「――バカ、な」
血染めの十字架の丘の凄惨さすら、かき消していくような二人の放つ眩い光。
それに圧倒されるように、クロは後ずさりをする。
そんな彼の前で、息を弾ませ、喜びを体中に漲らせながら、
「これって、愛の奇跡って奴かな」
「いや、おそらくは、私の増殖バグだ」
語り合うソラとレイン。
「キスを
「どちらにしろ、やっぱり、無茶苦茶だよ」
背中合わせになった二人は、
全身を、淡い金色の光で輝かせる二人だけど、
「だがその無茶苦茶を、アイさんは願ってくれたのだろう」
「――レイン」
涙で顔はへちゃむくれ、凜々しさなんて欠片の無い、子供みたいなみっともない表情だ。
だけど二人は、”かっこつける”のも忘れて、ただただ素直な二人のままで、
言い放つ。
「愛してる!」
「ああ、私もだ!」
そう、気持ちをもう一度、ハッキリさせた後、
その顔を一瞬で、涙を振り切るように”かっこよく”引き締めて、二人同時に走り出す。
クロ、無意識に放った一閃は――それゆえに完全な形で、二人の体を、離れた距離から切り裂いて見せた。だが、
――その傷があっという間に塞がっていく
「なっ!?」
痛みこそはあるようで、顔を歪めた二人だが、すぐに笑みを浮かべなおし、クロの懐に潜り込めば、鏡合わせの蹴りを放つ。十字架まで吹き飛ばされた彼、その前で態勢を整えながら、
「キスをしてからの一定時間、我とレインの思い出は溢れる!」
「人の命が記憶であるなら、思い出す限り、私達は何度でも甦る!」
――恋する二人は無敵の体言
「「
「な、なんで、どうして」
固執する。
「こ、殺さなきゃ、レインを殺せって、アイさんに」
「――間違ってるって、言わなきゃ」
そこでソラは、ブラックパールに乗っ取られているのを承知で、
それでも、その奥に黒統クロが居るのを信じて、
願う。
「アイさんに、こんな事は間違ってると、言うべきだよクロ!」
「いいや、アイさんだけではない、お前の母親にもだ!」
「そんな、それは」
子供は、親に逆らうべきじゃないかもしれない、それでも、
「二人とも、そう言われる事を、望んでいたのではないか!?」
レインの言葉を――否定できない時点でクロの心は、
「あぁぁぁ……」
乱れ始める。
「あぁぁぁぁぁぁ……!」
ただ叫び、そして涙を流すクロに対し、
「彼のトラウマを、刺激して、相変わらず私達は悪党だ」
「ああ、こんなやり方は間違っている、だけど」
――ブラックパールを盗むのは
怪盗にしか、出来ない事。
「ブラックパールを奪うよ、
「私達を責めるのは、それからにしてくれ!」
――幼馴染みを救う為に
彼が本当にしたかった事を、させる為に、
◇
――
有り触れた言葉であるけれど、それは耳障りのいいキャッチコピーではなく、真理に近い。
極端な話、まずいタマネギを食べた過去がある子供は、大人になっても、味やアレルギーとか関係無く、その頃のトラウマが原因で、タマネギを食べられなくなる。
虹橋アイはその事実を、自分の体で、思い知っていた。
……今、彼女は、潜伏先のマンションで、
ベッドに座りながら、VRにログインしている、黒統クロの現実の体をじっとみつめている。
(私の虹橋アイという記憶も、どこまでも、
実際、その証拠に、虹橋アイは”まともな方法”を取る事が出来ない。
今すぐ自分の場所を、灰戸達に連絡し、久透リアの企みを、開示する事も出来ない。
自分でも
だけど、それすらも今のアイにとっては、
(
そう思うと、嬉しくなった。
ただ、母の目的の為に作られた、たんぱく質で出来たコンピューターである自分が、ここまで出来る事が嬉しく思えた。
(社長がいたから、ジキルちゃんがいたから、クロ君がいたから、レインちゃんが、ソラ君が、皆が)
友達が、いたから。
……そして、クロを見ながら、思った。
「ああ、そっか」
0を1にするという、約束された奇跡、
「そういう事だったんだ」
彼女はそれを、
「奇跡は――」
言葉にしようとした。
――その瞬間、リアの声が彼女の頭に響き
……ついさっきまで考えていた事を、すっかり忘れてしまった。
だけど、それでも、リアの操り人形にならないように、
皆との出会いの記録を辿り、