――VRMMOアイズフォーアイズ、雷雲の城下町
怪盗ナイトゴールドVS全プレイヤーによるPVPから、22分が経過。
制限時間をたっぷりと8分を残してるこの時点で、この
最終的な結果を言えば、このPVPに強制参加させられたのは、1万人程度であり、その殆どが
かつて、100vs1のPVPで、この
今、10000vs1のPVPで、汚名を被った事になる。
世界規模のVRMMOで、真実、彼は
その時、
「――待て」
ログインして来る者が居る。
「私の、愛しい、人」
汎用アバターが、久透リアが、ナイトゴールドの背後へと、縄で拘束されたシソラと供に降り立った。
――リアの放つ、愛しいという言葉に
ナイトゴールドの心が、ザマの体が、容赦無く沸きたつ。
「あ、あぁ、ああぁ……」
もう、ただその言葉で、この黒い怪盗はリアの言いなりになる。
「な、何をすれば、いい、何をすれば、褒めてくれて、何をすれば」
震えながら、ナイトゴールドは問う。
「お前から、見放されない?」
リアの答えは、シンプルだった。
「怪盗スカイゴールドを、
――その言葉に
ナイトゴールドは、震える
「大丈夫、だ、今のお前、なら、上手に、
「あ、あぁ」
「だが、もし、失敗、したなら」
そこでリアは、目を細めた。
「私は、お前を、軽蔑、する」
その言葉に、
「ひいいいい」
悲鳴と供に、
「ひいいいいいいいい!」
ナイトゴールドの奥から、黒い闇が膨れあがった。禍々しいまでの、ブラックパールのエフェクト。それは今、架空の空に広がる黒雲よりも恐ろしい。
だけどシソラは、そんなナイトゴールドから目を反らさない。そして、
「ザマ!」
呼びかける。
「……本当は、今のお前をみて、ざまぁみろって言うべきかもしれない!」
そう彼は、自分の一番大切な人を、自死を思う程までに思い詰めた外道、この様を見て、哀れと言いたい感情は隠せない。だがそれでも、
「だけど、こんなのってないだろ!」
余りにも今の姿は、”哀れ”に過ぎる。
「無理かもしれない、辛いかもしれない、だけどもしも、我の声が届くなら!」
シソラの叫びは、ただの同情では無く、”久透リアの道具”をどうにか正気に戻す為のアクション。身動きが取れず、口だけしか出せない彼の、みっともない悪足掻き。
だけどそれと同時に、確かに嘆きはあった。
「怒れよ!」
元がどれだけ外道であろうと、それでも、
「プライドを、取り戻せ!」
人間がこんな簡単に、道具扱いされていい訳が無いと。
……その言葉に、少しの静寂があった後、
ザマは、言った。
「たす、けて」
「……え?」
あの郷間ザマが――レインだけでなく、様々な人間を傷つけてきた、傲慢な男が発したのは、
「助けて、助けて、助けてぇぇぇ! も、もうやだ、愛されるのも、見放されるのも、あ、頭が、体が、おかしくなる!」
「ザ、ザマ?」
「うう、ごめんなさい、ごめんなさい、悪い事して、ごめんなさい、あ、あ、あぁぁっ!?」
狂乱の態をみせるザマに、呆然とするシソラであったが、そこでリアが、
「落ち着け」
と言った。
――そのたった一言で
ピタリ、と、ザマは止まり、そして、
「……本当に、愛しい」
リアは、ザマに近づく。
「駄目な、子ほど、可愛い」
それはどうやら本心のようで、汎用アバターから放たれる抑揚少なき言葉からも、その感情が滲み出てる。
「ああ、人間は、完全で、不完全で、情けないから、どこまでも、果てなく、愛しい、だから」
そして、言った。
「死ぬ事なんて、許されない」
ナイトゴールドが、二つのクラマフランマを構えた。
「そう、だから、お願いだ」
そしてシソラに対しても、ザマへと同じ感情を、
「――死なないで」
ぶつけた。
――言葉とは矛盾するように
ナイトゴールドの燃える二振りの剣が、
身動きが取れぬシソラへ向かって、振り落とされる。
「
――次の瞬間
空間を斬り裂きながら現れたブラッククロスが、
そのままナイトゴールドを、背後から斬り”飛”ばした。
「がぁっ!?」
――アイズフォーアイズの刃物系攻撃は
多くのゲームと同じように、物理的なダメージとなる。単純な
「クロ!」
助けに来てくれた友達に、シソラが笑顔を浮かべれば、
「ブラッククロスと呼べよ、スカイ」
そう、クロスも言った。
「ごめん、今の我は、マスクを付けてないからシソラだよ」
「ああ、そういうこだわりか、昔からそういうの変わってないな」
あの戦い以来の再会なれど、すっかり、様子は違っている。小学生の時と同じノリで会話をする二人に、
「どう、やって、ここに、来れた」
リアが声をかけたが、すぐに彼女は言った。
「データー破壊、か」
「ああ、俺のグリッチは、どんなプロテクトだろうと”破壊して”ログイン出来る」
「……アイが、お前のログインを、無意識に、助けたのでは、ないか」
「……それだったら、どれだけ良かったか」
クロスは目を細めながら、呟く。
「解るんだよ、今までの俺のデーター破壊グリッチは、アイさんの力を借りてのものだった、だけど今の俺にはそれが感じられない」
それが示す事実は、
「――アイさんは今、完全に、お前の
否定したくとも、認めなければいけない事実だった。
「……それが、解った上で、何をしに、来た」
「アイさんに、シソラを助けろと言われたからな」
「まだ、お前は、アイの、言いなりか」
「――言いなりじゃない」
そこでキッと、リアをクロスは睨み付ける。
「俺は、アイさんの友情に応える為に来た」
「――クロス」
恥ずかしげも無くそこまで答えたクロスに対し、リアは、
「ははっ、はははっ」
無表情のままに――爆笑した。
「ははははははははっ!」
それは異様な姿ではあったものの、クロスもシソラも動揺したりせず、睨み付ける。
一人では恐怖を覚える者も、二人でならちゃんと正面から受け止められる。
「そうか、お前は、アイの力無しで、データー破壊グリッチを、
「それがどうした?」
「私の、理論の正しさが、証明された――やはり奇跡は、人を、救うのは、愛の力だ!」
愛、という単語に、クロスは、
不快感を隠せなかった。
「お前が、愛を語るのか?」
「ああ、そうだ、だって、私は、人間を――君達を、愛してる!」
「ならどうして、こんなひどい事をする?」
「ひどくは、ない、全ては、救われる! 私は!」
彼女はついに、言い放つ。
「
「お前がそんなものの訳がないだろ」
――ブラッククロスは刀を抜いた
「
居合による、距離を破壊しての十字の斬撃は、リアの汎用アバターの体を確かに抉った。
――十字の傷から0と1が溢れ
痛みに喘ぐように、その傷を抑えふらつくリア。だが同時に、
「――やれ」
クロスの向こう側と呼びかければ――気付けば、ソラの頭上を飛び越えて、ナイトゴールドが斬り掛かってきていた。
クロスはその二本の剣を、刀と鞘で受け止める、そのまま、暗殺者と
「クロス!」
相変わらず、身動きが取れないシソラが声をかければ、
クロスは――とても余裕が無いだろうに、しっかりと笑いながら、ソラへと声をかけはじめた。
「シソラ、今からお前をここから逃がす!」
「に、逃がすってどうやって」
「俺がお前を斬る」
「え?」
それは訳の解らぬ理屈であった、だが、
「俺が斬る事で、お前のログアウト出来ない状態を、破壊する!」
理由を説明する――
しかし、少しでもミスればそれは、
よしんば、
だが、
「解った!」
シソラは友の提案に、即答した。
ならば、クロスはふっと笑った後、必死の形相のナイトゴールドの蹴りを、
――グリッチ無しの、ファントムステップでかわしてみせた
憧れを、真似るように。
「どうだ、結構うまいだろう?」
そう軽口を、シソラに言って見せた後、
「
シソラの体を、距離を壊す斬撃で、斬って見せた。
痛みは無い、ただ、意識が薄らぐ、シソラの視界が白く染まっていく。
フェードアウトしていく光景の中で幼馴染みは、ナイトゴールドに、その体を引き裂かれるまで、
最後まで、あの頃のように笑っていた。