――8月31日23時12分
VRMMOアイズフォーアイズには、ファンタジーな街並みや、雄大な自然、深海や空、異空間から夢の国まで、様々なエリアがあるこの
その中には、始まりの街というものも存在する。
堀に囲まれた巨大な城が中央に建って、そこから円形に城下町が広がる。テンプレートなファンタジー世界だからこそ、この
――小悪党グドリーが
多くの者達と友に、その卓を囲んでいた。
「グドリーサン、ドウシテキョウノ
そう、
「あんな公式のイベントでは、私の
「ア、コレマケフラグデスネー」
「引退する前にも見た事がある!」
「4ヶ月も経ってないのに懐かしいなぁ」
「貴方達ねぇ」
相変わらず、小浜の鯖の養殖業で忙しいグドリーであったが、最近は
公私ともに復活の兆しを見せる、小悪党グドリー一味であったが、
「そうならないように作戦会議と」
今日、この卓についているのはその仲間達だけでは無く――
「彼女や彼等に、協力を要請してるのではないですか」
LustEdenのマドランナ、桜国のアカネとサクラ、そして、
黄金都市ゴルドデルタのアンドロイド科学者で、彼は真っ先に言った。
「どうして俺がここにいるの!?」
そう、彼以外の面子は前回のVSブラッククロスでも同じ身、いわゆる”スカイの愉快な仲間達”である。一応、アンドロイド科学者も、怪盗とはPVP経験はあるものの、それはトラップタワーという間接的な形でだ。
だが、グドリーは中指でメガネのブリッジをクイッとあげながら、
「何を言うのですか、怪盗の技が、グリッチである事を見抜いた貴方が」
「ま、まぁ、それはそうなんだけど」
「ともかく、貴方にはより正確に、彼のグリッチを見極めてもらいたい」
「なんのため?」
その言葉に、グドリーはフッと笑い、そして、
「グリッチの中でも、
作戦を言った。
「
「うわぁ!? 想像以上に作戦がちゃちいさね!?」
「う、噂に違わぬ小物ですね」
義賊の姉妹は正直に言った。ぶっちゃけ、以前、ブラッククロスへ向けてやった事を、スカイにやろうとしてるのである。それに対して手をあげるマドランナ、
「だけどグドリーさん、彼、どちらかというと煽り耐性強めじゃないかしら?」
「ああ、ですから煽ったりしませんよ、彼の弱点をつきます」
「弱点ってあったっけ?」
「シルバーキューティです」
「え?」
「ですから、キューティとどこまで進んだか、しつこく聞きます、キスの事とかも」
「ソウゾウイジョウニゲス!?」
「思春期の心を弄ぶなんて、リーダーの人でなし!」
「私は
そして、くつくつと卑屈に笑う。
「楽しみですねぇ、恋人との事を聞かれて動揺し、真っ赤な顔で
その様子に全員冷や汗をかきながら、こいつ、本当に復帰させてよかったのか? と、思った。
とはいえ、である。
「それでも、あの怪盗スカイゴールドに、勝つ機会よね」
実際、マドランナの色仕掛けに動揺した
「そうそう、アタイは一度勝ってるけど、あれはアニキのおかげだからな~」
「ええ、アリクさんじゃなく、姉さんのパートナーは私という事を証明しないと」
皆それぞれ、怪盗スカイゴールドへのPVPを楽しみにする。白衣のアンドロイドも、よっしゃぁ! と気合いをいれた。
にわかに盛り上がるテーブルを見て、グドリーは卑屈な笑みを、爽やかな笑みに変える。
すると隣のカリガリーから、
「ニアワナイデスネー」
と、ツッコミが入った。
「五月蠅いですよ、カリガリー、というか最近貴方、私に対して生意気になってません?」
「マー、リアルジャ、
「あ、こらっ!?」
と、グドリーが言った時には既に遅く、
「え、えっ、何それ! どういう事さ!?」
「カリガリーさんが、グドリーさんの稼業を手伝ってるとは聞きましたけど」
「へぇ、興味深いわね」
神の悪徒の対戦者組からも、
「てか、グドリーさんが復帰出来たのって、カリガリーさんだけ連絡手段があったからだよな」
「そうそう、俺達とは取ってなかったのに!」
「そもそも、グドリーの一味って二人で始めたんだっけ」
小悪党組からも興味を持たれてしまった。カリガリーが何かを弁明しようと慌てる中、天井を仰ぐグドリー、
「スカイとキューティの前に、私達がからかわれてどうするのですか」
そう言いつつも、このやりとりが、
――ずっと一人で頑張ろうとした自分には
暖かくてかけがえのない、戻って来れて良かったと、心の底から思える理由と自覚する。
だからこそ、笑い、そして呟く。
「
グドリーは――グドリー達は、黒統クロと虹橋アイの失踪、久透リアの暗躍、それらがまだ続いている事を知っている。それは心を乱す非日常。
だからこそ、日常を守らなければならない。
怪盗スカイゴールドの存在が、皆の、この
そんな彼を叩き潰すのも、きっと、誰かの
そう、決意を、
期待と供に、新たにした時――
――ずがぁぁぁぁぁっ! と
「なっ!?」
「うわぁっ!?」
巨大な音と供に、世界が揺れた。
まるで地震、縦に大きく一度、大地が上下した。机は酒を注いだグラスごと飛び上がり、それが落ちた時に軒並み全て床に散らばった。
だが、この揺れは現実のものではない。
もしリアルで地震や火事や竜巻などの災害が起きたなら、セーフティが働いて、VRMMOから自然とログアウトするからだ。だからこれはゲームの出来事である。
「な、なんだなんだ!?」
たった一度の揺れではあったが、それは、アンドロイドの科学者の頭を混乱に満たした。酒場内のざわつきもおさまらなかったが、
「お、おい、城の方を見ろ!?」
「何よあれ!?」
酒場の外からそんなセリフが聞こえてくる。慌て、グドリー達は、状況を確認する為に、店の外へと出た。
プレイヤー達が視線を送るのは、
「あれって」
「まさか」
巨大な城の天辺部分。当然に、距離は随分と離れている。
だが、それですら視認出来るレベルの、とても大きな宝箱があった。
――どう考えても有り得ないもの
だがしかし、それに対してマドランナは見覚えがある。
「ライトオブライト事件の時に出てきた、宝箱?」
――東京デート、虹橋アイのハッキングによって出現したもの
郷間ザマのダンスホールに、突如出現したものと、全く酷似していた。
「な、なんであれと同じものが、浮かんでるのさ?」
動揺するアカネに、サクラは何も答えられない。だが、その沈黙を許さないように、
「え、メッセージ?」
「こっちも来たぞ!」
「差出人は、怪盗ナイトゴールド!?」
グドリー達だけでなく、この城周辺の、いや、この
それは予告状だった――
予告状
8月31日23時18分、この世界を奪う
怪盗ナイトゴールド
「ナ、ナイトゴールド?」
「スカイじゃなくて?」
「えっと、運営から来てるって事は、公式イベント?」
「世界を奪うってどういう事!?」
「てか23時18分ってなに!?」
「い、今から1分後来るって、予告状でもなんでもないじゃん!」
スカイゴールドに限らずに、怪盗の予告状というものは本来、人々の期待を盛り上げる為のプレリュードである。
だが余りにも不穏なその内容は、メッセージを見る者の心を不安に駆り立てた。そして、そうしている内に、この予告状は、これから起こるPVPの参加をも、ほぼ強制的に促していた。
「マドランナ嬢!」
「ダメ、シソラ君達のアカウント、ログアウトしてる!」
「グループチャットモオフラインデス!」
大人組がシソラ達の安否を確認をしたが、既に
そうこうしている内に――この世界の城下町を囲む城壁、その入り口に、
――黒い火花を散らす球体が
まるでブラックパールが、いやまさに、
米粒のような小ささから、ゆっくりと肥大して、そして、
収縮とともに、
人影が、現れる。
「――我が名は怪盗ナイトゴールド」
その姿は、スカイゴールドに酷似していれど、
スーツどころか、シャツすらも、そしてマスクすらも漆黒、
その上で、淡い金色を帯びている。
そして響く声も
何時ものような、明るさの欠片も無い。
「罪には愛を」
笑み一つも無く、今宵この場所に降り立った、
「――世界剥奪の時来たり」
その名乗りと供に、そのままに、
――晴れ渡る空を月すら出ぬ雷雲の夜へと変えて見せた
「――これって」
「私達の時と、一緒の」
マドランナとサクラが、呆然と呟く。
ブラック
その中で、
あの時、
ライトオブライトの宝箱には、ライトオブライトに関する秘密のデーターが内臓されていた。
しかしこの時この宝箱には、世界そのものが、
このゲームのシステムそのものが、入っていた。
奪えばそのまま、この世界が終わりを告げるまでの。
――そんなハッキングが出来るのは
虹橋アイしか、存在しない。