 さぁ、行こうか」


「今日はキノコが相手ですか?

 アグリもいろいろな依頼を受けますこと」


「何かしてないといろいろ考えちゃうから。

 体を動かしていた方がいいかな」


毎日討伐依頼をこなしたり、話したりしていたこともあるのかもしれないけど……

以前は『お前』とか『あなた』とかしか俺を呼ばなかったマリーも、

今はしっかりと名前を呼んでくれている。

それだけ打ち解けた証拠なのかな。


「しかし、この辺りはいろいろと大量発生するところですわね。

 犬にうにょうにょにと……」


「ランボやアスビモが居なくなったことも関係しているのかな?

 魔族として統べるものが居なくなって、統制が効かないのかもしれない」


「強い者がいれば従うのは魔物としては必然ですからね。

 ただ隙あらばと力を貯めていたことはありえるとは思いますが……」


「まぁ、街の人も困っているし、残った憲兵たちも街の復興で忙しいようだから。

 俺に出来るのはこれぐらいだしね」


そして俺はマリーと共に復興途中の街を抜け、マタンゴが大量発生しているという山岳地帯に向かった。

現地に近づくにつれ、スモッグのようなガスに覆われてきた。


「なんだか視界がわるくなってきたな」


「息もしづらいですわ。

 霧とは違うような感じがしますわ」


さらに進むと、マタンゴが数匹現れた。

一定の周期で息をするように傘の部分から霧状のものが噴出していた。


「あの霧のようなものは胞子か。

 ここにいるだけの数でこの量の胞子を出しているわけではなさそうだな。

 奥に行けばもっといるんだろう」


「そのようですわ。

 キノコどもも1匹1匹は強くはないのですが……

 量が多いのは困ったものですわ」


「とりあえず出来てた奴らを叩いていくしかないかな」


数匹現れたマタンゴを俺とマリーで倒して、さらに奥に進んでいく。

進むたびに倍々に増えていくマタンゴ。


「どれだけ増えてくるんだよ!」


「半端じゃない量ですわね。

 埒が明かないですわ。

 マリーがこの辺り一帯を焼き払いましょうか?」


「そうしたいのも山々だけど、マタンゴ以外は必要なものだし、不必要に燃やしてもなぁ……」


「そんな悠長なこと言ってられる状況ですの?

 量で押し切られますわ」


「ギリギリまで頑張るからもう少し待って」


そうマリーに言うと、倒す速度を上げていく。

それでも次から次へとマタンゴは湧いてきた。


「くっ……

 この辺りが限界かな」


そろそろ決断しないとと思った時に、剣が黒炎をまといはじめた。


「!?」


その剣を一振りすると、周りにいたマタンゴたちに黒い炎が向かっていく。

瞬く間に多くのマタンゴが炎に包まれ焼かれて朽ち果ていった。


「ゾルダか?」


「相変わらずとろいのぅ。

 こんなのさっさと焼き払えばいいのに」


ひょいと剣からゾルダが姿を現した。

相変わらずのニヤニヤとした表情で俺の方を見てきた。


「心配したんだぞ」


そう言うとゾルダの肩をガシッと掴んで前後に揺らしていた。


「そうくっつくな。

 鬱陶しい。

 案ずるなといったじゃろうに」


ゾルダは嫌な顔をしながら俺の手を振り払う。


「ねえさま!」


マリーは泣き出しそうな顔をしてゾルダの胸に飛び込んでいった。


「マリー、悪いのぅ。

 心配かけて」


「どうなってしまうのかと……

 マリーは心配で心配で……」


ゾルダはマリーの頭を何度も撫でる。

マリーも一安心といった表情だった。


「いつもと様子がおかしかったら……

 いったい何があったんだ?」


俺はゾルダが剣に戻ってからのことを問いただしていた。

ゾルダはそんな俺の事を気にせずに


「そんなことより、まずはこいつらの始末じゃろ。

 ワシも力を貸すから、一気に行くぞ」


ゾルダはそう言うと、大量のマタンゴに対して闇の炎(ブラックフレイム)をぶっ放していった。


「宿に戻ったら話を聞くからな」


俺はゾルダにそう告げると、マタンゴたちを再び切りつけにいった。

マリーもゾルダが戻ってきたことが嬉しかったのか、いつも以上に豪快に魔法を使って倒していた。


しばらく戦闘が続いたが、みんなが頑張ったこともあり、大量のマタンゴたちを全て倒すことが出来た。


「とりあえずこれで依頼は完了かな」


「おぬしの戦い方はじれったいのぅ。

 もう少しなんとかならんのか」


「そんなことを言われても……

 これでも俺だって前に比べたら……」


「まぁ、そうじゃのぅ。

 確かに前に比べたらだいぶマシになってきおったかのぅ。

 ワシに比べたらまだまだじゃがのぅ」


「ゾルダと比べるなって。

 お前は元魔王じゃん。

 俺はまだ勇者になりたてだから。

 これから強くなっていくんだよ」


「せいぜい頑張れ、おぬし」


「なんだよ、その言い方。

 俺だって頑張っているんだからな」


そんなことをやりとりをしていると、ホッとして笑みがこぼれていた。

あっ、いつも通りのゾルダで良かったと。

元気で体調も問題なさそうだ。


「マリーも頑張ってますわ。

 マリーも褒めてください、ねえさま」


「マリーがいつも頑張っているのは、ワシはわかっておるぞ。

 ワシがいないところで、あやつを良く守ってくれたのぅ」


「はい!

 マリーが頑張ってアグリを守りましたわ」


マリーはドヤ顔をして誇らしげにしていた。

そんなマリーを見てゾルダは柔和な笑顔になっていた。


とりあえず何事もなくゾルダが戻ってきてくれたので良かった。

最悪このまま剣から出てこないのかもと悪い方向に考えることもあったし。

なんでそんなことになったのかの事情はいったん置いて、

ゾルダの復活をまずは喜びたい。

そんなことを考えながら、街へ戻るのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?