ゼド様のご命令は絶対ですが、少々荷が重いというかなんというか……
前魔王のゾルダ様やマリー様の実力は十分存じ上げています。
確かに封印が解けたばかりとは言え、私の実力でどこまで対抗できるかは心配ではあります。
まだ力が戻り切っていないことを願うばかりです。
私もあれから強くなったとは言え、若干不安はあります。
二人ともは厳しいでしょう。
どちらか一人、特にマリー様の方を片付けられればまずは成果として申し分ないはずです。
マリー様にターゲットを絞り、その後は撤退すると言うのが合理的な戦略でしょう。
そんなことを考えながら、お二人の居場所を探していました。
ラヒドに居たことは連絡を受けているので、そう遠くには行っていないでしょう。
その辺りを探していると、大きな反応が1つ、2つ……3つ?
あの魔力の反応であれば、ゾルダ様とマリー様ではあるのでしょうが、もう一つはいったい……
急いで感知した方向に手下ども数十人と向かいます。
しばらく飛んでいると姿が見えてきました。
あの一行に間違いなさそうです。
追いつき、その一行の前に立ちふさがると、深々とお辞儀をさせていただきました。
「お久しぶりです、ゾルダ様とマリー様。
ゼド様のご命令です。
この場から消えていただきます」
挨拶を終え、頭を上げるとそこには……
な……何故、あの人がいるのでしょうか?……
「誰じゃ?
ワシは知らんのじゃが……
マリーは知っておるのか?」
ゾルダ様は私を存じ上げていないようです。
「あっ……はい。
多少は知っていますわ。
ゼドっちの近くにいた方だったと……
それよりか……
セバスチャンの方がよく知っているはずですわ」
「そうなのか、セバスチャン。
お前の知り合いなのか……」
「はい、お嬢様。
知り合いと言うかなんと言いいますか……」
私が二人より気になった男は、なんとも言えない顔でこちらを見ていました。
「何故、何故あなたがここにいるのですか?」
思わずその男に向かって声が出てしまいました。
ゾルダ様やマリー様の復活は聞いていましたが、あの人まで復活しているとは初耳です。
「何故と言われてもですね……
お嬢様に助けていただいたとしか言いようがないですが……
しかし、久々に会ってその言いようはなんでしょうか。
また一から教育する必要がありますかね」
そう、この人は私をゼド様の側近に育てるべく指導をしていた男だった。
「あなたが復活しているとは聞いていませんでしたので、動揺してしまいました。
大変申し訳ございません」
「そうですね。
誤りがあったのなら、すぐに認める。
大事ですねと教えました」
あの人は全くもって前から変わっていないです。
こういう厳しい指導は何度も何度も受けていました。
あの指導が今も息づいているのは確かですが、今は敵対をしている人。
この方も倒さないといけない相手ということではあります。
しかし、大分厳しい状況ではあります。
想定していた二人ではなく三人になっています。
どうここから立て直すか……
ただこの男は復活したばかりのはず。
まずは戦果としてはこの男を倒すということが一番手っ取り早いかもしれません。
「なあ、ゾルダ。
あの様子だと、セバスチャンはあの男を教えていたって感じかな?」
「それをワシに聞くのか?
セバスチャンに直接聞けばいいのではないかのぅ」
急に話始めたこの男が勇者ですかね。
あまり強そうには見えないですが……
「アグリ殿、お察しの通りです。
この男、メフィストは私がゼド様のお世話を出来るようにと育てた者です。
それがお嬢様の前に立ちはだかるとは、以ての外です」
「くっ……
確かにあなたに育てられたが、今はゼド様の側近でもあります。
主の命令は絶対だと教えたのもあなたですよ」
「確かにその通りです。
であれば、お嬢様を消すという命令には逆らえませんね。
私もお嬢様を守る立場でありますから、ここは戦いは避けられませんね」
師であるあなたと戦わざるを得ないのは仕方ないです。
私もゼド様の部下です。
主の命令には逆らえません。
なんとしても成果を上げねばなりませんから。
「たとえあなたが立ちはだかろうとも、私は……私は戦わなければならない」
「と言うことでお嬢様、私目が相手したいと思いますが、よろしいでしょうか?
私の弟子の不始末は、私自身がとらねばと思います」
「うむ。
セバスチャンに任せたのじゃ。
ワシらは手を出さんから、1対1でケリをつけるのじゃ」
「はっ、仰せのままに」
1対1になったのは、私としても好都合です。
あの方も復活したばかりですから、なんとでもなりそうです。
勝ち目が出てきたかもしれません。
ここはあと一押しして……
「私からもゾルダ様にはお願いがございます。
あなた方に絶対に手を出さないでいただきたい。
仮にセバスチャンを私が倒すことになってもです」
「相分かった。
ここは決闘ということで、ワシもマリーも手を出さん。
まぁ、セバスチャンが負けるとは思えんがのぅ。
お前らが連れている部下たちも手出しは許さんぞ」
「おいおい、ゾルダ。
いいのか?
俺も含めて4人で相手したほうが……」
勇者と思えないような発言をしていますね。
ただ戦略的には正しいとは思います。
圧倒的にあちらの戦力の方が上ですから。
そのためにも、こちらが勝てる確率が高い1対1で進める必要があります。
「あのなぁ、おぬし……
セバスチャンがあそこまで言っておるのじゃから、任せればよい」
「大丈夫なのかなぁ……
復活したばかりだから、ちょっと心配ではあるんだけど……」
勇者はこちらの状況を理解しているようですね。
そこに勝機を見出しているこちらのことを。
「アグリ殿、ご心配には及びません。
このセバスチャン、そこまで衰えてはおりません」
「と言うことじゃ。
では、ワシが立会人として、おぬしらの決着を見届けてやるのじゃ」
こういうところはゾルダ様はきっちしている。
大変ありがたいなと思います。
「ゾルダ様、ありがとうございます。」
「お嬢様、ありがとうございます。」
ほぼ同時にあの方と共に声が出てしまいました。
つくづくあの方の教えが身についているのだなと実感します。
「それはいいのじゃが……
お前らのその口調、なんとかならんのか。
まったく同じで区別がつかん。
たぶん、読んでいる奴らもわからんぞ」
「ゾルダ……
あのさ、そういうメタなことはここで言わないの。
わかるように工夫するのが作者の力量で……」
「メタとはなんじゃ?
作者とは誰のことじゃ?
お前も訳分からんことを口走っておるではないか!」
…………
そんなことより、早くあの人と戦わせていただけないでしょうか……