目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

―第五十三章 ―覚悟―

「それで、どうやって戦えばいいんだ?」

「んなことくらい自分で考えろ。その空っぽな脳みそでよぉ」


 一時的に協力体制をとるとは決めたものの、エリオットはすぐに喧嘩を売る性質たちのようで、会話はなかなか続かなかった。それでもロザリンはめげずに、皆で戦うのだと諭すように仲介役を買って出る。


「タクマは今のガルトール公を見ていないもの、私とあなたで作戦を提案しないといけないでしょう?」

「はっ。提案つっても、人間相手じゃねえんだ。多分、決めてもどうにもならねえぞ」

「それならもっと情報をくれんか? ワシらも今のままじゃ立ち向かうにしても、不安しかないぞ」


 コウテツの言葉に、エリオットは面倒くさげに深く息を吐くも、口を開く。


「大方はさっき話した通りだ。身体はもう人間のものじゃねえ。下半身がでけえ肉になっていて、そこから気持ち悪ぃ蔓みたいなのが伸びてくる」

「動いているものに対して、反射的に伸ばしているようなの。大きな動きを見せたら、すぐに肉の蔓が飛んでくるわ」


 エリオットの説明に補足するように、ロザリンも話す。その説明を聞き、拓真は渋い顔を見せた。


「動きを見せられない以上、正面突破は無理そうだな……それだと、奇襲をかけるとか?」

「まだ部屋の中にいるようでしたら、音を立てないようにゆっくり動いて、背後に近づいてみるのはどうですか?」


 オーマの提案に、ロザリンは首を横に振る。


「少しよろめいただけの兵士さんの動きすらも見ていたようだから……それはちょっと難しいかもしれないわ」


 どの程度の動きに反応するかもわからないけど、と続けようとしたところ、それを遮るようにエリオットが声を上げる。


「だからよお……わからねえことも多い以上、結局は正面からぶつかるしかねえってことだ」


 そういうと、エリオットは自分の大剣を魔法で呼び出し、肩に担いだ。もう戦う準備は万全といった様子で、ガルトールがいるであろう部屋の方角を見やる。


「無駄に喋ってねえで、そろそろ向かうぞ。移動して他の餌を探し回られても、困るからな」

「待て。ワシから一つ提案がある」


 進みだそうとするエリオットの背に、コウテツが呼びかける。怠そうに振り向いたエリオットは、続きを促した。


「ワシは力が自慢だ。体力、攻撃ステータスもお前さんたちよりずっと高い自信がある。だから、ワシがガルトールとやらの前に出て、囮になるのはどうだ?」


 コウテツの提案に、エリオットは片眉を上げて反応を示す。興味が出たのか、顔だけではなく身体までコウテツに向け、さらに続きを促した。


「ワシが奴の前に出れば、肉の蔓を伸ばしてくるだろう。それを掴み、動きを止めている間にお前さんたちが斬りかかるといい。さすがに三本の剣があれば、どんな化け物だって倒せるだろ」


 一に拓真、二にエリオット、そして三にオーマを指差し、コウテツは頷く。ロザリンはエリオットにここへ連れてこられる前に、メファールの村で剣を落としてしまっていた。守られるだけの存在になってしまっていることを悔やみはするが、現状ではどうすることもできないので、ロザリンもコウテツに倣って賛成の頷きを見せる。


「おもしれえ作戦だ。よし、それで行くぞ」

「でも……」


 機嫌が良くなっていたエリオットの言葉を遮ったのは、弟であるオーマであった。


「それは上手くいけば、の話ですよね。父上は半分ほど怪物になっていても、上半身は人の形で、剣も扱っていたのでしょう?」

「ぐだぐだうるせえな。何が言いてえんだ?」

「……もし、失敗してしまったら……コウテツさんは……」


 オーマの言いたいことは、拓真も危惧していることだった。剣の手練れが怪物と化し、元々の剣の腕以外にも力を手に入れているのなら、ここにいる全員で止められるかどうかすらも怪しいと思っている。

 それをエリオットは、馬鹿にするように鼻で笑った。


「戦いにおいて、死者が出ないことなんざありえねえ。おっさんの命と、いずれ親父に食われるその他大勢の命、どっちを護るべきだっていうんだ?」

「そんなの、両方に決まってるだろう」


 必ず問われることに、拓真はきっぱりと答えを出した。


「あ? てめえ、そんな甘ぇこと言ってよぉ……頭沸いてんのか?」

「俺は誰も死なせるつもりはない。みんなで生き残るんだ」

「どうやって?」


 エリオットが喧嘩腰であろうとも、拓真は至って冷静に向き合う。


「コウテツが囮になってもらう案は、そのまま使う。正面で抑えてもらっている間に、俺とあんたとで背後に回り、ガルトール公を襲撃するんだ。そして今度はこっちに気が向いた時、オーマくんとロザリンでコウテツの拘束を解いてもらう」

「肉の蔓はいくつも出るんだぞ。俺とてめえも襲われんだろうが」

「まさか、それくらいも退けられないっていうのか? あんたほどの剣の使い手が?」


 ちら、と拓真はエリオットの持つ大剣を見た。鈍い輝きを放つ大剣は、沈黙を貫いている。

 エリオットは歯を食いしばり、拓真に殴りかかるのを抑えた。その代わりに額を突き合わせるほど近付き、威嚇するように睨みつける。


「言ってくれるじゃねえか……いいぜ。てめえの作戦、乗ってやんよ」

「ありがとう。協力してもらえて助かるよ。コウテツもそれでいいか?」

「いいぞ。ワシも簡単に死ぬつもりはないしな」


 コウテツは掲げた片腕をもう片手で叩き、良い音を鳴らした。

 拓真とコウテツの態度が気に食わないのか、エリオットは唾を吐き捨ててから先に歩き始める。


「てめえらさっさと来い! んなとこに突っ立ってても、終わらねえんだよ!」

「その前に、もう一つだけ」

「うるっせえなあ! んだよ!」


 拓真の言葉に、エリオットは振り向かずに答えた。苛立っているのか、エリオットは後頭部をガシガシと力任せに掻く。


「あんたとオーマくんは……父親を手にかけることになるんだぞ。本当にいいのか?」


 その時、エリオットの纏う空気が変わったのを、拓真は確かに感じた。冷たい水を打たれたような、静寂。先ほどまでの話し合いが意味を為さなくなったとしても、拓真は聞いておきたかった。

 オーマは、エリオットから答えるのを待っているようだった。ただただエリオットを見つめ、自分は口を噤んでいる。胸の内が同じであるかどうかを、不安に思っているようにも見えた。

 ほんの僅かな時間が流れ、エリオットが口を開く。


「親父はいない。俺の親父は、もっとずっと昔に死んだ」


 そして、今度は怒鳴ることなく、エリオットは先に一人で進んでしまった。

 拓真はオーマにも振り向く。オーマは困ったように微笑んだが、腰に差した細剣を手に取って答えた。


「父上は、ずっと前から……ぼくたちの父上ではなく、名声と地位を求めるだけのガルトール・ガリオン、その人でした。つまり……討つ覚悟は、できています」


 兄弟二人の意見に、拓真はただただ複雑な心境だった。しかし、ここで慰めと同情を向けている余裕はない。


「わかった。俺たちで、倒しに行こう」


 ならばせめて、寄り添うまで。

 拓真の返事に頷いたオーマが駆け出し、その後ろをロザリンが追いかける。残ったコウテツと目配せをして、拓真も戦うために駆け出した。

 その腰に差した、刀の柄に手をかけながら。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?