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8-15 仮想から君へ

 地下室に侵入してか25分経過、即ち、残り時間は5分。

 目的地の、宝箱のエリアまでもうすぐの地点にて、


『右40! 左17と38! 右23!』


 ランダムかに見えて規則性をもって射出されるナイフを、予め決めていたレインの言葉のままにかわしていくソラ、いや、スカイゴールド。スーツは防弾防刃性を誇るが、真正面から受け止めれば、肌まで貫通する可能性はある。ゲームのように、回復する事も無い。

 だが、そんな命懸けの状況でも、

 スカイは不適に笑いながら、刃の雨を潜り抜けた。


※ サーカスかよ!?

※ いやこれ、CGでしょ、それか録画でしょ!?

※ ほ、本物だったら、三回まわってください!


 犬かよ! とツッコミが入るそのコメントを見たスカイゴールドは、


「本物だよ」


 そう言った後、背後から襲いかかってきたナイフを、


『背の0!』


 レインの声に従った後、無駄に三回回りながらトリプルアクセル、その凶刃を躱して見せた。これ以上無い存在証明に、コメントは更に加速した。


※ うわぁぁぁぁリアルタイムだぁ!

※ 現実でこんだけ動けりゃ、そりゃゲームでもヤバいわ!

※ スカイの中の子、人間をやめてた


 下から上へと流れていく、怪盗の賞賛のコメントの中で、


※ かっこいい!


 かっこいい、と、

 その言葉を見れば、胸からこみ上げてくる物があった。現実の自分では、けして得られないと思っていた言葉。

 走りながら、その喜びを噛みしめていたが、


『――スカイ、次が最後の関門だ』

「ああ」


 レインの言葉に、思い耽る事をやめにする。

 最後のセキュリティは、人型サイズ、四脚と四本の腕を持つ警備ロボットが三体。捕縛ネット、電流警棒、目つぶしガスと、ありとあらゆる手段での無力化を狙ってくる三体を、

 どうにか潜り抜けて、宝箱に辿り着く。

 ――それが、怪盗スカイゴールドの最後の見せ場

 残り時間3分、角を曲がり、その地点に辿り着いた時、


「――え」


 警備ロボットは、一体だった。




 しかしその一体は、

 十二本の足を持ち、十二本の腕を持ち、そして、

 身の丈三倍分のサイズを誇る。

 天才開発者久透リアによって作られた、

 怪盗へのサプライズ想定外だった。




 多脚多腕のロボットは、竜巻のように回転しながら、


「うわっ!?」


 容赦無く、電流奔る攻撃用アームをぶつけてくる! それを一度跳ねて躱しても、次の腕がやってくるから――仕方無く、ソラはそれを足裏で受け止めた。

 ――耐電仕様ではあるものの


「ううっ!?」

『スカイ!』


 幾らかは貫通するくらいに電圧は高く、ソラはそのまま、壁まで吹っ飛ばされる、だが、

 ――その壁へと垂直に

 猫の様に衝撃を殺しながら、ぶつかってみせた。そしてすぐさま周囲の状況を確認する。

 このエリアの広さは10平方メートル、天井は高く3メートルだが、ロボットの全長幅は3メートルで、上下をしっかり繋いでいた。

 そして、エリアの奥には扉があって、その前には、ナイトゴールドが盗み続けた物とそっくりの、宝箱が置かれていた。

 あの宝箱に、制限時間内に触れれば怪盗の勝ちで、

 逆に辿り着かなければ、怪盗の負け。


※ うわぁ! SFぅ!

※ いや今の一撃、エグくなかった!?

※ ああスカイ、危ない!


 状況分析もろくにさせない侭、巨躯のロボットは突っ込んできた。多脚多腕のメリーゴランドに巻き込まれるソラ、うまく距離を取らないと、あっという間に逃げ場の無い角へと連れて行かれる。


『クソ、最後にこんな罠のアップデートを!』


 虹橋アイから受け取った攻略マップを元に、何度も繰り返した脳内シミュレーション。それを最後の最後でちゃぶ台返しされて、レインの心は焦りを見せた。

 だが、


「キューティ、気付いた事があるんだけど」

『――何?』


 スカイはこの状況ですら、


「あのロボット、中心に、停止スイッチみたいなのがある」


 笑っていた。

 スカイの言葉通り、ちょうど、多脚と多腕を繋ぐ中央あたりに、真っ赤なボタンがこれみよがしに設置されている。それは配信画面にものって、コメント欄をざわつかせた。


『待て、彼女リアは、そんなものをわざわざ用意したのか』

「ああ、どう思う?」

『普通に考えればダミーだろう、私達に、ロボットから逃げるのでなく、立ち向かうという選択肢を与え迷わす為の』

「現実ならそうだよね」


 だけど、スカイは、この改造を、


「でもこれって、挑戦状じゃないかな」


 そう受け止めた。


※ え、彼女って誰?

※ 二人とも何を言ってるのか

※ 予告状を送った相手がその人?


 不要な混乱を招く可能性を考えれば、まだ世界に明かすわけにもいかない彼女の名前。

 ――久透リアは非道である

 もとより、不老不死の体を得たと謳うその身、文字通り人外の領域の彼女に、人の心があるか解らない。ゆえに人間のような、”遊び心”を期待するなぞ、本来、危険である。

 だけどそれでも、スカイは賭けた。

 その理由は既に述べた通り、神の悪徒という彼女の計画に、怪盗なんて、物語の存在を冠した存在を入れているという事、そんなのは、

 遊び心が無ければ、やろうともしない。

 残り時間は2分を切った、スカイは、二十四本の暴力を、紙一重で躱し続けている。このまま隙を突いて宝箱を狙うか、それとも停止スイッチを先に押すか。

 後者の方はそもそも、ダミーの可能性を考えれば、取るべきではない選択肢だ、だが、

 レインは、言った。


『これはゲーム遊びだ!』


 自分の最愛が、


『お前がかっこいいと思う事をやれ!』


 一番望む事を、して欲しくて。

 ――その最後の一押しが、スカイゴールド、そして

 白金ソラの力になる。


「ああ!」


 そう声をあげればスカイは、そのまま、ロボットへと突っ込んだ。スーツを来ててもまともに当たれば、肌が破れ、骨が砕ける事が必至の領域へ。だが、躱す、避ける、相手の腕と脚をいなしながら、三歩進んで二歩下がる攻防を、瞬き一つのリズムで繰り出していく。

 ――動きで魅せる

 現実の怪盗白金ソラには、攻撃手段という物が無い。

 ファントムステップ怪盗舞踏という、小学生の時に作った技で、

 ただひたすらに、避けて、躱し続ける。

 だけどその動きはひたすら舞うように、逃げ一辺倒でありながら、華麗に映るように。


『……本当に』


 あの頃、幼馴染みがくれた憧れは、今、


『かっこいいな』


 レインだけでなく、全ての、世界のものになる。




 残り時間が一分切った所で、

 自分の小柄コンプレックスを活かして、十二脚の下に潜り込んだ。

 ――スカイの体を押し潰そうと本体全部が座るように下がる

 だがその時には既にソラは足元から抜けだし、

 一斉に襲いかかってきた十二本を、全て見極め、


「――ファントム怪盗


 本体中心ゴールへの道を見出して、


ステップ舞踏


 鮮やかにすり抜けたその体は、

 停止スイッチを、速やかに押した。




 ――反応は即座

 二十四本のレッグアームは全て、ビタリと、そのままに一時停止する。スカイ、


「よいしょっと」


 その一言と一緒に、固まったロボットから床へと飛び降りた時、残り時間は三十秒。だが、スカイは一つも慌てる様子が無く、一歩一歩、宝箱へと向かって歩を進める。

 残り十秒を切っても、焦る事も無く、

 時間いっぱい使って、余裕をもって、そう、

 ――笑顔を絶やさぬままに

 残り時間一秒の時に、部屋の扉の前にある、宝箱の前に立ち、そして、

 それに触れた。


「スティール」


 ゲームじゃないこの現実で、言う必要も無いセリフ。

 だけどその瞬間、このエリアに、


『GAMECLEAR!』


 と、アイズフォーアイズお馴染みのAI音声が響き渡った。


※ あああああああああああああ!

※ すげえええええええええええ!

※ 怪盗最強おおおおおおおおお!


 WeTubeのコメント欄は勿論、世界中で、怪盗スカイゴールドのした事を、ただただ、人の身でありながら、難攻不落の罠達を、華麗な技で攻略したその姿を、

 人々は称え、そして浸っていた。

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