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8-18 AIの唄

 ――久透リアの子供部屋にて


『結論から言えば、お母さんの計画は、愛故に間違える可能性が高い』


 2025年のパソコンが動画を流し終えた後、2089年の技術の粋により、あらかじめ、このタイミングで再生されるように設定された、虹橋アイの語りが始まる。


『愛は確かに奇跡を起こすけど、同時に、大切な物を見失ってしまう事もある』


 虹橋アイの言葉が、彼女を産んだ、母親の部屋に満ちていく。


『――お母さんは優しいの、全人類を助けたいくらい、優しいの』


 その言葉は穏やかで、


『だけど優しいから間違えるの、お母さんの言うとおりにすれば大丈夫だからって、そんなの、おかしいでしょ?』


 だけど寂しそうに、


『お母さんだって、間違える事もあるのに』


 せつなそうに。

 ……少し、沈黙を置いた後、彼女はうつむきながら、再び話し始めた。


『私はお母さんの胎内で作られたデザインドチルドレン、この母性的な性格も、作られたもの――母は私を母として産んだ』


 彼女は、たんぱく質で出来たコンピューター。


『皆を包む、神様になってほしいってお母さんは言った、私はそれでもいいと思った、けどね』


 だけどそんなのは、


Eye's for I'sなりたい自分を見つける


 人間だって、同じだ。虹橋アイとソラ達に、なんの違いも無い。


『……Eが付けば、なんでも良いって言われた、だから私は世界ゲームをそう名付けた、今思えばそれが、私の最初の反抗期』


 どれだけ凄い力があろうとも、世界を悲しみから救う力があろうとも、


『――私は神様じゃなくてね』


 虹橋アイは、


『みんなの、友達でありたい』


 人間だ。


『……クロ君のシフォンケーキ』


 彼女の瞳に涙が滲んだ、

 ふるふると震えながら、アイは、


『みんなと一緒に、食べたいなぁ』


 ――その言葉を最後にして

 彼女の映像は、ブツリと切れた。

 ……久透リアとの取り決めか、あるいは彼女の判断か、結局、久透リアを止める為に必要な情報の提供は無かった。

 だけど、


「――予告状、作りましょう」

「ああ」

「日時は何時がいいですか」

「それはもう決まってるだろ――それよりも」

「ええ、どうやって侵入経路ログイン方法を確保するかですね」

「仮に、虹橋アイさんのデバイスでログイン出来たとしても、そこからの安全が保証されてない」

「何かこの場所に、解決策があると思います」

「そうだな、ただ久透リアの過去を知って欲しいからだけで、アイさんがここに導いたとは思えない」

「探しましょう」

「解った、母上にも連絡する」


 やるべき事は定まった、あとはそれを実行するのみ。

 無論、ソラとレインがする事が、正義という訳でない。虹橋アイの懸念はただの杞憂であり、このまま、彼女による人類救済が行われた方が、ずっといいかも知れない。

 だけど二人は正義の味方ではなく、


「――アイさんを必ず」

「奪ってみせる」


 大好きな友達の為なら、盗む事も厭わない、

 悪党である。







 翌日未明、再び、怪盗の捨てアカウントから、一つの画像が投稿された。




 予告状

 10月15日19時

 RMT業者から世界を奪い返します

 怪盗スカイゴールド




 ――決戦ははそう

 アイズフォーアイズ20周年の日。

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