地下室に侵入してか25分経過、即ち、残り時間は5分。
目的地の、宝箱のエリアまでもうすぐの地点にて、
『右40! 左17と38! 右23!』
ランダムかに見えて規則性をもって射出されるナイフを、予め決めていたレインの言葉のままにかわしていくソラ、いや、スカイゴールド。スーツは防弾防刃性を誇るが、真正面から受け止めれば、肌まで貫通する可能性はある。ゲームのように、回復する事も無い。
だが、そんな命懸けの状況でも、
スカイは不適に笑いながら、刃の雨を潜り抜けた。
※ サーカスかよ!?
※ いやこれ、CGでしょ、それか録画でしょ!?
※ ほ、本物だったら、三回まわってください!
犬かよ! とツッコミが入るそのコメントを見たスカイゴールドは、
「本物だよ」
そう言った後、背後から襲いかかってきたナイフを、
『背の0!』
レインの声に従った後、
※ うわぁぁぁぁリアルタイムだぁ!
※ 現実でこんだけ動けりゃ、そりゃゲームでもヤバいわ!
※ スカイの中の子、人間をやめてた
下から上へと流れていく、怪盗の賞賛のコメントの中で、
※ かっこいい!
かっこいい、と、
その言葉を見れば、胸からこみ上げてくる物があった。現実の自分では、けして得られないと思っていた言葉。
走りながら、その喜びを噛みしめていたが、
『――スカイ、次が最後の関門だ』
「ああ」
レインの言葉に、思い耽る事をやめにする。
最後のセキュリティは、人型サイズ、四脚と四本の腕を持つ警備ロボットが三体。捕縛ネット、電流警棒、目つぶしガスと、ありとあらゆる手段での無力化を狙ってくる三体を、
どうにか潜り抜けて、宝箱に辿り着く。
――それが、怪盗スカイゴールドの最後の見せ場
残り時間3分、角を曲がり、その地点に辿り着いた時、
「――え」
警備ロボットは、一体だった。
しかしその一体は、
十二本の足を持ち、十二本の腕を持ち、そして、
身の丈三倍分のサイズを誇る。
天才開発者久透リアによって作られた、
怪盗への
多脚多腕のロボットは、竜巻のように回転しながら、
「うわっ!?」
容赦無く、電流奔る攻撃用アームをぶつけてくる! それを一度跳ねて躱しても、次の腕がやってくるから――仕方無く、ソラはそれを足裏で受け止めた。
――耐電仕様ではあるものの
「ううっ!?」
『スカイ!』
幾らかは貫通するくらいに電圧は高く、ソラはそのまま、壁まで吹っ飛ばされる、だが、
――その壁へと垂直に
猫の様に衝撃を殺しながら、ぶつかってみせた。そしてすぐさま周囲の状況を確認する。
このエリアの広さは10平方メートル、天井は高く3メートルだが、ロボットの全長幅は3メートルで、上下をしっかり繋いでいた。
そして、エリアの奥には扉があって、その前には、ナイトゴールドが盗み続けた物とそっくりの、宝箱が置かれていた。
あの宝箱に、制限時間内に触れれば怪盗の勝ちで、
逆に辿り着かなければ、怪盗の負け。
※ うわぁ! SFぅ!
※ いや今の一撃、エグくなかった!?
※ ああスカイ、危ない!
状況分析もろくにさせない侭、巨躯のロボットは突っ込んできた。多脚多腕のメリーゴランドに巻き込まれるソラ、うまく距離を取らないと、あっという間に逃げ場の無い角へと連れて行かれる。
『クソ、最後にこんな罠のアップデートを!』
虹橋アイから受け取った攻略マップを元に、何度も繰り返した脳内シミュレーション。それを最後の最後でちゃぶ台返しされて、レインの心は焦りを見せた。
だが、
「キューティ、気付いた事があるんだけど」
『――何?』
スカイはこの状況ですら、
「あのロボット、中心に、停止スイッチみたいなのがある」
笑っていた。
スカイの言葉通り、ちょうど、多脚と多腕を繋ぐ中央あたりに、真っ赤なボタンがこれみよがしに設置されている。それは配信画面にものって、コメント欄をざわつかせた。
『待て、
「ああ、どう思う?」
『普通に考えればダミーだろう、私達に、ロボットから逃げるのでなく、立ち向かうという選択肢を与え迷わす為の』
「現実ならそうだよね」
だけど、スカイは、この改造を、
「でもこれって、挑戦状じゃないかな」
そう受け止めた。
※ え、彼女って誰?
※ 二人とも何を言ってるのか
※ 予告状を送った相手がその人?
不要な混乱を招く可能性を考えれば、まだ世界に明かすわけにもいかない彼女の名前。
――久透リアは非道である
もとより、不老不死の体を得たと謳うその身、文字通り人外の領域の彼女に、人の心があるか解らない。ゆえに人間のような、”遊び心”を期待するなぞ、本来、危険である。
だけどそれでも、スカイは賭けた。
その理由は既に述べた通り、神の悪徒という彼女の計画に、怪盗なんて、物語の存在を冠した存在を入れているという事、そんなのは、
遊び心が無ければ、やろうともしない。
残り時間は2分を切った、スカイは、二十四本の暴力を、紙一重で躱し続けている。このまま隙を突いて宝箱を狙うか、それとも停止スイッチを先に押すか。
後者の方はそもそも、ダミーの可能性を考えれば、取るべきではない選択肢だ、だが、
レインは、言った。
『これは
自分の最愛が、
『お前がかっこいいと思う事をやれ!』
一番望む事を、して欲しくて。
――その最後の一押しが、スカイゴールド、そして
白金ソラの力になる。
「ああ!」
そう声をあげればスカイは、そのまま、ロボットへと突っ込んだ。スーツを来ててもまともに当たれば、肌が破れ、骨が砕ける事が必至の領域へ。だが、躱す、避ける、相手の腕と脚をいなしながら、三歩進んで二歩下がる攻防を、瞬き一つのリズムで繰り出していく。
――動きで魅せる
現実の
ただひたすらに、避けて、躱し続ける。
だけどその動きはひたすら舞うように、逃げ一辺倒でありながら、華麗に映るように。
『……本当に』
あの頃、幼馴染みがくれた憧れは、今、
『かっこいいな』
レインだけでなく、全ての、世界のものになる。
残り時間が一分切った所で、
自分の
――スカイの体を押し潰そうと本体全部が座るように下がる
だがその時には既にソラは足元から抜けだし、
一斉に襲いかかってきた十二本を、全て見極め、
「――
「
鮮やかにすり抜けたその体は、
停止スイッチを、速やかに押した。
――反応は即座
二十四本のレッグアームは全て、ビタリと、そのままに一時停止する。スカイ、
「よいしょっと」
その一言と一緒に、固まったロボットから床へと飛び降りた時、残り時間は三十秒。だが、スカイは一つも慌てる様子が無く、一歩一歩、宝箱へと向かって歩を進める。
残り十秒を切っても、焦る事も無く、
時間いっぱい使って、余裕をもって、そう、
――笑顔を絶やさぬままに
残り時間一秒の時に、部屋の扉の前にある、宝箱の前に立ち、そして、
それに触れた。
「スティール」
ゲームじゃないこの現実で、言う必要も無いセリフ。
だけどその瞬間、このエリアに、
『GAMECLEAR!』
と、アイズフォーアイズお馴染みのAI音声が響き渡った。
※ あああああああああああああ!
※ すげえええええええええええ!
※ 怪盗最強おおおおおおおおお!
WeTubeのコメント欄は勿論、世界中で、怪盗スカイゴールドのした事を、ただただ、人の身でありながら、難攻不落の罠達を、華麗な技で攻略したその姿を、
人々は称え、そして浸っていた。