放課後、エリオットは”ボランティア部”の部室を訪れる。
ボランティア部の主な活動内容は校内・郊外の清掃活動と奉仕活動。
つまりは頼まれればなんでもやるのだ。
顧問の教師は部活動に熱心な方ではなく、部活に来ることはない。
部室にはエリオットを含む五人の男子生徒が集まった。
エリオット以外は二年・三年の先輩である。
「エリオット、来たか」
「”緊急招集”っすからね」
エリオットは空いている席に座る。
全員、部員であるがそれは仮の姿。
彼らは革命軍のメンバーであり、集会所となっていた。
「賭博場も五葉のクローバーもイザベラに潰された。唯一、動いているのは娼婦館だけ」
革命軍は活動資金難という問題に直面していた。
イザベラが次々と資金源となっていた賭博場や違法薬物を摘発していったからだ。
稼働しているのは娼婦館だけ。
「上から『学園の女生徒を一人用意しろ』ってさ」
先輩がため息交じりで上からの命令が書かれた紙をテーブルに置き、エリオットたちに見せる。
紙には乱暴な字で、娼婦を補充したいから金になる女を用意しろと書いてある。
革命軍は若く美しい女性をさらい、娼婦として強制労働させている。
資金のためとはいえ、エリオットはその活動方針に気乗りしない。
「この学園なら――」
五人は目配せし、さらうターゲットを決める。
女学生であれば若さは保証される。そして、貴族や裕福な家庭の子供が多い。
よく学園で話題にあがるのは、生徒会長のマイン・ポントマイ、三学年のクリスティーナ・ベルン。そして――。
「フローラ・モンテッソだろうな」
エリオットの隣の席にいるフローラだ。
「フローラちゃんは……、別の女の子にした方が」
「あの子しかいないだろ。綺麗だし、おっぱいでかいし、男なら抱きたいと思うだろ」
「マイン先輩は少しあるけど、クリスティーナ先輩はぺったんこだしな」
エリオットはフローラではなく、別の女生徒はどうかと意見するも、他の四人はフローラだと意見を変えなかった。
「じゃ、フローラで決定な」
「……」
誘拐する女生徒をフローラと定め、五人は計画を練る。
☆
フェリックスは決闘場へ入り、属性魔法同好会へ顔を出す。
「え……?」
そこにはクリスティーナ、ヴィクトル、ライサンダーの他にフローラとカトリーナがいた。
「ごきげんよう、フェリックス先生」
「フェリックス!」
二人はフェリックスに気づくと、それぞれ声をかけてくれた。
「二人ともどうしたの?」
「属性魔法同好会に入部したいと」
「えっ!? 入ってくれるの」
フェリックスの質問にライサンダーが答える。
部員不足問題を抱えている同好会に二人加入するのはとても良いことだ。
だが――。
「なんで――!!」
クリスティーナはカトリーナを睨み、罵声を浴びせようとするも、この場に事情を知らないヴィクトルがいることに気づき、途中で言葉を飲み込む。
カトリーナはフェリックスの後ろに隠れた。
「しかも、その制服……」
「ミランダの制服だよ。カトリーナに渡したんだ」
「ミランダ先輩が!? なんで、こいつにそんなことを」
クリスティーナはカトリーナが一年生の制服姿になっていることに気づく。
フェリックスはその制服はミランダのものだとクリスティーナに教えた。
しかし、クリスティーナの怒りが増すことになってしまった。
「アルフォンスに『仕事が終わるまでここにいなさい』って言われたの」
カトリーナはフェリックスの後ろに隠れることを止め、クリスティーナにここに来た理由を述べる。
「フェリックスに魔法を教わっていたらあっという間だって」
(なるほど。アルフォンスはカトリーナに魔法の知識を与えたいんだな)
カトリーナの話を聞き、フェリックスは納得する。
カトリーナはスレイブとして暗殺・諜報の技術を短期間で叩きこまれたため、一般常識や魔法の知識が欠けている。特に深刻なのが文字の読み書きで、アルフォンスはそれで手一杯。
魔法は同好会で覚えろということなのだろう。
(面倒事になったらすぐ部員として同好会に突っ込むの大概にしてほしいよな)
ライサンダー、レオナールときて今度はカトリーナ。
三度目の事例にフェリックスは深いため息をついた。
「フローラはいいですけど、この子の加入は反対です!」
クリスティーナはカトリーナの加入に反対。
「どうして? 部員が四人になったら、同好会として活動を続けられるのに」
頑なに反対するクリスティーナにヴィクトルは首をかしげる。
ヴィクトルの言う通り、同好会はライサンダーが教師となったことで部員として扱われず、存続の危機に立たされている。
生徒会長はクリスティーナを目の仇にしているマインのため、来月行われる部員総会までに部員を四名確保できなければ、廃部とすると通達も受けている。
去年までは三名だったが、加入条件が厳しくなったのはクリスティーナに対する嫌がらせだろう。
「……」
ヴィクトルの言葉にクリスティーナは反論できなかった。
「カトリーナ……、入ってもいいの?」
「もちろんさ。よろしくね、カトリーナ」
「わーい」
おどおどしているカトリーナにヴィクトルは微笑む。
カトリーナはその場でぴょんぴょんと跳ね、同好会に加入できる喜びを身体全体で表現していた。
「フェリックスから魔法覚えて、アルフォンスによしよししてもらうの!」
「同好会の皆さま、ご指導よろしくお願いします」
こうして同好会にカトリーナとフローラが部員として加わった。