あのメフィストとやらは何をしておるのだ……
ワシが立ち会って、1対1でセバスチャンと戦っておったろうに。
何故、あやつの目の前に立っておる。
「お前……あやつに何をする気じゃ!」
「ハ……ハッ……ハハハ……
ワタシは結果を出さないと……
ゼド様に……ゼド様に……」
もう正気ではなさそうじゃな。
周りに引き連れていた奴らも殺気立ち始めておるのぅ。
「メフィストとやら、セバスチャンとの1対1はどうなったのじゃ?
歯が立たないからと言って矛先を変えるのか?
お主のプライドはどこへ行ったのじゃ!」
「ゼド様に……ゼド様に……いい報告をしなければ……」
もう目もうつろじゃのぅ。
目の前のことより、ゼドのことしか見えておらんようじゃ。
あいつもそこまで側近を追い詰めなくてもよいのにのぅ……
「お前の方が先に約束を反故にしておるのじゃからな。
マリー、セバスチャン、周りの奴らは任せるぞ」
「はい、ねえさま。
任せてくださいませ」
「仰せのままに」
二人はメフィストとやらが従えていた数十名を抑え込みに行ってもらった。
ワシは、あやつを助ける。
「なんで急に俺のところに来るんだ?」
あやつも混乱しておるようで、むやみやたらに剣を振り回しているだけじゃった。
もう少し冷静に行動したらどうなのじゃ……
「そんな攻撃じゃ当たるもんも当たらんのじゃ。
気をしっかり持てぃ」
じりじりとあやつに詰め寄るメフィストとやら。
まずはそいつを止めないといかんのぅ。
ここから魔法をぶっ放してもよいのじゃが、それだとあやつも巻き込まれてしまう。
ワシはあやつとメフィストとやらの間に割って入ろうと動き始めた。
……が、その時、ワシの目の前が真っ暗になり、視界が閉ざされてしまったのじゃ。
「???
何じゃ、急に」
視界は遮られておるが、周りの様子は伺えた。
他の3人には変わった様子がないようじゃ。
マリーやセバスチャンはメフィストとやらのお供も蹂躙していっておる。
あやつもまだメフィストとやらに抵抗をしておる。
でも、その動きは何やらだいぶ遅く感じるのぅ……
「どうやらワシだけのようじゃな……」
冷静になり、周りを窺っておると、目の前に何かが現れおった。
「…………」
それは以前にも見た覚えがあるものじゃった。
「勇者の怨念じゃな」
あの剣の中に共に封じ込められておる奴らが、何故今邪魔をしに来るのじゃ。
「お前は……勇者を助けるのか……」
は?
何をいまさらそんなこと聞いておるのじゃ。
「邪魔しに来ておるのはお前じゃろうに」
「何故……勇者を助けるのか……」
「何故て言われてものぅ……
あやつが居なければワシの封印は解けんからじゃ」
「それだけか……
それだけなのか……」
この勇者の怨念は鬱陶しいのぅ。
「それだけに決まっておろう。
それ以外何があるのじゃ」
「お前は……協力者のはず……
私利私欲のために……
勇者をつかうとは……」
複数の手が伸びてきて、ワシの身体を押さえつけ始める。
「あのなぁ……
今、目の前でその大事な勇者が殺されかけておるのじゃぞ。
早くワシを解放せい」
「いずれお前は……
勇者の前に立ちはだかるもの……
勇者のために……」
あぁ、もうこいつらは勇者のためにとかうるさいのぅ。
それよりか今の状況を考えろ。
「このままではあやつが……
アグリが死んでしまうのじゃ。
……封印とか関係はない。
今は、アグリはワシの仲間じゃ。
お前ら邪魔じゃ。
はよ、どけい」
「…………」
何があいつら怨念に通じたのかがわからんが……
ワシを抑え込んでいた手はなくなり、視界も元に戻っておった。
急いでワシはメフィストとやらの近くに行くと、思いっきりぶん殴った。
「クッ……」
メフィストとやらは思いっきりすっ飛び、地面に這いつくばっていた。
「おい、メフィストとやら。
あやつに手を出したな。
ワシを怒らせたな」
「ヒィ……ヒィ……
お……お助けを……」
恐怖のあまりに顔が引きつっておる。
まぁ、このまま生かして帰してもよいのじゃが……
どのみちゼドに殺されるじゃろう。
「この場で死ぬか、ゼドに殺されるか……
どっちか選ぶのじゃ」
黒い炎を両手に溜め込み、メフィストとやらに選択を迫った。
「ワタシは……
ワタシは……ここでは死にたくない……」
逃げ腰になるメフィストとやら。
名誉の戦死は選ばないようじゃな。
「そうか……
それであれば、ゼドの下へ帰るがいい。
そしてゼドに伝えるのじゃ。
小物をよこすなと」
「ヒィ……ヒィ……ヒィ……ヒィ……」
慌てて立ち上がったメフィストとやらは一目散に逃げていった。
「マリー、セバスチャン、そちらはどうじゃ」
「あらかた片付きました」
「問題ありませんわ、ねえさま」
メフィストとやらの従者はほぼ倒れていた。
残った数名はメフィストとやらと共に逃げていった。
「お嬢様、後は追わなくてもいいのですか?」
「あぁ、構わぬ。
逃げ帰った先でも生きてはいけんじゃろぅ」
一時的な生でも、そちらを選んだのじゃから、ワシからはどうこうは言わんでおこう。
「それにしても、おぬしなぁ……
もう少しなんとかならんかのぅ……」
勇者がそれでいいのかと思うのじゃが……
「俺だって頑張っているんだって。
敵が急に強くなり過ぎなんだよ。
普通は徐々に強くなっていくのが鉄則なのに……」
「普通とは何じゃ?
強い奴らはどこからでもビューっと飛んでくるぞ。
ヤバいと思ったら、叩き潰しに来るからのぅ」
あやつの普通とは何のことやらわからん。
他の世界ではそんな律儀に魔物が襲ってくるものなのかのぅ。
「そう言えば、お嬢様。
アグリ殿を助けに行く際に、一瞬間があったように思えましたが、いかがなさいましたか」
「あぁ、あれな……
何でもないぞ」
やはりあの時、周りから見ると一瞬だったようじゃな。
しかし、よくわからんのぅ、あの勇者の怨念どもは……
今回も急に出てきて急に手を引いたのじゃ……
勇者がピンチの時に出てきても助けが遅れるだけなのにのぅ。
本当に何を考えているかわからん。