――同時刻、
「よし、オッケーっと!」
明日の学校の準備を、チェックアプリと供に終えたウミは、声を出してその状態を確認した。
Vtuberであり、怪盗である彼女だけど、その本分は高校生。いくら、科学の結晶であるデバイスのおかげで、生き方が効率化した時代であっても、基本をおろそかにしてはいけない。
(それに、久しぶりの学校、楽しみやしねぇ)
当たり前の話ではあるけれど、
――アイズフォーアイズの今後を憂いもするが
「まずはちゃんと、勉強せんとね!」
明日の意気込みをふんすとした後はもう、早めに眠りに就こうとベッドへ入ろうとした、その時、
ノックの音がして、次に、扉の向こうから声がした。
「ウミー、まだ起きとるー?」
それは母の声であった。あれぇこない時間に珍しなぁとは思いつつ、立ち上がり、とてとてとドアへと近づきガチャリと開く。
――ウミの目の前にいたのは
「誰?」
その問いに答える事もなく、
母の
同じような出来事は、赤原リクヤの部屋でも起きていた。
◇
岩作りの牢、俗称、GMのお仕置き部屋。
だが現在、リアが
「無能、無価値、無意味、無様、愚鈍、卑怯、害悪、凡人、恥知らず、誰もお前を愛さない、死ね、死ね、死ね」
まるで経を唱えるように、罵詈雑言を彼に注ぐだけでなく、
「天才、非凡、肯定、強者、知恵者、卑怯、憧れ、嫉妬、存在が奇跡、生きてるだけで偉い、生きろ、生きろ、生きろ」
次にはありったけで褒め殺しだ。そんな風に鞭と飴を、
「ひいいい、ひいいいいいっ!」
大凡、人とは思えない、
「愚か者」
と、
「――愛してる」
で。
その、
郷間ザマは人間のはずである。
だがとても、
「
久透リアが、今度はスカイに話しかけた。
「私も、そうだったし、須浦ユニコも、そうだった、ゆえに、私は最初、ザマの誇りを砕き、私への憎悪を、植え付けようと、した、だが」
そこで久透リアは、こう言った。
「
――死ぬはずだったレインの復活
ロジックはあったものの、本来なら有り得ない事、だが、
「思えば、愛故に、虹橋アイも、私に対し、
笑わぬままに、笑ったように、
リアは告げる。
「
……リアの淡々とした語りの中、座ったまま立ち上がれず、首と視線くらいしか動かせないスカイ。だけどどうにか、口は回る。
「我にはお前のやってる事は、洗脳にしか見えない」
「そう、だな」
「肯定するのか」
「ああ、私は彼に、全てを与え、全てを奪う、それを、繰り返してる」
「喜びを、食を、安心を、友を、快楽を、情熱を、そして愛を、惜しみなく」
あ、あ、あ、っと、嬉しそうな息遣いを見せるザマ、だが、
次にリアは、彼の喉仏のあたりを押した。
「悲しみを、ひもじさを、不安を、孤独を、苦痛を、無関心を、そして憎悪を、惜しみなく」
ひ、ひ、ひ、っと、泣きそうな吐息を零すザマ。
「ああ、私は、この男が、唾棄すべき程、哀れで、受け入れがたく、だから、こそ」
リアは全く、
「――私の、物にしたい程、愛しい」
狂っていない。
狂っていないからこそ、恐ろしい。
言ってることもやってる事も、完全な
――虹橋アイを越える操り人形として
「実際、彼の感情の、動きを、システムに反映、組み込む事で、ブラックパールは、完成へ限り無く、近づいた、
「――奇跡って」
スカイは尋ねる。
「お前が望む、奇跡ってなんだ?」
心のどこか、それが何かに気付きながら。
……リアは、ザマから離れれば、そのままスカイへと近づいて、視線の高さを合わせるように屈み、そして
「不老不死、だ」
と。
「私の、目的は、全人類が、それに、到達する事、だ」
「――そんなの」
「無理、じゃない、実際、私は既に、その肉体を、得ている――インドラを、使って」
「イ、 インドラ?」
テープPCやARVRデバイスを成立させる、超科学、それが教科書で習った事だが、
「あれは、私が、チャンドラハブの名で、作った、不老不死の、装置、だ」
そう、あっさりとリアは言った。
「どうにも、私にしか、馴染まなかった、強い感情を、システムに組み込む、分、個人差が、激しい」
絶句するしか無い。
もしもリアの言葉が本当であれば、彼女は、今の世界を作り上げた存在そのものである。
その上で彼女は、全人類の不老不死なんていう、目標まで掲げている。
真っ先に浮かんだ言葉は、これだった。
「世界の救世主になるつもりなのか」
そのシソラの言葉に、リアは首を振る。
「世界の救世主、じゃない、私は、この世界を、憎む」
そして立ち上がり、振り向いて、
「この世界を、打倒し、新たな世界へ、皆を、導く」
背中を見せながら、ナイトゴールドの傍へと戻り、
「お前が、
そして、
「私は、
指を鳴らした。
その
映るのは――怪盗スカイゴールドの行きつけの店、ドワーフの酒場であった。