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7-7 リターンキンパツクソメガネ

 ――データー破壊グリッチ

 数あるグリッチの中でもハイリスクハイリターン禁断の秘技。パラメーター最強は勿論、いきなりエンディングまで飛ぶ事も可能。だが、狙った結果再現性を出す為の手順が、少しでも違えてしまえば、セーブデーターが消えたり、最悪の場合、ゲームの起動すら出来なくなる世界の終わり事もある。

 ブラッククロスはそれを、アイを信じるという一念によって、成立させてきた、だが、

 それを根元から揺らすのは――小悪党の口八丁。

 グドリーは、復帰したばかりのこの世界ゲームの、十字架の丘で、

 満面の小憎たらしい笑みと供に、煽りを言い放つ。


「だいたいこの処刑事態がおかしいでしょう!? シソラ君――スカイゴールドを呼ぶための罠? ナンセンス!」

「――黙れ」


 距離を壊せなくなったとて、クロスそのもののスペックは高い。刀一本でどうにか、ブレイズ達の猛攻を凌いでいる。だが、


「罠ではなく救援要請ですよ! キューティをスカイに助けてもらう為、そして」

「黙れ」

「君も助けて欲しいという親心、ああ、それに気づいて無いのに気づいて無い振りをしてぇ!」

「黙れぇ!」


 カリガリーのロボットボディの上から響き渡る声に、心が千々に乱れている。目に見えて、クロスの隙が増えていく。


「お前に、俺の何が――アイさんの何が解る! 俺はアイさんに」

「貴方よりは、彼女の事が解りますよ」

「デタラメを言うな!」


 ――ブラックパール保持者

 マドランナ、サクラ、そしてユニコの特徴、それは、


「お前がアイさんの何を知っている!」


 多弁戦っている最中に

 聞いても無い事をベラベラと喋る傾向があった、不平不満が力の源泉ブラックパールの為かもしれない。

 そしてその特性は、煽り合いレスバと頗る相性が悪い。


「貴方が信じてるのはアイさんでなく、アイさんの言葉コマンドでしょう」

「――なっ」

「君みたいな察しの悪い子に、運命を委ねるなんて」


 ここでグドリーは、心底バカにしたように悲しい過去なんてガン無視


「アイさんって、ちょっと頭がおかわいそうな人バカインザオブラート?」


 そう言った。


一閃アイさんをバカにするなぁ!」


 グドリーに向かって放ったその剣閃は、

 何を裂く事も出来ず、空ぶるばかりグリッチ不発だった。

 ――そこにマドランナが蒼く燃える尾をぶつけ

 すかさず他のメンバーが、追撃をかます。ブラッククロスは遠くへ弾き飛ばされる、そこで立ち上がり、そして、

 足を止めた。近寄ってこない。


「おや、物理的に距離を取りましたか」

「またこっちに追い込むわね!」

「その調子で頼むぜ、グドリー!」


 マドランナは飛翔ジェットして、ブレイズはアカネの音越え犬の散歩マッハウォーキングザッドッグに便乗した。サクラはキレてそれを追って、アウミはそれをなだめながら追った。

 カリガリーのボディから飛び降りたグドリーは、搭乗者に声をかける。


「さて、もう貴女はお役御免です、さっさと」

「コモノクサイトコロゼンゼンカワッテナーイ!!!」

「はい?」

「ヤッパリ、グドリーサンハグドリーサンダッター!」

「……いいから、早く帰りなさいログアウト、仲間達にもよろしく」


 ハイー! と涙ぐみながら、その巨体ロボットごとログアウトをするカリガリー。それを見送った後グドリーは――十字架に磔になった、キューティの元へ近づいた。


「――グドリー」

「今は喋らないでください」


 一言発するだけで、臓腑が軋むであろう事を察したグドリーは、言葉を制した。


「スカイ君が来てから、存分に愛の語らいイチャイチャラブラブをどうぞ」


 その言葉に対して、キューティは複雑な表情を浮かべた。

 それに対してグドリーは、鼻で笑う。


「あのクロスに斬られた経験から言いますが、彼の刀に、貴女を治すような裏技グリッチなんてないでしょう」

「それ、なら何故」

「喋るなと言ってるのに……まぁいいですが」


 そこでグドリーは、メガネをクイッとあげた。


奇跡勝ち筋があるとするなら、スカイゴールドがここに来る事だけです」

「そん、な」

「私がここに来る事を許可したのも、少しでも、スカイが助けに来る確率を増やす為です」

「――そんな」

「私はただ、その時間稼ぎの為にここにいます」


 虹橋アイの反抗期は、ともかく、キューティとスカイを会わせる事に徹底してこだわっている。だから、それに賭けるのは間違ってはいない。

 だが、そこまで言ったグドリーに、レインは、


「や、だ」


 本心を、呟く。


「スカイが、死んだら、私、は」

「まぁ、貴女の気持ちは解りますよ」


 そもそも、レインがソラを悪党に誘ったのは、それが生き死にに関わる話でないと思っていたからである。

 殺されるかもしれないのに助けてくれなんて、ただのゲーム好きの人間に願う事ではない。

 その罪悪感が解らないグドリーでは無い、

 その上で、


「貴女の気持ちを無視します、私達は、彼が来るまで、クロス君を可能な限りダメージを与えておきます、彼が貴方を助ける為に」

「どう、して」

「どうしてですって?」


 そこで小悪党は、ニヤリと笑った。


「嫌がらせほど、このゲームで楽しい事はないでしょう?」


 ――ちょうどそのタイミングで


「「氷界巡り!アラウンド・ザ・アイスワールド」」


 姉妹の合体技により、ちょうど、カリガリーが居た場所に、氷ごとクロスが叩き付けられる。すぐ様にその紐を刃で切り、立ち上がったクロスだったが、

 ――グドリーと目が合ってしまった


「やぁ、帰ってきましたか」


 最早今のクロスにとって、グドリーは、


「友達の恋人を殺すどころか、母の本心すら殺す愚か者さんマザーファッカー


 最悪の天敵金髪メガネクソ野郎として、君臨していた。







 一方その頃、現実世界の、レインの部屋。


「グドリーさん」


 WeTubeの配信に、音は無い。

 だが――怪盗スカイゴールドが世間に知れ渡った時と同じく、

 人々はその技、その動きに、心を躍らせ、そして、

 ――スカイゴールドの初戦の相手

 アカウントを消したはずの、小悪党グドリーの登場と、聞こえなくとも何をしているか解る、相変わらずの小物っぷりに、最早プレイヤーと視聴者のボルテージは最高潮に達していた。

 だけどその様子を、ARで見たとしても、


「グドリーさん……」


 そう名前を呼ぶだけで、ソラの心は動けなかった。

 自分が向かっても、レインを助けられない。その事実が、”どうかしてる”くらいに、心を縛ってる。

 来るな、と言われた。

 それがレインの願いだとしても、行くべきはずだと、ソラは思う。

 だけどそれが、やって当たり前の事が、ソラには出来ない。


「――僕は」


 罪悪感と情けなさに、心が押し潰されそうになった時、


「ソラ」


 扉の外から、父の声がした。


「少し、いいか」


 唐突な父親の来訪。

 ……ソラは少し黙った後、いいよ、と言った。

 扉が、ガチャリと、音をたてて開いた。

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