地獄絵図、としか言いようが無い。
アイズフォーアイズのメイン都市、宝箱が出現した城へと続く道程は、黒雲から雷鳴が轟く中で、
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「あ、ああ、い、痛い、痛い!?」
「なんで
ナイトゴールドのデータ破壊グリッチは、半分くらいが普通のダメージになり、四割くらいがバグという傷になり、そして、残り一割が、容赦無くアカウントが
「ああやばい、逃げないと!?」
「あれ、でもログアウトも、テレポートも出来ない!?」
「嘘だろぉ!?」
最早、一方的な殺戮者になったナイトゴールド相手に、ただただ取り乱すばかりの者達。多くの者が逃げ惑い、その内いくらかが抵抗するも、あえなく返り討ちになっていく。
圧倒的な蹂躙、為す術も無い力、
「あ、あはは、こ、こんなの、こんなのって」
最早逃げ遅れて、ただ引きつった笑いを浮かべる女ヒーラーは、
こう、言わざるを得ない。
「チートじゃん」
――多くが憧れる無双状態
だけどそれを、ナイトゴールドは、
「チートじゃない」
こう、否定した。
「グリッチだ」
――そして女ヒーラーをアスタリスクで斬り掛かる
だが、
「ふんっ!」
その一撃から、間一髪、ヒーラーを救ったのは、蒼炎の高速であった。
「え、マ、マドランナさん!?」
蒼い炎を纏うシャープな姿になった英雄竜、ヒーラーを抱えながら飛んだ後、すぐさまに降り、彼女を降ろしながら言った。
「走って! 自力で
マドランナに続いて――この場所に駆けつけた、アカネやサクラも皆に叫ぶ。
「このままじゃ、アカウントをBANされちまうさ!」
BANされたレインの昏睡状態を知ってるアカネ達にとって、それだけは避けねばならない事態である。
「皆さん、逃げてください!」
スカイゴールド関連の有名人の言葉に、多くの者達は従った。だが、
「い、いや、それよりなんなんだよこれ!?」
「一体何が起きてるの!?」
当然に、疑問をぶつける者が居る。だが、それに対する答えを、彼女達とて持ち合わせていない。
今、現れているのが、スカイゴールドで無いのはわかる、久透リアの企みであろう事も解る。
だがそれを今、説明する術がないのだ。だから、
「信じてください!」
もう、その言葉に頼るしかなく。
「――し、信じろったって」
ただサクラと話続けようとした、その剣士のプレイヤーも、
「あっ」
「ともかくも、逃げなさい!」
グドリーが叫ぶ。
「どうやろうと、この
そう、今からナイトゴールドが目指すのは、少なくとも、
「人殺しの怪盗に!」
そういうものになる為に、宝箱は後回しにしているのは目に見えていた。なんとかそればかりは避けねばならぬと、
「トモカクハシルンデスヨー!」
「避難経路、付け焼き刃だけど確保したから!」
「エリア外に出たら即ログアウトしろぉ!」
一部のプレイヤー達が、グドリーを守るように武器を構えた。
「……っ! 貴方達も、逃げなさい!」
そう、小悪党は返したけれど、
「バカ言うなよ、復帰したばかりの小悪党」
「
「グドリーさん、どっちかってっと指揮官ポジだろ? 僕等を使えよ」
そう、初見のプレイヤーにまで言われて、そして、
その中の一人が、尋ねた。
「それで、あいつは、怪盗スカイゴールドなの?」
「アカウントは同じだけどよぉ」
……その問いかけに、メガネのブリッジをくいっとあげながら、グドリーは、
「解りません」
正直に言った。
グドリーが考える最悪のパターンとしては、ブラックパールが完成している事。
もしも、問答無用で相手を洗脳させる装置が仕上がっていたならば、目の前の
だが、この時、グドリーは、
「だけどねぇ、私は、知ってるんですよぉ!」
スカイゴールドを、いや、怪盗シソラを、
「彼の底無しの、甘っちょろさをねぇ!」
信じた――例え黒い信念だろうと、けして汚せないだろう、彼の夢を、怪盗としての誇りを。ゆえに目の前の
――ファントムステップでナイトゴールドが跳んだ
その足を、ドンピシャのタイミングで、アカネのヨーヨーが絡め取った。しかしナイトゴールドは、アカネを引きずったままグドリーへと蹴りを仕掛ける。
「
それを
「立ち止まらない、常に動きなさい! 心理的な動揺での
必死前提の時間稼ぎ、今のグドリー達には、それしか出来る事が無い。
「ああ、折角、復帰したばかりだというのにねぇ!」
それでもグドリーは、笑うのだ。
彼のように――自分をこの世界へと、引き留めてくれた少年の為に、
「貴方とは遊びたくないんですよ、この偽者がぁ!」
約束を、守る為に。
◇
――岩作りの牢
現在、リアに囚われているシソラは、身動きが取れない状態で、この虐殺の光景をモニターを通して見せられていた。
自分の偽者、怪盗ナイトゴールドによって、グドリー達や、他のプレイヤー達が、
あらゆる感情がわき上がるが、叫びたい衝動を必死に堪える。
ただ怒りをぶちまけるよりも、冷静に、聞き出さなければならない事がある。
そう、
「なんで、こんな事をするんだ?」
久透リアの目的である。
問いかけられた彼女は、相変わらず無表情のままに言った。
「悪徒の、完成」
そして、続ける。
「私、一人では、何も、出来ない、私は、弱い、生物だ、だから、優秀な、仲間が要る」
「――仲間」
「ああ、人を、死から救う為の、同士だ」
久透リアが、想像以上に沢山の人間と繋がりを持っている事は、解った。
インドラの発明で得た莫大な資産もそうだろうが、何よりも彼女が掲げる、不老不死という目標は、どこまでも魅力的。
金と理由があれば、人というのはどこまでも着いていく。
久透リアが、多くの人間を抱えている事は疑問に覚えない。
だが、どうしても、シソラは納得がいかなかった。
「仲間じゃ無くて、道具だろう」
――虹橋アイを生きたパソコン扱いしてるようなもの
「否定は、しない」
だがリアは、それをあっさりと認めた。
「私にとって、他者は、目標の為に、必要な”物”だ」
「須浦ユニコも、そうだったのか」
「ああ――彼女は本当に、利用価値の、ある、
そこでリアは目を細めた。
「本来なら、君も――私の、仲間に、するつもりだった」
「え?」
「君だけで、なく、黒統クロも、灰戸ライド――いや、ジキルも」
――神の悪徒の発案者
……怪盗、暗殺者、詐欺師、そんなコードネームが冠されたメンバー、RMT業者に対抗する為という目的で集まったが実際は、
「グリッチの、
それが、リアの目的だった。
「だが、君達は、もう、要らない、私には――世界で一番、愛しく、憎い、
そう言って、モニターに目をやった次の瞬間、
――ナイトゴールドはその一撃で
英雄竜マドランナを、
「――あっ」
アカネが絶望の悲鳴をあげるが、サクラが直ぐに気を逸らさないで! と叫ぶ。グドリーは一度だけ苦しげに呻いた後、冷静に、次の指示を送る。
「今の彼は、怪盗、で在り」
逃げる多くを、
「己を偽る、詐欺師、で在り、そして」
そしてついにその刃は、グドリーへと、
「殺し屋、だ」
届いた。
消えゆくグドリーの声が、モニター越しに響いた。
――後は任せました、と
それが
うなずく事も出来ず、シソラは、絶叫した。
大切な友達が、
「
とても無価値であるからこそ、
惜しみなく愛を注げる彼を、
「
誇るように。