さてと……
復活させていただいて早々にメフィストの相手ですかね……
肩慣らしにはいいかもしれません。
「さあ、行きますよ、メフィスト。
昔のように稽古をつけてあげましょう」
私は亜空間に置いてある三叉の槍を取り出し、構えました。
「ワタシもあれから強くなりました。
それに、これは稽古ではなく決闘です。
殺すか殺されるかです。
稽古とは違うのです」
メフィストも持っていた二又槍を構えました。
「確かにそのようですね。
稽古をつけていたころとは違うようです。
ただ私もお嬢様の前で負けるわけにはいきません」
構えから、踏み込んで槍をメフィストの体に向けて打ち込みます。
しかしメフィストも同時に打って出てきました。
お互い寸前のところでかわします。
「ほぅ、これを避けますか。
そうでなければ面白くありませんね、メフィスト」
「あなたももう少し真剣にやってください。
これは決闘だといいました。
今のワタシはあなたより強いです」
メフィストが言うのもあながち嘘ではなさそうです。
私が封印されてからも研鑽してきたのでしょう。
それに比べて私の方は……
封印で動いていないので、体がなまってしまっています。
なので、苦戦はするかもしれませんがね。
「ハァーッ、ハァーッ、ハァーーーッ」
メフィストは間髪入れずに私に向かい槍を打ち込んできます。
鋭い突きではあります。
ギリギリのところで躱したりいなしたりでなんとか当たらずにいます。
このまま躱し続けるのも厳しそうなので、打って出たほうがよさそうです。
「のぅ、そう言えば、あのメフィスト……とか言う奴。
言葉遣いが変わってないかのぅ……
『私』が『ワタシ』になったような気がするのじゃが……」
あの、お嬢様……
私が戦っているのに、そこを気になさるのですか……
「ゾルダ……
それは黙っていればいいところだから、気になくてもいいじゃん。
察してスルーしないといけないところ」
おっと、お嬢様のお戯れはアグリ殿にお任せしておけばいいですね。
こちらに集中しないといけません。
私も期を窺いながら、反撃に出ます。
「ハッ、ハッ、ハーッ」
素早く十数発打ち込みましたが、すべて受けられてしまいました。
やっぱり封印の影響でしょうか……
以前ほどの鋭さはないように思います。
「あなたは……あなたは変わらないです。
あの時とちっとも変わらない。
強さも何もかもです。
ワタシは……ワタシは……あれから強くなった。
そして、今日あなたを超えるのです」
「越えられるものなら超えてみてください。
私もメフィストには負けるつもりは毛頭ないです」
互いに突きの応酬が始まりました。
相手の突きを槍先で逸らしたり、身体を少し動かしてギリギリのところで躱したりしました。
腕や頬、足などには無数のかすり傷が出来てきました。
ただここで引くわけにはいきません。
さらにスピードアップして攻撃の手を緩めません。
メフィストもさらにスピードを上げてきているようです。
「なぁ、ゾルダ。
お前の仲間たちで武器を使う奴っていたんだな。
てっきり魔法ばかり使うのかと思っていたよ」
今度はアグリ殿ですか。
私たちをなんだと思っているのでしょうか。
「まぁ、ワシとマリーはこれまで武器使っていないからのぅ。
だからと言って、使えないわけではないぞ。
一通りの武器はマスターはしておるからのぅ。
魔法の方が効率がいいから使っているだけじゃ」
「マリーも一通り使いこなせますわ。
ち……じゃなかった、セバスチャンに教わっていますから」
「えっ!
そうなの?
だったら、俺も教わりたいなぁ」
こちらで真剣に勝負をしているところなのに……
アグリ殿も含めてのんびりしていますな。
「アグリ殿、それはまたの機会に」
メフィストの攻撃を躱しながら、そう答えたのですが……
それが気に障ったようです。
メフィストが怒り始めました。
「あなたは……
いつもいつもそうだ。
そうやってワタシのことは片手間にしか見ていない」
「おや……
そうでしたかな。
私はいつでも真剣ですよ」
「だったら、こっちを見て戦え!」
ますます鋭さを増すメフィストの槍。
残像が残るような素早さで私に打ち込んできました。
ちょっとさすがにこれは躱しきれません。
左の太ももに直撃してしまいました。
「うぐッ……」
「どうだ!
これが今のワタシの実力だ」
メフィストは勝ち誇った顔でこちらを見ます。
ちょっと油断してしまいましたね。
「お見事です。
私を傷つけられるほどに成長したことは喜ばしい限りです」
「強がりを言うな。
これであなたがワタシに勝てないことはわかっただろう。
俺は強い、強くなったんだ!」
まぁ、以前の稽古中は私に傷一つ追わせられなかったのだから、これぐらいで満足するのでしょう。
「やはり言葉遣いがいけませんね。
それにこれぐらいで喜んでいるようでは……
徹底的にやらないとと教えたはずですよ」
魔力の出力を上げた私は力を込めて一撃を放ちます。
「ランドスピアー」
槍先からゴツゴツし尖った岩が無数に出てきた後に、メフィストの身体に襲い掛かります。
メフィストもさすがにこれは躱しきれずお腹に直撃をしていました。
「うぁーーーー」
メフィストは後方に吹き飛ばされていました。
「メフィスト、あなたは勘違いしています。
あなたの稽古をつけている時は、三割程度の力しか使っていませんよ。
本気を出したら、死んでしまいますからね」
「なっ……なんだって……」
メフィストはやっぱりわかっていませんでしたね。
そこも見抜けるようにならないと、強くはなりません。
強い者は無駄な戦いはしないものです。
「あなたは確かに強くなりました。
ただ、それでも私には敵いません。
本調子ではない私の足元にも及ばないでしょう」
「くそ……
ゼド様は……そんな奴らを敵に回そうとしているのか……」
「ゼド様はもしかしたら、私たちの力をわかっていて、あなたを送り込んでいるかもしれません。
あなたでは敵わないとわかっていて……」
もう少しゼド様も側近にはお優しくあるべきだとは思うのですが、冷酷非情ではありますからね。
そこは魔族の王はこうあるべきと先々代の魔王様が教えられた影響なのですが……
その点、お嬢様は御父上の教えからはかけ離れた魔王だったのかもしれません。
「嘘だ……嘘だー
ゼド様は……ゼド様は私の力を買ってくれていたはずだー」
「ゼドの奴は先々代の魔王の教えを色濃く受け継いでいたからのぅ。
ワシは全くじゃったから、そこが気に食わなかったのかもしれないのぅ」
お嬢様は多少はゼド様のことを気にしていらっしゃるのかもしれません。
ただお嬢様はお嬢様のやりたいようにやられればいいとは思います。
「このままでは……ゼド様に申し開きが立ちません。
かくなる上は……」
メフィストはこのままあっさりと負けを認めるのかと思ったですが、まだ気が済まないようですね。
私の目の前から消えたと思うと、アグリ殿の目の前に現れます。
「こいつが一番弱い。
少なくともこいつの首を持って帰れば……」
そう言うとアグリ殿に襲い掛かっていきました。