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7-4 君の涙を守る為

 8月13日、朝の7時。

 アイズフォーアイズ社とZERO社のスタッフ達が、屍のように、地べたに眠りこけている、アイズフォーアイズ本社のセキュリティルームにて。


「ビンゴォォォォ!」


 決戦当日の朝になって、ようやく、自らの手でレインの居場所を特定した灰戸ライドは、そのまま床へと直に仰向けで倒れた。


「寝る!」


 そして、そう宣言したが、


『寝るなし』


 と、ジキル主人格につっこまれる。


『あんたが寝ると、私も寝ちゃうんですけどぉ……? 目は閉じててもいいけどガチ寝はするな』

「解ったぁぁっ!」


 ケースバイケースであるが、人は目を閉じて、体を横たえているだけで、実際に睡眠する際の60~70%の休息効果を得られるというデーターがある。灰戸は脳を休ませつつ、ジキルに連絡を託す事にした。

 ジキルは、仮想の少女中身はライドは、ARでの現実世界への干渉を終えて、そのままアイズフォーアイズにログインする。

 現実から、VR空間への移行。

 ――やってきたのは、マドランナの店のLustEden

 歓楽街エリアとして有名、だが、今は朝の設定だから、空は青空に包まれていた。夜の街の朝となれば人は少なく、あっても、ログインしたまま路上に眠りこけている現実ではちゃんとベッドで寝てるプレイヤーがころがっているだけ。それに目をくれる事もなく、ジキルは、LustEden店の前の人狼とダークエルフに挨拶をしてから、扉を開けて、店へと入った。

 店内に進めば、そこには既に、今日の決戦の為のメンバースカイのフレンド達がいた。


「おつかれだしー、場所、やっと特定出来た」

「マジか!」


 ジキルの言葉に、真っ先に反応したのはアリク、


「うん、ただ今は乗り込めないし、キッカリ22時にならないとダメ」

「えー、そういう設定やったら、最初からうちらに場所を教えとけばええのに」


 挑戦状を叩き付けておきながら、場所を見つけ出すようにいい、いざ見つけても時間はきっちり守られている。謎の回りくどさに、アウミは当然の疑問を放つが、


「――そういう言い方しか、出来なかったのかしら?」


 尻尾を揺らめかせて、この店のオーナーマドランナが呟く。どういうことさ? と、聞くアカネに代わって、その妹であるサクラ、


「虹橋アイさんは、久透リアの言いなりです、直接的にレインさんを助ける為の行動が出来ない」

「じゃあ何さ、アイさんは、怪盗にレインさんを助けてもらう為に、”わざわざめんどくさい方法”をとらなきゃいけなかったって事?」

「マジで……? その発想は無かったんですけど」


 ジキルも、そして灰戸も、クロスが挑戦状を叩きつけてきたのは、久透リアの計画の、障害となるであろう人物を誘き寄せて、一網打尽にする為だと思っていた。


「それガチだったら、アイって今、久透リアに逆らってるって事になるし……ええ……?」

「リアの希望に従う範囲で、自分の希望を押し通したって事やろか」

「不利な契約にみえて有利な契約、なんか頭がいい漫画で見た事ある!」

「現実でも割とある事よ?」


 ジキル、アウミ、アリク、マドランナ、その4人に続いて、アカネとサクラが、


「どっちにしろさ、あたい達がやる事は代わらないだろ?」

「怪盗スカイハート抜きに、ブラッククロスというチート越えをやっつける事ですね」


 ブラッククロスを倒したとて、レインが助かる事は約束されていない。

 それでも、クロスのデーター破壊グリッチであるならば、そんな壊して作る奇跡も、可能かもしれない。


「俺達がやる事は、クロスをぶっ飛ばして!」

「レインさんを死なへんように、斬って殺してもらう事やね!」


 矛盾した発言をアウミをするが、おーっ! と盛り上がる一同、であるものの、


「ネガティブOK?」


 ジキルがきっちり、水を差す。


「怪盗無しで、あの刀使い、倒せる気しないんですけど……?」


 キッチリ、シーンと静まりかえる。


「まぁ、怪盗が来ても、勝てるかどうかわかんないですけどぉ、私らじゃ無理ゲーというかぁ」


 その正論真実を前にすれば、沈黙は線路のように続いていく。だが、


「――俺とアウミも、最初、シソラに頼ろうとしてたんだよ」


 アリクとアウミは、スカイを励ましに行った時、一緒にレインの為に戦おうと誘った。

 だが、そこでスカイは、泣きながら首を振った。彼はVRMMOにログインせず、現実世界のレインの傍に居る事だけを選んだ。


「うちら、その後、気付いたんよね――今までずうっとシソラに頼ってばっかやった」

「スカイゴールドが怪盗シソラの頃からだ」

「せやけど、シソラかって人間よ、なんもかんも放り出して泣きたい時もあるよ」

「励まして、後悔するぞとか言って、無理矢理でも戦わせるのって、なんかちげーよなって思った」

「自分一人で、立ち直らへんとあかん時もあると思う、せやけど」


 ――今は、今この時は


「俺達は、怪盗である前に、シソラの友達だ」

「今は友達が、立ち直るまでの時間を作りたいんよ」


 それが、二人の決意。


「……っていう事をさぁ、レインの母ちゃんに言われた訳なんだけどな!」

「あれほんに気まずかったよねぇ!」


 そして、唐突にテンションをあげるアリクとアウミ、そこら辺りの事情は良く解らないが、なんかかっこいい事を言ったアリクに、思わずフライングだっこしたアカネを見て、角をビキビキと凍らせるサクラ。

 それに対してジキルは、冷や汗エフェクトをかいた。


「いやいやいやいや、何いい感じの話にしてるし? 怪盗を無理矢理にでも呼ぶべきっしょ?」

「仕方無いわよ、こうなったら、スカイ自身から来るログイン事を望みましょう、私達はそれまでの時間稼ぎ」

「マジで言ってる?」

「きっとなんとかなるわよ、それに」


 心底つらたんな表情をするジキルに、マドランナはくすりと笑う。


「切り札が、無い訳じゃない」


 彼女の視線の先には、壁に飾られている、

 予告状が書かれたハートの7のトランプがあった。


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