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第86話 何故か再び首都へ ~アグリサイド~

また変な人が増えました……

今度は盾から出てきた執事風の男です。

自己中な元魔王の女。

ゴスロリ風ロリ顔で元魔王にべったりな元四天王の女。

そして、一番きちんとしてそうだけど、やっぱり魔族的な考えが酷い元四天王の男。

何この面々は……


勇者ならもっとこう……

暑く燃え上がる心を持つ戦士!

癒し系の笑顔がまぶしい僧侶!

言葉遣いは荒いが頼りになる魔法使い!

どこかのゲームに出てきそうな奴らが仲間になるって相場が決まっているはずなのに。

なんで俺はこんなメンバーで魔王討伐に向かっているのか……


「おい、おぬし。

 何か良からぬことを考えているな。

 顔に出ておるぞ」


ゾルダは俺の顔を見て、何かに気づいたようだった。

俺は慌てて


「はぁ……

 ソンナコトハナイヨ……」


ため息は出たものの、感情が出ないように抑揚をつけずに答えた。


「アグリもいろいろあるのでしょう。

 ほら、先ほど来た国王の使いからの話とか……」


マリーは一応気を使ってくれているようだけど、そのことを考えていた訳ではない。

そのこともそのことで憂鬱ではあるけど……。


「そうです。

 私どもが国王の下へ行く必要はありません。

 急いで東方面へ向かいましょう」


セバスチャンはゾルダの代弁をするがのごとくアスビモのいると言う東へ向かうことを進めてきた。


「そういう訳にもいかないしね。

 急ぎたいのはわかるけど、国王の話も無下には出来ないし……」


東へ向かう予定だった俺たちは急遽首都であるセントハムへ向かうことになった。

それはいつも国王の使いでお金を届けに来てくれる方々からの話からだった。


『国王様が東へ向かうのであれば、少し遠回りになるが、

 是非ともセントハムへ顔を出してほしいとのことです。

 今までの戦果も大変お悦びで、お連れの方々も含めて歓迎をしたいとのことです。

 歓迎の宴も催したいので、是非にとのことです』


その言伝を聞いて、乗り気になったのは意外にもゾルダだった。


『のぅ、お前ら。

 宴ではおいしい酒が飲めるか?』


『はい!

 国王様が国中の良いものを集めて宴を開くとのことでした』


『うむ、それはいい心がけじゃ』


ゾルダは嬉しそうにうなづいて答えた。

ゾルダは満足げにしているが、いや、これはゾルダの歓迎じゃないだろ。

と心の中で突っ込んでいた。


『……まぁ、アスビモのことは気になるがのぅ……

 こっちもこっちで気になるのじゃから……

 こう、せっかく準備しておると言うのじゃから勿体なかろう……

 少しの遠回りぐらいしても、バチがあたらんじゃろぅ……』


ゾルダにしては歯切れの悪い言い回しだ。

ようはいい酒が飲みたいってことか。


『まぁ、いいんじゃない。

 ずっと出ていったままで、国王にも報告できてないし。

 アウラさんやフォルトナのことも気になるし。

 セントハム経由してシルフィーネ村から東へ抜けていけばいいかもね』


『おっ、そうじゃそうじゃ。

 あの小娘たちも気になるしのぅ』


ゾルダはいい理由を見つけてくれたとばかりに、俺の言葉に乗っかってきた。


『二人はいい?

 それで……』


俺はマリーとセバスチャンにも確認をした。


『マリーはねえさまがいいのであれば構いませんわ』


『お嬢様のお心のままに』


なんとなく二人に聞いた俺がバカだったというかなんとういか。

そりゃ、二人とも上司の言うことに歯向かわないし、そうなるよね。


『ただ私は人族とは慣れあうつもりはございませんので、宴は参加いたしません』


ボソッとセバスチャンがそう言った。

そこは魔族としてのプライドがあるみたい。

それを聞き逃さなかったのか、ゾルダは


『おい、セバスチャン!

 そんなことは些細なことじゃ。

 人族とか魔族とかそんなことは今はどうでもよかろう。

 その堅苦しさをなんとかせい』


『はっ。

 大変申し訳ございません。

 しかし、魔王としての威厳が……』


『ワシは今は魔王ではないのじゃ。

 いいではないか。

 セバスチャンも参加するのじゃ。

 これは命令だからのぅ』


ニヤリとしながらゾルダはセバスチャンにそう伝えたのだった。

セバスチャンは若干苦笑いしながら


『お嬢様の命令とあらば』


と答えていた。


『楽しみじゃのぅ』


そう言うとゾルダは高笑いをし始めた。

そこまでしてお前は酒が飲みたいのか……


……と言うのが昨晩の出来事だった。

そして今はセントハムへ向かう途中だ。


おいしい酒が飲めると言って、ゾルダは上機嫌だ。


「あのじじいはどんな酒を用意してくれるかのぅ。

 楽しみじゃ」


セバスチャンは平静を装っているが、内心はあまり乗り気ではないのだろう。


「国王も下手な酒を用意するようであれば、ただでは済まさないですよ。

 お嬢様が気に入るものを準備してなければ……」


「セバスチャン……

 あの、くれぐれも殺したりしないでくれよ……」


今はゾルダの行動よりセバスチャンの方が気になる。

でも無理もないか。

今まで魔王の下で働いていた人だ。

急に人族の中に入るのも戸惑いがあるのだろう。


「マリーも楽しみにしていますわ。

 人族のそういう煌びやかな宴に出てみたかったから……」


マリーも気持ちが浮かれているようだ。

その辺りはまだまだ子供という感じがする。


そういう俺はと言うと……

堅苦しいところは苦手だ。

前の世界ではそういうところには縁がなかったから実感したことはないが……

その分、余計に堅苦しく感じてしまう。

作法とかそういうのがないのか、粗相をしてしまわないかが心配で、げんなりする。


「ほれ、また浮かぬ顔をしておるぞ、おぬし」


ゾルダはまた俺のことが気になるのか、声をかけてきた。


「ゾルダはさ、こういうのは経験があるの?

 俺はないから、緊張するよ」


「うーん……

 そうじゃのぅ……

 ワシも経験があるかと言われるとないかものぅ。

 魔族としての経験はあるが、人族のは初めてじゃからのぅ」


初めてでもあれだけ喜んでいられるのか……

まぁ、ゾルダならそういう細かいことは気にしないか……


「魔族でもそういうのはあるのか?」


「ありますわ。

 マリーも出たことがありますが、人族とそう変わりはないのではと思いますわ」


えっ、そうなの?

意外に秩序あるな……

なんかもっとこう魔族はお互いの足の引っ張り合いでギスギスした感じなのかと思っていたけど。


「そうですね。

 人族と大した差はないかと。

 ダンスをしたりはしませんが、飲食しながら歓談することはしばしば行われていました」


セバスチャンが人との違いを説明してくれた。

こういうところはしっかりとしている。


「なら三人ともそれなりに慣れているってことか……

 未経験なのは俺だけ……

 緊張するなぁ……」


深くため息をした後に、さらに憂鬱になる。


「始まる前にそんなことを気にしても仕方ないのじゃ。

 辛気臭いのぅ。

 意外に何とかなるのじゃ」


ゾルダが俺を励ましてくれているのか?

なんか雪でも降りそうだ。

それでも、気にしてくれているってことかな。


「まぁ、わかったよ。

 今はあまり考えずにおくよ」


「そうじゃ、そうじゃ。

 それがいいのじゃ」


ゾルダはそう言うと豪快に笑った。

俺も釣られて笑っていた。

他の二人もそのやりとりを見て微笑んでいた。


そんな他愛もないことを話していたのだったが……

次の瞬間空気が一変した。

ゾルダやマリー、セバスチャンから笑顔が消え、戦闘モードに入ったからだ。


「どうかした?」


「うむ、敵襲じゃのぅ」


「マリーも感じますわ。

 いつもの感じではないですわ」


「あの感じは……

 ゼド様の側近でしょうか……

 私は覚えがある感覚です」


三人とも魔力を感じたのか、足を止め、向かう方向とは反対側を向いた。


「えっ、えっ……

 俺、何も感じないんですけど……」


俺もそれなりに魔力は感じるようになっていたけど、一向に感じない。

三人が感知するぐらい強い魔力なら感じても良さそうなのだが……


「だいぶ先ですわ。

 ただスピードはあるので、間もなくこちらに着きますわ」


しばらくすると、俺にも魔力がわかるぐらいに近づいてきたと思ったら……

一瞬で目の前に一人の男が数十人の魔族を従えて現れた。


「お久しぶりです、ゾルダ様とマリー様」


男は丁寧に挨拶をすると、その場で深々とお辞儀をした。


「ゼド様のご命令です。

 この場から消えていただきます」

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