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8-2 既知との遭遇

『GAME CLEAR!』


 ――2089年8月31日水曜日、22時

 VRMMOアイズフォーアイズの古代遺跡、チーム対抗で、遺跡最奥の秘宝をGETした者が勝者のイベントにて、


「うわぁっ! やっぱりスカイゴールド達が勝ったぁ!」

「怪盗最高ぉ!」


 高台にて、黄金に輝く秘宝を掲げるスカイと、それを見守るキューティ、ブレイズ、オーシャンに対し、相変わらず盛り上がる者達――そして今回、もう一つ、違う話題があった。


「というか、今日はファントムステップ使ってなかったよね?」

「そうそう! それに近い動きはあったけど!」

「それでも勝つんだからマジリスペクトっす!」


 多くのプレイヤーが話題にする通り、今回、スカイ達はグリッチの類いを一切使っていない。

 理由は二つ、一つ目が、これが公認の公式イベントであり、桜国の風雲いえもん城と違って、”アリクからの挑戦状”という私情が入ってなかった事。

 そしてもう一つが――今後の怪盗活動で、グリッチだけに頼らない為の特訓である。


(グリッチの使用は、RMT業者達から世界を奪い返す為の、運営からの特例処置)


 悪い奴をやっつける為や、怪盗の絶技に期待している者達からの挑戦状では躊躇しないが、普段の活動では余り使わないでおこうというスカイからの提案を、一味が受け入れた形だった。

 そんな訳で今回は、すり抜けも、無限増殖も、装備バグも、データー呼び出しも使わず、それでいて華麗に秘宝まで辿り着いたスカイ達。

 多くの他の参加者達も、最奥の部分まで追いついて、秘宝を手に入れたスカイ達を称える歓声をあげていく。

 だが、その時、


「でも、ファントムラヴァーズ怪盗相愛は見たかったなぁ」

「えっ」

「あっ」


 ギャラリーの中のその一言が、スカイとキューティの顔を真っ赤にした。

 ――スカイVSクロス、音声無しの映像

 読唇術解読班が、唯一読み取れた、二人が発した必殺技の名前。


「ああ、あれ! 怪盗様と忍者様、やっぱりキスしてたのでしょうか!」

「してたようなしてないような絶妙な角度でしたけど!」

ファントムラヴァーズ怪盗相愛見せてー!」

「キース、キース!」


 正しく、悪ノリする周囲、2089年の科学力は、スカイとキューティがリアルでも耳まで真っ赤にしてる様子を、如実に伝える。


「い、いや、我とキューティのあれは、なんというか!」

「ひ、非常に、プライベートな問題であるからしてだな!」


 と、わたわたするものの、キスコールは鳴り止まず、


「キースキース」

「キースキース」

「ブレイズ、オーシャン!?」

「なんでお前達まで悪ノリをしている!?」


 仲間達からも裏切られた二人が取った行動は――この場所からの離脱、テレポートしたスカイとキューティを見て、残されたブレイズとオーシャンは、挨拶をしてから2人の後を追ったテレポート

 そんな中で、とあるチームの、とある戦士ジョブと、とある釣り師ジョブの会話、


「いやぁ、怪盗達と一緒に、イベント参加できて楽しかった~」

「むぅ」

「あれ、どしたん、そんな顔して?」

「いや、今日も、ブラッククロスいなかったじゃん」

「あ、あぁ、確かに」

「ドワーフの酒場に現れた、他の人グドリーとかの情報じゃ、ちょっとお休みするって話だけどさ」

「うん」

「やっぱりこの前の争いで、余計に仲が悪くなったからとかじゃないかなって」

「いやいや、公式からの情報無しで、憶測だけで決めつけるのはよくないって、学校でも習ったっしょ」

「でもさぁ~」


 キューティが怪盗を救出してから、時は過ぎて。

 あの時のイベントごたごたは、より、怪盗達の人気をあげる事になったものの、今までと違って、消化不良クロスの音沙汰無しという部分も残った。

 ――エンターティメントというものは

 考察するようなミステリーならともかく、裏に何かがある、と思われるだけで、

 呆気なく、崩れていく。







 スカイ達がテレポートで移動したのは電脳都市ゴルドデルタ、そのスラム地域にある、薄汚れ、剥き出しの配線板から火花が散る、秘密話にはもってこいの場所、

 そこで――スカイマスク有りとキューティではなく――シソラマスク無しとレインは、顔を真っ赤にしたまま、


「アーリークー?」

「アーウーミー?」


 二人に対し、先程のステージで、キス煽りをしたことに怒っていた。


「ご、ごめんだって、ついノリで!」

「しゃあないよ、うちかて見たかったんよぉ!」


 謝ってるようで謝ってない事を言う二人に、シソラとレインは恥じらいもそのままに、


「い、言っておくけど、我とレインのファントムラヴァーズ怪盗相愛は、あくまでグリッチ必殺技だよ」

「そうだ、見世物にするようなものではない」


 と、当然の抗議をする、が、


「それはわかっとるけど、間近にこないてぇてぇあったら我慢できひんよ」

「俺は単純に面白いから見たいだけだけど」


 全く、反省の様子をみせないので、とうとうにシソラは諦めた。


「もういいよ、ほら、明日からは学校だし、そろそろログアウトしよう」


 そう、全員に促そうとしたが、


「いや、その前に」


 レインが告げる。


「社長から、今日、聞いた話を報告させてくれ」


 その言葉に、

 今までの弛緩していた空気が、一気に引き締まる。


「――とは言っても、現状、何かが変わった訳ではないが」

「虹橋アイさんとクロは、失踪したままなんだよね?」

「んでもって、久透リアの行方も知れずだろ」

「レインさんのお母さんが、無事やったのは幸いやけど」


 AI担当の、虹橋アイが抜けた状態でも、運営されているVRMMO。

 現状その役割は、灰戸ライドの第一人格こっちが大元、ジキルがメインで担っている。

 そこらへんをまとめて話した後、レイン、


「新しい報告としては、郷間ザマについてだ」

「ザマって、あの?」

「ライトオブライトの件で炎上して、雲隠れしたって噂の?」

「ああ、奴の事だが」


 郷間ザマについては、レインにとって、思い出すのも嫌な男である。だが、

 それでも、この事は言わなくちゃいけなかった。


「私の忍者の調べだが、リアと繋がってる可能性がある」

「――え?」


 レインの発言に、流石に、シソラも動揺した。


「まだ可能性の段階ではあるし、どちらから接近したかも、そしてその目的が何かも解ってはいない」

「え、な、なんだよそれ、シソラ達に復讐リベンジでも考えてんのか?」

「うわぁ、復讐ってブラックパールと相性よさそぉ」


 ――ブラックパール

 ゲーム内でのバフと引換に、人の負の感情を暴走させ、ゲーム内どころかリアルにも影響を与える、一種の洗脳装置。

 クロスを長期間乗っ取ったものの解析は進んでいたが、現状、”より人を強力に洗脳する”くらいしか解っていない。

 詰まる所、レインの報告は、何一つ進展がない事を示していた。

 ……その状況に、アリクが独りごちる。


「俺達さ、こんなことしてていいのかな」


 シソラ達は、神の悪徒という肩書きはあれど、ただの高校生である。


「ほうよね、ただいつも通り、ゲームしとるだけで」


 基本的に何をするかは、大人灰戸達が決める事。彼等を信じて、指示が来るまでは、いつも通り過ごすしかない。

 焦燥は当然の感情、

 だからこそ、


「……今の我達に出来る事は」


 出来る事をするしかない。


「クロスや、アイさんが、戻ってこれる場所を守る事」


 だからこそシソラ達は、未来への不安を押し殺してでもログインし、怪盗業を続けていた。

 少しでも自分の活躍プレイが、この世界ゲームを楽しくするなら、虹橋アイが本来望んでいたはずの、”もう一人の自分探しEyes for I’s”の場所を盛り上げられるなら、

 それが、今の自分達に出来る事だと。


「そうだな」


 レインは、シソラの考えを肯定した。

 二人はみつめあい、微笑み合う。

 ――信頼は最早心地良いまでに


「「キースキース」」

「「はっ!?」」


 そんな事してたら、またアリクとアウミが茶化してきたので、顔を真っ赤にした二人は同時に、


「「また明日!」」


 そう言って、ログアウトした。


(全くもう、勘弁してほしいよ)


 そう、文句をつきつつも、


(――それでも、今日も楽しかったな)


 微笑みながらの、現実世界への帰還、周りが白くなった後に現れるのは自分の部屋と、自分と手を繋いだ侭のレインの姿の、

 ――はずだった


「――あれ?」


 ログアウトが出来ない、周囲が光に包まれたままだ。


「おかしいな」


 理由を探ろうとした瞬間、シソラは、

 ――この現象に覚えがある事を思いだして、そして、


『プレイヤーシソラ様』


 機械音声が、”あの日”のように、


『ログアウト前に、強制召喚致します』


 そう告げ終わった、その瞬間――




 シソラを取り囲むのは、自分の部屋では無く、岩で出来た小さな牢獄。

 そして目の前には、

 よみふぃに化けた、レインでは無く、

 ――無個性な汎用アバターと

 そして、

 自分そっくりの――真っ黒な姿をした、怪盗がいた。




 己の影のような存在に、目を奪われている間に、


「はじめ、まして」


 直ぐ傍にいる、無個性のアバターは、言った。


「私が、久透リアだ」


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