――データー破壊グリッチ
数あるグリッチの中でも
ブラッククロスはそれを、アイを信じるという一念によって、成立させてきた、だが、
それを根元から揺らすのは――小悪党の口八丁。
グドリーは、復帰したばかりのこの
満面の小憎たらしい笑みと供に、煽りを言い放つ。
「だいたいこの処刑事態がおかしいでしょう!? シソラ君――スカイゴールドを呼ぶための罠? ナンセンス!」
「――黙れ」
距離を壊せなくなったとて、クロスそのもののスペックは高い。刀一本でどうにか、ブレイズ達の猛攻を凌いでいる。だが、
「罠ではなく救援要請ですよ! キューティをスカイに助けてもらう為、そして」
「黙れ」
「君も助けて欲しいという親心、ああ、それに気づいて無いのに気づいて無い振りをしてぇ!」
「黙れぇ!」
カリガリーのロボットボディの上から響き渡る声に、心が千々に乱れている。目に見えて、クロスの隙が増えていく。
「お前に、俺の何が――アイさんの何が解る! 俺はアイさんに」
「貴方よりは、彼女の事が解りますよ」
「デタラメを言うな!」
――ブラックパール保持者
マドランナ、サクラ、そしてユニコの特徴、それは、
「お前がアイさんの何を知っている!」
聞いても無い事をベラベラと喋る傾向があった、
そしてその特性は、
「貴方が信じてるのはアイさんでなく、
「――なっ」
「君みたいな察しの悪い子に、運命を委ねるなんて」
ここでグドリーは、
「アイさんって、
そう言った。
「
グドリーに向かって放ったその剣閃は、
何を裂く事も出来ず、
――そこにマドランナが蒼く燃える尾をぶつけ
すかさず他のメンバーが、追撃をかます。ブラッククロスは遠くへ弾き飛ばされる、そこで立ち上がり、そして、
足を止めた。近寄ってこない。
「おや、物理的に距離を取りましたか」
「またこっちに追い込むわね!」
「その調子で頼むぜ、グドリー!」
マドランナは
カリガリーのボディから飛び降りたグドリーは、搭乗者に声をかける。
「さて、もう貴女はお役御免です、さっさと」
「コモノクサイトコロゼンゼンカワッテナーイ!!!」
「はい?」
「ヤッパリ、グドリーサンハグドリーサンダッター!」
「……いいから、早く
ハイー! と涙ぐみながら、その巨体ロボットごとログアウトをするカリガリー。それを見送った後グドリーは――十字架に磔になった、キューティの元へ近づいた。
「――グドリー」
「今は喋らないでください」
一言発するだけで、臓腑が軋むであろう事を察したグドリーは、言葉を制した。
「スカイ君が来てから、
その言葉に対して、キューティは複雑な表情を浮かべた。
それに対してグドリーは、鼻で笑う。
「あのクロスに斬られた経験から言いますが、彼の刀に、貴女を治すような
「それ、なら何故」
「喋るなと言ってるのに……まぁいいですが」
そこでグドリーは、メガネをクイッとあげた。
「
「そん、な」
「私がここに来る事を許可したのも、少しでも、スカイが助けに来る確率を増やす為です」
「――そんな」
「私はただ、その時間稼ぎの為にここにいます」
虹橋アイの反抗期は、ともかく、キューティとスカイを会わせる事に徹底してこだわっている。だから、それに賭けるのは間違ってはいない。
だが、そこまで言ったグドリーに、レインは、
「や、だ」
本心を、呟く。
「スカイが、死んだら、私、は」
「まぁ、貴女の気持ちは解りますよ」
そもそも、レインがソラを悪党に誘ったのは、それが生き死にに関わる話でないと思っていたからである。
殺されるかもしれないのに助けてくれなんて、ただのゲーム好きの人間に願う事ではない。
その罪悪感が解らないグドリーでは無い、
その上で、
「貴女の気持ちを無視します、私達は、彼が来るまで、クロス君を可能な限りダメージを与えておきます、彼が貴方を助ける為に」
「どう、して」
「どうしてですって?」
そこで小悪党は、ニヤリと笑った。
「嫌がらせほど、この
――ちょうどそのタイミングで
「「
姉妹の合体技により、ちょうど、カリガリーが居た場所に、氷ごとクロスが叩き付けられる。すぐ様にその紐を刃で切り、立ち上がったクロスだったが、
――グドリーと目が合ってしまった
「やぁ、帰ってきましたか」
最早今のクロスにとって、グドリーは、
「友達の恋人を殺すどころか、母の本心すら殺す
◇
一方その頃、現実世界の、レインの部屋。
「グドリーさん」
WeTubeの配信に、音は無い。
だが――怪盗スカイゴールドが世間に知れ渡った時と同じく、
人々はその技、その動きに、心を躍らせ、そして、
――スカイゴールドの初戦の相手
アカウントを消したはずの、小悪党グドリーの登場と、聞こえなくとも何をしているか解る、相変わらずの小物っぷりに、最早プレイヤーと視聴者のボルテージは最高潮に達していた。
だけどその様子を、ARで見たとしても、
「グドリーさん……」
そう名前を呼ぶだけで、ソラの心は動けなかった。
自分が向かっても、レインを助けられない。その事実が、”どうかしてる”くらいに、心を縛ってる。
来るな、と言われた。
それがレインの願いだとしても、行くべきはずだと、ソラは思う。
だけどそれが、やって当たり前の事が、ソラには出来ない。
「――僕は」
罪悪感と情けなさに、心が押し潰されそうになった時、
「ソラ」
扉の外から、父の声がした。
「少し、いいか」
唐突な父親の来訪。
……ソラは少し黙った後、いいよ、と言った。
扉が、ガチャリと、音をたてて開いた。