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第77話 僕は女王に悩みを打ち明ける

 ミランダが誘拐されたことを知らない、フェリックスは五日間の馬車旅を経て、ソーンクラウン領へ到着した。

 フェリックスはイザベラが拠点としている屋敷へ連れて行かれた。

 屋敷にイザベラが滞在していることは、一部の関係者しか知らないようで、何も言われなければただの富豪の屋敷である。

 屋敷に入るなり、フェリックスはイザベラから熱烈な歓迎を受けた。

 そして夜。

 役目を終えたフェリックスはイザベラと共にベッドで横になっていた。


「イザベラさま」

「イザベラでよい。フェリックスとわらわは身体の関係じゃからのう」


 イザベラはフェリックスの身体をベタベタと触れる。

 その触れ方がいやらしく、フェリックスはゾクゾクとする。

 経験豊富なだけあって、イザベラとの夜はミランダの時よりも興奮した。先ほど終わったはずなのに、またイザベラといちゃつきたいと思ってしまう。


(いやいやいや、これは義務だから。僕にはミランダがいるんだから)


 フェリックスはきつく目を閉じ、我慢する。


「イザベラ、君にしか出来ない話があるんだ」


 我慢が爆発する前に、フェリックスはイザベラの関心を逸らすことにした。


「ほう」

「その……、最近、ミランダとの仲がぎこちなくて」

「ふんっ、小娘のことか」


 ミランダの事を出すと、イザベラは不機嫌になる。

 腰をつねられ、フェリックスは「いったっ」と口にする。


「フェリックスと小娘の関係が悪くなるのは、わらわとして好都合じゃが」

「それはそうだろうけどさ……」


 イザベラはフェリックスに背を向け、寝ようとする。


「考えても答えが出ないんだよ!! イザベラ、君だけが頼りなんだ」

「……」


 寝返ったイザベラは、目を細め不機嫌な表情でフェリックスを見ている。

 少しの間、互いに見つめ合う。

 イザベラがため息をつき、彼女が先に折れた。


「申してみよ」

「ありがとう、イザベラ!」


 フェリックスはイザベラに感謝し、彼女に悩み事を話す。


「ミランダが――」


 フェリックスはイザベラにミランダの事を相談する。

 内容を聞いたイザベラは口元をゆるめた。


「……小娘らしい悩みじゃな」

「分かるんだったら僕に教えてよ!!」


 焦らすイザベラにフェリックスは迫る。


「小娘はフェリックスと話がしたかったのじゃろう」

「その……、僕が下手すぎてミランダを失望させたわけじゃないんだね」


 自身が気にしていたことが原因ではないと分かったフェリックスは安堵する。


「そなた、下手だと気にしておったのか?」


 フェリックスの発言を聞き、イザベラはケラケラと笑っていた。


「笑うなよ。僕は真剣に悩んでたんだぞ」


 イザベラの態度にフェリックスはムッとする。


「わらわは経験豊富じゃから、おぬしの相手をしても余裕があるが、小娘はそなたが”初めて”じゃろう? あやつはフェリックスについてゆくので精一杯なのではないかえ」


 イザベラはミランダの気持ちを代弁する。

 ミランダはフェリックスといちゃつくさい、必死になってしまい、二人で過ごす時間がそれだけになってしまうのが嫌だったのではないかとイザベラはフェリックスに説く。


「おぬしのことじゃから、『もっといちゃいちゃしたい』とか『休日は家の中でのんびり過ごしたい』とか自分勝手なことを小娘に申していたのじゃろうな」

「……」


 図星を突かれたフェリックスは空笑いで誤魔化す。

 フェリックスの反応を見たイザベラは深いため息をついた。


「小娘にとって話し相手はおぬししかおらぬ。平日は自分の話を聞いて欲しいじゃろうし、休日はおぬしとデートしたいじゃろうて」

「そうだったんだ……」

「帰ったらちゃんと小娘と話し合うことじゃな」

「そうする」


 フェリックスはイザベラに軽くキスをした。


「相談に乗ってくれてありがとう。イザベラ」


 イザベラはフェリックスをぎゅっと抱きしめ、彼の太ももを撫でまわす。


「感謝をしておるなら、明日の夜伽も楽しませておくれ、フェリックス」

「う、うん……」


 その後の二日間、フェリックスはイザベラに翻弄され、疲弊することとなる。



 帰りの馬車。

 ソーンクラウン領を発ってから五日が経ち、帰宅は今日だ。


「一人になれると思ったのに……、変装してついてくるんだね」

「もちろんじゃ。フェリックスの身体を長く堪能したいからのう」


 イザベラが泥魔法で黒髪の少女に変装し、メイドとして同乗していた。

 そのため、帰りの五日間もイザベラの夜の相手を務めることとなり、毎朝フェリックスはクタクタだった。


(ミランダもこんな気持ちだったんだろうな)


 ミランダの気持ちになることができたフェリックスは、家に帰ったらミランダとじっくり話し合う時間を作ろうと胸に誓う。

 イザベラはフェリックスに身体を預け、密着する。


「家に帰ったら、離れてよ」

「うむ」


 馬車はフェリックスが暮らす町の門を通過する。

 ミランダが待っている自宅へはもうすぐだ。


(ミランダに会える……)


 フェリックスの頭の中はミランダでいっぱいだった。

 留守の間、ミランダはなにをしていたのだろうか。


(早くミランダの声、聴きたいなあ)


 フェリックスはミランダに再会することを心待ちにしていた。


「着いたか」


 馬車が止まる。

 少しして馬車の扉が開き、フェリックスは馬車を降りた。

 イザベラに手を差し出すと、彼女はフェリックスの手を取り、馬車から降りる。


「ここがおぬしと小娘が暮らしている家か」


 イザベラはフェリックスとミランダが住む家を見上げる。


「入る?」

「いや、わらわはここで帰る」

「そう」

「一か月後、今度はわらわがこの姿でここにくる」

「今回ので僕の役目が終わるといいんだけど……」


 フェリックスは願望をぼやきつつ、イザベラと別れの挨拶をしていた。


「フェリックス先輩!!」

「ちっ、お前……」


 突如、フェリックスとイザベラの会話はライサンダーの乱入によって遮られる。

 イザベラはライサンダーを睨んでいる。


「ミランダの……、妹の行方が分からないんだ!!」


 ライサンダーはフェリックスにミランダが行方不明になっていることを告げる。



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