銃弾と剣閃、蹴撃と見切り、
ソラとクロの繰り出す悉くが、火花のように赤い十字架の丘でぶつかる中で、
クロが今日に至る迄の過去を聞いたソラは、
(クロ……!)
彼の心情を慮る。そんな中でも、
「
動揺を狙い撃ちするかのように、再びクロは刀を抜いた。それはソラの肩を斬り、ダメージとして加算される。
「くっ!」
ファントムステップで距離を置くが――すぐさま、オーシャンに放ったような距離を壊した一閃がやってくる。のけぞりながら躱し、周囲をファントムステップで、相手を攪乱させるように飛ぶ。
「――俺にもまだ、母さんに、出来る事はあったかもしれない」
だけどクロは、
「けど俺はもう、どうしようもなくて、アイさんに、相談するしか無くなって、……親戚の人にも相談して、母さんはおばあちゃんの所に、俺はアイさんに引き取られた」
淡々と己を語りながら、
「
ソラの足元を斬ってみせた。
「うわっ!?」
「ソラ!」
そのまま前のめりにこけるソラ、慌てて立ち上がろうとするが、
その鼻に、刀の切っ先が突きつけられていた。
「ク、クロ……」
「……あの時は、黙って引っ越してすまない、ソラ」
「……なんで、相談してくれなかったの」
「ソラ……」
「そんな、辛い事が、あったなんて」
この状態に追い込まれてまで、自分に気づかいをみせるソラに、クロは泣きそうになる。
だけどその涙を必死でこらえ、務めて冷静に、過去を語る。
「お前から――
「――夢」
「正義の盗みなんて存在しないなんて、言える訳が無いだろ、そう思う友達が隣にいて、怪盗になれるはずがないだろ」
「――僕はそれでも」
「俺は!」
クロは、
「ソラに、かっこいい怪盗になって欲しかったんだ」
もう、諦めてしまった、怠けてしまった。
ただただ
「かっこわるい俺みたいに、なって欲しくなくて」
だから、せめて託した。
羨ましい程に、嫉妬する程に、そして、
心の底から祝えるような、存在に。
――だが
「……クロの気持ちは解った、アイさんの言う事に従う理由はわかった、だけど」
それでも、納得出来ない事があって、
「だからって、レインさんのアカウントをBANするのはおかしいよ!」
それを叫んだ次の瞬間、
「グドリーのアカウントを
「――えっ」
思いも寄らなかった事を、クロは吐露した。ブレイズもオーシャンも、そしてキューティも目を見開く。
「グ、グドリーを?」
「自分から消したんちゃうの?」
「アイさんが――指示を?」
三人が驚きを見せる中で、クロは、
「ソラ、お前は知ってるだろ? 結果的にアカウントを消した事は、グドリーにとって良かったと」
「……そうは、言ってた」
「だから、お願いだ、信じてくれ、アイさんのやる事に」
「だったら理由を」
「理由なんかいらない!」
クロは叫ぶ。
「俺はアイさんを――母さんを疑わない!」
何度目か解らないその言葉に、再び、静寂が訪れるかに見えた。
だが、
「ははっ」
すぐさまそれを破る笑い声、それは、
「はは、あはは、あははははっ!」
「レ、レインさん?」
磔になったキューティ――レインの哄笑。刀をソラに向けた侭、クロに目をやる。
「疑わない、とはよく言えたものだな、ブラッククロス」
「――何」
「お前は疑わない、じゃない、疑えない、だろ?」
「……それがどうした、結局は同じだ」
「いいや、違うよ、お前の発言が本当なら、アイさんは――」
何も疑えないクロという子供を、
「ただ、利用しているだけの、人間のクズだ」
――その罵倒は
……彼女にとっても恩人であるはずなのに、その強烈な言葉は、
「何を、言ってる」
盲目なまでに
忍者の術といえば変化や分身等、魔法のようなものが浮かぶが、実際は話術による心理操作も含む、つまり今レインが仕掛けているものは、
――挑発
「そうか、そうだったのか! 私が恩人だと思ってた人は、そんなゲスだったのだな! 流石神の悪徒の発案者、ろくでなしに過ぎる!」
「お前、何を、そんな安い挑発に俺が」
「挑発、何を言っている! ただの真実!」
レインは――恩人への思ってもいない罵詈雑言で、己の心を軋ませながら、
「虹橋アイはお前を騙して利用してるだけの、偽善者だ!」
「――黙れ」
黒統クロに、
「
自分を、斬らせる。
――直接飛びかかってきた刃は
レインの体を斬って見せた、だが、
「なっ」
バグるだけで、
――完全に隙が出来たクロの背中をファントムステップで蹴り飛ばしたソラは
すぐにレインを、磔から開放した。
――だが
「がはっ!」
「レ、レインさん!?」
ソラはレインを抱えたが、様子がおかしい。ブレイズとオーシャンはメニュー欄がバグっているが、レインは、斬りつけられた場所がバグっている。
――VRでは痛みや苦しさは感じないはずなのに
レインはまるで、本当に辛そうに、苦しんでいる。
「……感情が昂ぶって、ズレてしまった、そんな結果になるとは」
「クロ……!」
「一度
再び刀を構えるクロを、ソラはレインを抱えながら、キッと睨み付ける。
だがその時、レインは腕の中で息を乱しながら、
「すまなかったな、クロ」
そう唐突に、謝った。
「アイさんに、酷い事を言ってしまって」
「――レインさん」
「……お前も辛かっただろ、お相子だ」
「そうか、なら――もう一つ謝る」
そこでレインは、アイテムボックスから何かを取り出す、それは、よみふぃのぬいぐるみ、だが、
「えっ」
それすらもバグっていた。かわいらしい造形の所々に、ノイズが奔り歪んでいる。
「――まさか!」
何をするかに思い当たった途端、クロスはレインに攻撃を仕掛ける。ソラはレインを抱えながら、ファントムステップで全力で避ける。
「レインさん、ログアウトを!」
「出来るなら、とっくにやってる、磔にされた時点から、私にその選択は奪われている」
「――そんな」
強制ログアウトなら解る、だが、強制ログインなんて聞いた事が無い。だが確かにその前提が無ければ、レインがこの空間に囚われていた理由にならない。
「でもこのままじゃ、クロにアカウントがBANされてしまいますよ!」
「――それだけですめばいいが」
「えっ」
レインは、辛く、苦しそうに息を弾ませながら、
バグったよみふぃのぬいぐるみを掲げた。
「
そう
「うおっ、なんだ!?」
「動きカクカクやけど!?」
よみふぃはまだ増え続ける。
「レインさん、何して」
「逃げろ、私を見捨てろ、お願いだ」
「そんなの」
「――ソラ」
レインは、ソラをみつめて、
バグった傷口から、ノイズを血のように溢れさせながら、
言葉を告げた。
「私はお前を――」
――だけど全てを言い終える前に
強制ログアウトを選択し、その姿を消した。
しかしレインとクロは残る――力の限界、バグったよみふぃのぬいぐるみを、全て消したレイン、その場で崩れる。
……それに刀を下げた侭、近づくクロ。
「逃がしたと言うのか?」
「ああ……」
「何の意味がある?」
「――それはお前が解ってるだろ?」
レインはクロに斬られた時、体そのものを傷つけられた時、
グドリーと同じく、
――死の冷たさと熱さを感じていた
「お前の
それはつまり、
単純に考えれば――
「
死に細るような、吐息混じりのレインの問いかけに、
暗殺者は、答えない。