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7-13 箒星

 VRMMO、アイズフォーアイズの世界にて。

 ドワーフの酒場で行われている――スカイVSクロスのWeTubeの配信は、


「やっぱりキスした、キスしてた!?」

「角度的にわかんなかったけどどう考えてもやってるでしょこれぇ!」

「ちょっとまだその分析してるでござるか!? 今の方が凄いでござるよ!」

「真っ黒になったクロス、動きやばすぎない!?」

「さっきからスカイ様、ファントムステップを使ってませんわ!」

「それでもキューティとの連携で食い下がってる!」


 中継を見ている者達にとって、決戦前の憂鬱な雰囲気を、ぶち飛ばす程の展開をみせていた。

 それはそうだろう、クロス相手に怪盗の他のメンバーが揃って、だけど結局そのまま敗れて、そうかと思ったら予告状と供にスカイがやって来て、キューティを助けて、だけど結局スカイをかばってキューティが死にそうになって、ところがなんか多分キス疑惑の判定をした途端二人が無敵になって、だけどクロスが真っ黒になって、その攻撃を受けたら、二人がいつもの絶技を使わなくなったけど、それでも奮戦して、

 余りにも目まぐるしいエンターティメント、ドワーフの酒場は、戦いのクライマックスの中で熱気に包まれていた。アンドロイド白衣は自分の説の正しさを、補強するような光景に背筋チタン性を奮わせ、犬耳は犬耳を震わせる。

 だが、そんな盛り上がりを見せる配信を、


「大丈夫かよ、シソラとレイン」

「見守るだけなん辛いねぇ」


 不安を抱えながら――ドワーフの酒場の窓の外から見ているのは、アウミとアウミ、そして、他のログインし直したいつもの面子イツメンに+して、


「つか、なんでログインしなおしたし」


 もっともなツッコミをする、ジキルであった。しかしそれに対して、グドリー、


「私達の戦いが、内輪もめ込みのエンターティメントゲームのもめ事はゲームで決着だと今の段階から説明しといた方が、色々と都合がいいでしょう?」


 と、言った。


「有ること無い事を言われる前に、この酒場で説明しておくという事ですね」

「アニキ達もその方が、ゲームに復帰しやすそうさね」


 グドリーの案は、概ね正しい、だけど、

 マドランナ色欲竜verが言う。


「――二人は、勝てるかしら」


 そう、その前に、それが前提。

 グリッチを使う事を禁じられた二人が、ブラックパールフルパワーのクロスに勝てるのだろうか。もしも負けてしまったら、説明どころではない、

 だけど、


「大丈夫ですよ、彼」


 グドリーは言った。


「笑ってますよ」


 ――グドリーの言葉通り

 クロスの猛攻をしのいで、どこまでもギリギリの状況でありながら、 

 その顔は、笑っていた。


「彼が一番力を発揮するのは、このゲームを、心から楽しんでいる時だ」


 ――本当に楽しいなぁ!

 シソラは確かに、どんな状況でもその気持ちエンジョイアンドエキサイティングを忘れる事は無かった。そのグドリーの発言に、皆は納得すると同時に、


「なぁんか、解ってる奴っぽくて、ムカつく!」


 相変わらずアリクは嫉妬する。その様子に多くが苦笑したあと、


「ふっ」


 ジキルが珍しく、面倒くさそうにだが笑った。


「あーなんだよ、お子様がぁって顔して!」

「実際子供だし? とりま、そろそろフレンドチャット止めて、顔出さね?」

「ええ、そうね」


 そう言ってまず、マドランナが店に入り、なるべく大きな声で挨拶をした。

 振り返った者が、先程まで戦っていた者達が居る現実に目を疑い、それに声をあげていき、酒場はあっという間に熱狂に包まれる。

 残された者達は、怪盗の帰る場所を作る為に動き出す。

 ――それは勿論、怪盗の幼馴染みも含めて







 十字架の丘、グリッチ淡い光を失った二人の奮戦に対し、クロは戦い的には優位に立つ反面、


「アァァァァァァッ!」


 精神的には追い詰められていく――だから、ソラとレインの勝ち筋は、一見、逃げ続けながら、説得という名の”口撃”を続け、クロの心を折るべきかのように見える。

 そうではない、


「クロ、このままじゃ!」

「ブラックパールに、心を乗っ取られるのでは!?」


 二人の懸念通り、今のクロは、自分の欲望にただひたすらに忠実だった。

 何も疑わない、考えない、

 それこそ、虹橋アイのように、人の形をしたPCになろうとしている。

 ――黒き信念が凶悪なのか

 それに溺れる彼の心が弱いのか――

 今はその是非を問うべきではなく、


「クロ!」


 そんな結末を防ぐ為に、まずは彼からそれ黒真珠を、奪わなければならない。しかし、今の非力ではそれが至難、

 グリッチを取り戻す方法も考えなければ、そう思った時、


「――アアァ」

「えっ」

「ウアアアアアアアアッ!」

「なぁっ!?」


 再びブラックパールが膨張した、だが今度は、10メートルカリガリーロボの2倍を越える大きさだった。


「がぁっ!?」

「ぐっ!?」


 物理的に弾き飛ばされるソラとレイン――二人は、なんとか受け身を取りながら着地したが、

 ――距離を置いた先には

 クロが、刀を構えている。


「――まずい」


 二人がしつこく接近戦を仕掛けていたのは、あの、距離を壊す斬撃を放たせない為である。

 ファントムステップがあればギリギリ詰められる距離も、ただの足じゃ間に合わない。

 ソラの頭に焦りが浮かぶが、そこで、


「ソラ!」


 レインは、振り返り、


「お前なら、大丈夫だ!」


 そう、言い切りながら、両手を思いっきり広げた。

 ソラは笑顔を浮かべながら、レインに向かって走り出す、

 クロは、背中を向けたレインの行動に、疑問をもてないまま、

 ただひたすら一番近くの彼女を――アイに殺せと言われた彼女を、

 斬り殺すために、

 刀を抜く。


二重ノ一閃アァァァァァァァァアァァァァァッ!」


 完全に調整して放たれた、距離を壊した居合は、

 寸分の狂い無く、レインが立つ場所に、十字の斬撃を生じさせた。




 だけどその斬撃は、

 ――ソラが、レインに抱きつく事で発生するグリッチ


「「ファントムロマンス怪盗浪漫!」」


 で、回避された。




「アァァァァァァッ!?」


 すり抜けバグのグリッチは、その時の状況や場所にパラメーター果ては時間にまで左右される。

しかし、ファントムロマンスに関しては、飛び込む前の準備も確かにあれど結局は、

 ――どう愛しい彼女を抱きしめるか、である

 その証拠に、今までレインそのものが、淡い光を放った事は無かった。ファントムロマンスは、どう飛び込み、抱きしめるかだった。

 だがどちらにしろぶっつけ本番、けれど賭けに勝った二人に、ギフトが送られる。


「――淡い光が」

「見える――」


 グリッチの復活――ファントムロマンスを切っ掛けに、再び、ソラのリアルセンスがVR上でフィードバックして、インペリアルトパーズ【特性共有】を通じて、レインもまた無限増殖グリッチが使えるようになる。

 そこからは二人は、


無限増殖の術インフィニティ!」


 最善手で動く――レインは増やしたよみふぃのぬいぐるみを、空中にばらまく。


ファントムステップ怪盗舞踏!」


 その浮かび上がるよみふぃを足場にして、ソラとレインは、クロの斜め頭上、空中へと舞い上がる。

 そして、二人、くるくると周りながら、

 キスをした――ファントムラヴァーズ怪盗相愛

 より強い光を纏った二人は、頂点まで浮かび上がったよみふぃを蹴って、

 二人で一気に、

 射出する。

 ――己の光に願いを込めて

 友達を、

 救う為。




「「ファントムブルームスター怪盗箒星!」」


 それは白金の尾を引いて、赤い世界を切り裂く一条の光、

 言ってみれば二人抱き合っての体当たり、だけどその速度は、逃れられない。

 ――それでも躱さなければならないはずだけど

 ……ただ、クロは、

 あれほどまでに、黒き信念に、

 自分の心を沈めていた少年は、


(――かっこいいなぁ)


 かつての憧れそのものに、心を奪われていた。




 ――二人が、クロに着弾し

 地面が抉れた時に出来た砂埃が舞い上がり、暫くして、それが晴れた後、

 仰向けに倒れて、黒いシルエットでなく、ただ呆然とした表情を浮かべるクロ。

 そして右手にブラックパールを持ったソラと、

 その左腕に、強く、強く自分の腕を絡ませる、レインの姿があって、そして、


『GAME CLEAR!』


 AI音声が、戦いの終わりを告げた。

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