VRMMOアイズフォーアイズ、メイン都市に、
「ナ、ナイトゴールド?」
「かっこいい、ですけど」
「なんか、怖い」
このサプライズには当然、今の漆黒の風体も相俟って、喜びよりも戸惑いを覚えた。怪盗の近くに居た、青と赤のツートンカラーの衣裳の
「というか、そもそも、怪盗スカイゴールド――ですか?」
中の人が
――アカウントが同じ事を確認した次の瞬間
「
代名詞という、何よりもの存在証明を実行しながら、
「――え」
ソーサラーとすれ違い様、彼女の杖を、
それを握った手ごと、奪って見せていた。
――手首の断面は真っ黒で、そこから0と1が血のように零れる
「あ、ああぁぁぁぁぁ!?」
それには痛みも伴っていた。だが何より、以前のWeTubeの配信で見た、”磔のキューティのようにバグった姿”が自分にも起きている事に、戦慄を覚える。
ナイトゴールドは、
「な、ちょ、ちょっと待ってスカイゴールド!?」
「なんなんだよこのPVP!?」
「てか、なんで私達、強制的に参加されてんの!?」
アバター損傷という、本来起こりえない演出及び、そもそものシステムにすら、
だがナイトゴールドはその質問には答えず、淡々と、PVPの条件の説明を始める。
「制限時間は30分、我の勝利条件は、宝箱の剥奪、お前達の勝利条件は、あらゆる手段での我の阻止、そして我が宝を奪えば」
ナイトゴールドは、
「――この
そう言った。
ナイトの発言内容は、単純な声のリレーやメッセージ機能によって、あっというまに伝播する。だが、それに対する行動を、誰も取れなかった。
「ゲ、ゲームを頂く?」
「何を考えているでありますかスカイ氏?」
「というか、お前、本当にスカイゴールドか!?」
アカウントは同じで、ファントムステップも使った。だが、やってる事が余りにも、今までの怪盗らしくない。だって、古代遺産レースの時もだったけど、
怪盗は何時も楽しそうに笑っているのに、今は
「苦しそう」
小さな吟遊詩人がそう言った次の瞬間、
――彼の鳩尾あたりに衝撃が走って
「へっ」
本来、漏らすはずも無い苦痛めいた声をあげる程に、
「あぐうううっ!?」
ファントムステップから放たれた前蹴りは、ただ彼の体力を
心配に対する暴力という、
「う、うわぁ」
とうとうここまでの凶行を見せる、黒い怪盗に、
「うわぁぁぁぁ!?」
多くが逃げ出し、そして同時に多くが、立ち向かい始めた。
「ほ、本物か、偽者かわかんないけど!」
「止めないとやばい!」
「もうすぐ、20周年なのよ!?」
最近増えた新参だろうが、ずっと前からいる古参だろうが、その認識だけは共有した。雷鳴轟くこの
「世界を剥奪? 神様気取りか、怪盗!」
「私、あなたが生まれる前からこの
「貴方に憧れてゲームをはじめたのに、こんなの非道いです!」
当たり前であるが、この
灰戸ライドの
それらがまるで波のように、黒い怪盗へと襲いかかった。
「覚悟しろ!」
様々なジョブとスキルによる一気呵成、ナイトゴールドは、その攻撃の隙間を縫うようにステップを踏むが、やがて逃げ場が無くなる。
とどめを担ったのは、
「――お返しよぉ」
捨てられた杖を、もう片方の手で拾い直した、苦痛に汗を滲ませる、青赤の魔術師、
「
――水と火の合成魔法が、渦のヤリとなってナイトゴールドへ襲いかかる
だが、
それに対し、ナイトゴールドは、
微かに歌った。
「
呼び出しグリッチで、クラマフランマの
「
増殖グリッチで二つ増やし、装備バグで二刀流にし、そして、
「
――データー破壊グリッチ
ソーサーラの体そのものを、バグで引き裂き、そして、
「――えっ」
ナイトゴールドの攻撃によって、魔法どころか、青赤ソーサラーが跡形も無く消え失せた。
「え、ちょっと、まぎまぎ!?」
慌てて、ソーサラーのPTメンバーが、メニューを開いて状態を確認するが、
「いや、【このアカウントは存在しません】ってなってる!?」
「ええ、ログアウトじゃなくてぇ!?」
PTを組んでいた者達の焦りが響く中で、誰かが、呟く。
「ま、まさか今の攻撃で、BANされた?」
「は?」
「い、いや、BANってそんなまさか」
――そんな事、GMにしか出来ない所業
だけど、ああだけど、
そしてその中で、
「――上手に、出来た」
ナイトゴールドが――
独り言を、語り出す。
「でも、足りない」
彼の脳内に、ミルフィーユのように重なっていくのは、愛と恐怖である。
成功すればプライドを褒められ、失敗すればプライドを砕かれる。
久透リアとの愛憎の日々は、もう、ザマを笑ったり泣いたりするのも難しくしてしまった。彼女と同じような無表情で、再び、
そんな彼の目の前には、データー破壊グリッチの練習相手が、
――
彼の目の前に、無数に広がっている。
「――もう一度」
そう言って――巨漢のウォリアー相手に、再び放たれたアスタリスクロスト、
だが、今度はBAN出来ず、ただ、その巨躯の右足を切り落とし、無理矢理に膝をつかせただけだが、
「ひいい」
その象徴的な攻撃と、
「ひいいいいいいいい!?」
「うわああ!?」
「た、助けてぇ!?」
恐怖を