8月13日、朝の7時。
アイズフォーアイズ社とZERO社のスタッフ達が、屍のように、地べたに眠りこけている、アイズフォーアイズ本社のセキュリティルームにて。
「ビンゴォォォォ!」
決戦当日の朝になって、ようやく、自らの手でレインの居場所を特定した灰戸ライドは、そのまま床へと直に仰向けで倒れた。
「寝る!」
そして、そう宣言したが、
『寝るなし』
と、
『あんたが寝ると、私も寝ちゃうんですけどぉ……? 目は閉じててもいいけどガチ寝はするな』
「解ったぁぁっ!」
ケースバイケースであるが、人は目を閉じて、体を横たえているだけで、実際に睡眠する際の60~70%の休息効果を得られるというデーターがある。灰戸は脳を休ませつつ、ジキルに連絡を託す事にした。
ジキルは、
現実から、VR空間への移行。
――やってきたのは、マドランナの店のLustEden
歓楽街エリアとして有名、だが、今は朝の設定だから、空は青空に包まれていた。夜の街の朝となれば人は少なく、あっても、
店内に進めば、そこには既に、今日の
「おつかれだしー、場所、やっと特定出来た」
「マジか!」
ジキルの言葉に、真っ先に反応したのはアリク、
「うん、ただ今は乗り込めないし、キッカリ22時にならないとダメ」
「えー、そういう設定やったら、最初からうちらに場所を教えとけばええのに」
挑戦状を叩き付けておきながら、場所を見つけ出すようにいい、いざ見つけても時間はきっちり守られている。謎の回りくどさに、アウミは当然の疑問を放つが、
「――そういう言い方しか、出来なかったのかしら?」
尻尾を揺らめかせて、この店のオーナーマドランナが呟く。どういうことさ? と、聞くアカネに代わって、その妹であるサクラ、
「虹橋アイさんは、久透リアの言いなりです、直接的にレインさんを助ける為の行動が出来ない」
「じゃあ何さ、アイさんは、怪盗にレインさんを助けてもらう為に、”わざわざめんどくさい方法”をとらなきゃいけなかったって事?」
「マジで……? その発想は無かったんですけど」
ジキルも、そして灰戸も、クロスが挑戦状を叩きつけてきたのは、久透リアの計画の、障害となるであろう人物を誘き寄せて、一網打尽にする為だと思っていた。
「それガチだったら、アイって今、久透リアに逆らってるって事になるし……ええ……?」
「リアの希望に従う範囲で、自分の希望を押し通したって事やろか」
「不利な契約にみえて有利な契約、なんか頭がいい漫画で見た事ある!」
「現実でも割とある事よ?」
ジキル、アウミ、アリク、マドランナ、その4人に続いて、アカネとサクラが、
「どっちにしろさ、あたい達がやる事は代わらないだろ?」
「怪盗スカイハート抜きに、ブラッククロスというチート越えをやっつける事ですね」
ブラッククロスを倒したとて、レインが助かる事は約束されていない。
それでも、クロスのデーター破壊グリッチであるならば、そんな
「俺達がやる事は、クロスをぶっ飛ばして!」
「レインさんを死なへんように、
矛盾した発言をアウミをするが、おーっ! と盛り上がる一同、であるものの、
「ネガティブOK?」
ジキルがきっちり、水を差す。
「怪盗無しで、あの刀使い、倒せる気しないんですけど……?」
キッチリ、シーンと静まりかえる。
「まぁ、怪盗が来ても、勝てるかどうかわかんないですけどぉ、私らじゃ無理ゲーというかぁ」
その
「――俺とアウミも、最初、シソラに頼ろうとしてたんだよ」
アリクとアウミは、スカイを励ましに行った時、一緒にレインの為に戦おうと誘った。
だが、そこでスカイは、泣きながら首を振った。彼はVRMMOにログインせず、現実世界のレインの傍に居る事だけを選んだ。
「うちら、その後、気付いたんよね――今までずうっとシソラに頼ってばっかやった」
「スカイゴールドが怪盗シソラの頃からだ」
「せやけど、シソラかって人間よ、なんもかんも放り出して泣きたい時もあるよ」
「励まして、後悔するぞとか言って、無理矢理でも戦わせるのって、なんかちげーよなって思った」
「自分一人で、立ち直らへんとあかん時もあると思う、せやけど」
――今は、今この時は
「俺達は、怪盗である前に、シソラの友達だ」
「今は友達が、立ち直るまでの時間を作りたいんよ」
それが、二人の決意。
「……っていう事をさぁ、レインの母ちゃんに言われた訳なんだけどな!」
「あれほんに気まずかったよねぇ!」
そして、唐突にテンションをあげるアリクとアウミ、そこら辺りの事情は良く解らないが、なんかかっこいい事を言ったアリクに、思わずフライングだっこしたアカネを見て、角をビキビキと凍らせるサクラ。
それに対してジキルは、
「いやいやいやいや、何いい感じの話にしてるし? 怪盗を無理矢理にでも呼ぶべきっしょ?」
「仕方無いわよ、こうなったら、
「マジで言ってる?」
「きっとなんとかなるわよ、それに」
心底つらたんな表情をするジキルに、マドランナはくすりと笑う。
「切り札が、無い訳じゃない」
彼女の視線の先には、壁に飾られている、
予告状が書かれたハートの7のトランプがあった。