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『プーと大人になった僕』

【作品情報】

原題:Christopher Robin

製作:2018年/104分/アメリカ

監督:マーク・フォスター

出演:ユアン・マクレガー/ヘイリー・アトウェル/ジム・カミングス

ジャンル:社畜応援系ファンタジー

(参考サイト:Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/)



【ざっくりあらすじ】

イギリスのサセックスで暮らす、100エーカーの森の愉快な仲間たちと仲良しのクリストファー・ロビン少年。

しかし彼はええトコの寄宿学校に入学するべく、故郷を離れることに。


別れの日にくまのプーさんに

「君たちのことは絶対に忘れないよ」

と雄々しく約束したクリストファーだったが……普通に忘れる。


というか、寄宿学校は鬼厳しいわ、早くに親父が死ぬわ、奥さんのイヴリンが身重の時に第2次大戦で徴兵されて数年帰ってこられないわ、半生が波乱万丈すぎて忘れるのもしゃーない。


ようやく戦争も終わり、ウィンズロウというカバンメーカーで働くことになったクリストファー。

これで平穏な暮らしを送れるかと思いきや、ボンクラ2代目社長のジャイルズから

「お前んとこの旅行カバン部門が業績クソだから、来週までにどうにかしろ。無理なら部下のクビを切れ」

と金曜日に言われる始末。週末、家族でサセックスに行くはずだったのにー!


もちろんイヴリンからは冷めた目で見られ、娘のマデリンにも落胆される始末。

家族との間に生まれた溝に、ションボリしつつも休日出勤をするクリストファーだった。


そんな彼のところに、見覚えのあるクマのぬいぐるみが現れた。

オッサンの声で喋って動く、どう見てもプーニキです。

「森の仲間たちがいなくなったんだ、助けてクリストファー」

過労死寸前のクリストファーにゆるーく頼み込むプー。


今、誰よりも助け(と休息)が必要なのはクリストファーなんすが!



【登場人物】

クリストファー・ロビン:

心の友であるプーを始めとした100エーカーの森のメンツから、何故か頑なにフルネームで呼ばれ続ける苦労人。

本人は今の自分を「オツムが弱くなって、ずっと迷子だ」と自嘲しているけれど、私から言わせれば海のように深くて広い心の持ち主です。

私が彼なら、プーがハチミツまみれの足で家を歩き回った瞬間、ヤツを捕まえて簀巻きにしてる。森の中で遭難しかけるまで、ヤツにブチ切れんかったクリストファーは聖人。


くまのプー:

社畜の神経を逆撫でることに定評のある、スローライフの体現者。相変わらず声がカッサカサ。

トータルではいいことを言ってるんだろうけど……クリストファーが吹っ切れるまで、つい「今すぐこの熊畜生を、土に埋めてやりたい」と度々思わされる。

ただトータルではいいことを言ってるし、少しくたびれた風情も可愛いので結局許せる。可愛いは正義。


イヴリン:

バスでクリストファーと運命的な出会いを果たし、戦時中もワンマン子育てをしながら夫の帰りを待ち続けたしっかり者の奥さん。

夫のことは愛しているし境遇もある程度理解しているけれど、仕事中毒になりつつあるので「コイツそろそろヤバいかも」とも思っている模様。


マデリン:

クリストファーとイヴリンの一人娘で、ちょいポチャの秀才ちゃん。

パパの教育方針により、普段は遠方の寄宿学校で寮生活を送っている。

子ども時代は結構穏やかだったパパと違って、なかなかアグレッシブで強か。あとあざとい。


イーヨー:

100エーカーの森の陰の気を一身に集めているであろう、悲観的で希死念慮の塊なロバちゃん。

幼い頃に観たきりなのですが、アニメ版では作中人?物の中でも異色枠だった気がするんだけど、実写版では悲しいかなクリストファーが「こっち側」にだいぶ食い込んでいるため、むしろイーヨーが一番共感できるまである。


ジャイルズ:

クリストファーの働くカバン屋さんの2代目社長。

その肩書きからも分かる通り、漂うポンコツ感。初登場時にディスプレイをしっちゃかめっちゃかにする数分間のシーンだけで、使えない男感を遺憾なく発揮している。



【感想など】

頑張れ、頑張れ、クリストファァァァー!


もうね、クリストファーがほんとに不憫……

自責ゼロで酷い目に遭いすぎ。

そしてそれをどうにか乗り切れてるから、更なるトラブルに遭遇するという悲しきスパイラルの当事者よ。


そんなこんなで人生の荒波どころか大時化おおしけに飲まれまくっても、妙にポテンシャルが高いためギリギリ耐えている、けれどお陰で夢も希望も休みもなくなったクリストファーの姿がね……社会人にぶっ刺さるのですよ……


だって帰宅時間が、推定21時18分ですよ!?

そして翌日も朝から休日出勤!

有給もなし!たぶん振替休日もなし!

国は違えど、やらされてることが『ゲゲゲの謎』の水木と同次元……昭和ってか、この時代の世界が怖いよう……


同じクマを主役に据えた、イギリスが舞台の児童文学原作の映画だけど、『パディントン』とは人間サイドの不憫さが段違いです。

あっちは幼気いたいけなパディントンの姿に「はわわ!」となったけど、こちらはうらぶれたオッサンの悲しい姿に「はわわ……」となります。


「プー、頼むからこれ以上クリストファーを追いつめてやらんといてー!死ぬから!」

と、画面越しに何度懇願したことか。


しかもブラウン家の家長こと、チャクラ開眼済みのヘンリーと比べて、クリストファーの堪忍袋の緒がちょっと引くぐらい頑丈だから余計に不憫。

寄宿学校やら従軍で、無駄に我慢強くなっちゃったんだろうねぇ……チャクラは開いてないし波紋の呼吸も習得してないけど、本人の忍耐力だけでズームパンチとか使えそう。


そしてクリストファーを演じているのが、私の愛するユアン・マクレガーさんだから余計に

「もういい!もういいから休んでくれー!」

と何度思ったことか。

ユアン・マクレガーさんと言えば純真無垢で開けっぴろげな笑顔も魅力の一つなのに、後半までその笑顔が封印されてるのも小憎たらしい演出です。


子供の頃のクリストファーが提唱し、そしてプーが今も守り続けてくれている

「何もしないことが、最高の何かを生み出す」

という理念はもっと広まってもいいと思うんだ。


実際、メンタルを病んでる時は下手に出かけたり、遊んだりせずに、何もしないのが一番の回復方法だと言いますし。

そんなわけで私もしばらくは、何もせずに虚空を見つめようと思います。

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