VRMMO、アイズフォーアイズの世界にて。
ドワーフの酒場で行われている――スカイVSクロスのWeTubeの配信は、
「やっぱりキスした、キスしてた!?」
「角度的にわかんなかったけどどう考えてもやってるでしょこれぇ!」
「ちょっとまだその分析してるでござるか!? 今の方が凄いでござるよ!」
「真っ黒になったクロス、動きやばすぎない!?」
「さっきからスカイ様、ファントムステップを使ってませんわ!」
「それでもキューティとの連携で食い下がってる!」
中継を見ている者達にとって、決戦前の憂鬱な雰囲気を、ぶち飛ばす程の展開をみせていた。
それはそうだろう、クロス相手に怪盗の他のメンバーが揃って、だけど結局そのまま敗れて、そうかと思ったら予告状と供にスカイがやって来て、キューティを助けて、だけど結局スカイをかばってキューティが死にそうになって、ところが
余りにも目まぐるしいエンターティメント、ドワーフの酒場は、戦いのクライマックスの中で熱気に包まれていた。アンドロイド白衣は自分の説の正しさを、補強するような光景に
だが、そんな盛り上がりを見せる配信を、
「大丈夫かよ、シソラとレイン」
「見守るだけなん辛いねぇ」
不安を抱えながら――ドワーフの酒場の窓の外から見ているのは、アウミとアウミ、そして、他のログインし直した
「つか、なんでログインしなおしたし」
もっともなツッコミをする、ジキルであった。しかしそれに対して、グドリー、
「私達の戦いが、
と、言った。
「有ること無い事を言われる前に、この酒場で説明しておくという事ですね」
「アニキ達もその方が、ゲームに復帰しやすそうさね」
グドリーの案は、概ね正しい、だけど、
「――二人は、勝てるかしら」
そう、その前に、それが前提。
グリッチを使う事を禁じられた二人が、ブラックパールフルパワーのクロスに勝てるのだろうか。もしも負けてしまったら、説明どころではない、
だけど、
「大丈夫ですよ、彼」
グドリーは言った。
「笑ってますよ」
――グドリーの言葉通り
クロスの猛攻をしのいで、どこまでもギリギリの状況でありながら、
その顔は、笑っていた。
「彼が一番力を発揮するのは、このゲームを、心から楽しんでいる時だ」
――本当に楽しいなぁ!
シソラは確かに、どんな状況でも
「なぁんか、解ってる奴っぽくて、ムカつく!」
相変わらずアリクは嫉妬する。その様子に多くが苦笑したあと、
「ふっ」
ジキルが珍しく、面倒くさそうにだが笑った。
「あーなんだよ、お子様がぁって顔して!」
「実際子供だし? とりま、そろそろフレンドチャット止めて、顔出さね?」
「ええ、そうね」
そう言ってまず、マドランナが店に入り、なるべく大きな声で挨拶をした。
振り返った者が、先程まで戦っていた者達が居る現実に目を疑い、それに声をあげていき、酒場はあっという間に熱狂に包まれる。
残された者達は、怪盗の帰る場所を作る為に動き出す。
――それは勿論、怪盗の幼馴染みも含めて
◇
十字架の丘、
「アァァァァァァッ!」
精神的には追い詰められていく――だから、ソラとレインの勝ち筋は、一見、逃げ続けながら、説得という名の”口撃”を続け、クロの心を折るべきかのように見える。
そうではない、
「クロ、このままじゃ!」
「ブラックパールに、心を乗っ取られるのでは!?」
二人の懸念通り、今のクロは、自分の欲望にただひたすらに忠実だった。
何も疑わない、考えない、
それこそ、虹橋アイのように、人の形をしたPCになろうとしている。
――黒き信念が凶悪なのか
それに溺れる彼の心が弱いのか――
今はその是非を問うべきではなく、
「クロ!」
そんな結末を防ぐ為に、まずは彼から
グリッチを取り戻す方法も考えなければ、そう思った時、
「――アアァ」
「えっ」
「ウアアアアアアアアッ!」
「なぁっ!?」
再びブラックパールが膨張した、だが今度は、
「がぁっ!?」
「ぐっ!?」
物理的に弾き飛ばされるソラとレイン――二人は、なんとか受け身を取りながら着地したが、
――距離を置いた先には
クロが、刀を構えている。
「――まずい」
二人がしつこく接近戦を仕掛けていたのは、あの、距離を壊す斬撃を放たせない為である。
ファントムステップがあればギリギリ詰められる距離も、ただの足じゃ間に合わない。
ソラの頭に焦りが浮かぶが、そこで、
「ソラ!」
レインは、振り返り、
「お前なら、大丈夫だ!」
そう、言い切りながら、両手を思いっきり広げた。
ソラは笑顔を浮かべながら、レインに向かって走り出す、
クロは、背中を向けたレインの行動に、疑問をもてないまま、
ただひたすら一番近くの彼女を――アイに殺せと言われた彼女を、
斬り殺すために、
刀を抜く。
「
完全に調整して放たれた、距離を壊した居合は、
寸分の狂い無く、レインが立つ場所に、十字の斬撃を生じさせた。
だけどその斬撃は、
――ソラが、レインに抱きつく事で発生するグリッチ
「「
で、回避された。
「アァァァァァァッ!?」
すり抜けバグのグリッチは、その時の状況や場所にパラメーター果ては時間にまで左右される。
しかし、ファントムロマンスに関しては、飛び込む前の準備も確かにあれど結局は、
――どう愛しい彼女を抱きしめるか、である
その証拠に、今までレインそのものが、淡い光を放った事は無かった。ファントムロマンスは、どう飛び込み、抱きしめるかだった。
だがどちらにしろぶっつけ本番、けれど賭けに勝った二人に、ギフトが送られる。
「――淡い光が」
「見える――」
グリッチの復活――ファントムロマンスを切っ掛けに、再び、ソラのリアルセンスがVR上でフィードバックして、
そこからは二人は、
「
最善手で動く――レインは増やしたよみふぃのぬいぐるみを、空中にばらまく。
「
その浮かび上がるよみふぃを足場にして、ソラとレインは、クロの斜め頭上、空中へと舞い上がる。
そして、二人、くるくると周りながら、
キスをした――
より強い光を纏った二人は、頂点まで浮かび上がったよみふぃを蹴って、
二人で一気に、
射出する。
――己の光に願いを込めて
友達を、
救う為。
「「
それは白金の尾を引いて、赤い世界を切り裂く一条の光、
言ってみれば二人抱き合っての体当たり、だけどその速度は、逃れられない。
――それでも躱さなければならないはずだけど
……ただ、クロは、
あれほどまでに、黒き信念に、
自分の心を沈めていた少年は、
(――かっこいいなぁ)
かつての憧れそのものに、心を奪われていた。
――二人が、クロに着弾し
地面が抉れた時に出来た砂埃が舞い上がり、暫くして、それが晴れた後、
仰向けに倒れて、黒いシルエットでなく、ただ呆然とした表情を浮かべるクロ。
そして右手にブラックパールを持ったソラと、
その左腕に、強く、強く自分の腕を絡ませる、レインの姿があって、そして、
『GAME CLEAR!』
AI音声が、戦いの終わりを告げた。