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第105話 僕は複合魔法の補講を受ける

 リドリーと約束した翌日。

 属性魔法同好会の活動を終え、メンバーたちがそれぞれ帰路についたところで、決闘場にリドリーが現れた。


「さて、補講を始めましょう」


 リドリーはフェリックスに防御魔石を差し出す。


(模擬決闘をするのかな……?)


 フェリックスはリドリーからそれを受け取り、防御魔石に魔力を込める。


(あっ)


 フェリックスは自身の変化に気づいた。

 今まで真っ赤に輝いていた防御魔石の色が濁っているのだ。


「私はこの色です」


 リドリーの防御魔石は紫色だった。


「属性魔法は一色を極めればはっきりとした単色を、複合魔法を極めればその属性をイメージした色に変わります」

「じゃあ、ミランダやイザベラの防御魔石の色も」

「お二人の属性に合った色になっているかと」


 二人の防御魔石の色はよく知っている。

 ミランダは水色ぽくなり、イザベラは黒茶色ぽくなる。


「だとすると、リドリー先輩の雷属性はなんの属性を合わせているのですか?」


 リドリーに防御魔石の色について聞き、フェリックスは興味本位で彼女に問う。


「私の雷魔法は火属性と水属性と風属性の三属性を合わせています」

「さ、三属性!?」


 フェリックスは雷魔法の真実に驚愕する。


「話を戻しますと……、フェリックス君の防御魔石の色が混ざったようにみえるのは新たな複合魔法が生まれようとしている証です。完全なものとなったとき、四属性と違う色に輝くでしょう」

「なるほど」


 防御魔石にそのような法則があるとは。

 魔法大学まで通っていたフェリックスでも知らない知識だった。


「近年、イザベラさまが複合魔法を扱うことで容認されつつありますが……、教育界では未だに複合魔法は邪道とされています」

(だから複合魔法の授業がないのか)


 リドリーの一言でフェリックス自身に複合魔法の知識がないこと、一部の魔術師しか扱わないことを理解した。

 一般の魔法教育では基本の四属性のいずれかを磨きあげることが是とされているから、複合魔法について授業する必要がないのだ。


「複合魔法は”透明”と判別された者でも、一定の威力を見込めます。ですが、フェリックス君、アルフォンス君、ミカエラさんのような魔術師には到底及びません。結局は付け焼刃なのです。まあ、クリスティーナさんやライサンダー君のような例外はいますけどね」

「なるほど……」

「フェリックス君の火属性の魔法は完璧です。防御魔石も宝石のように真っ赤に輝いていたのに何故、今になって複合魔法を体得しようとしているのですか?」

「それは――」


 この世界において、四属性いずれかを磨き、防御魔石を宝石のように輝かせるのが理想。

 理想形であるフェリックスが何故、邪道である複合魔法を体得しようとしているのか、リドリーにとって疑問でしかない。


「僕はクリスティーナと同じ魔法を扱えるようになりたいんです。革命軍との戦いに備えて」

「そうですか」

「僕が四属性を扱えるようになったのは、強力な魔法を覚えるための啓示なのではないかと思うのです」

「教育ではなく、己のためなのですね」

「……いけませんか?」

「いえ、それくらいの覚悟がないと複合魔法への矯正は難しいと思いますので。体得したら、複合魔法を扱う生徒の指導に生かしてくださいね」

「は、はいっ」


 リドリーの望む答えを引き出せたようだ。彼女の笑みを見たフェリックスはホッとする。


「まず、フェリックス君。私に四属性の初級攻撃魔法を見せてくれませんか?」

「はい!」


 フェリックスはリドリーの言う通りに魔法を放つ。

 火、風、水、土。

 全ての初級攻撃魔法を放ったとき、リドリーは何度も瞬きをしていた。


「見事です。話は本当だったのですね」


 リドリーはフェリックスの話を信じていなかったようだ。


「驚くことですか? リドリー先輩だって四属性を難なく扱っているじゃないですか」

「……そう思います?」

「え、違うんですか!?」


 リドリーもフェリックス同様難なく四属性の魔法を扱っているため、そこまで驚くことではないと思っていた。

 リドリーは杖を構える。


「見ていてくださいね」


 リドリーはフェリックス同様、四属性の初級攻撃魔法を放つ。


(あっ……)


 フェリックスは違和感を見つけた。


「分かりましたか?」

「はい。土属性だけ発動が遅いように感じました」

「正解です。土属性を扱うのは少々苦手なのですよ」

「でも、威力は変わりないように見えますが……」

「"チャージ"を挟んでいますから」


 リドリーは苦手属性を補うために、土属性の詠唱にチャージを加えている。

 だが、フェリックスにはいつチャージを加えているのか分からない。熟練の技である。


「私はフェリックス君と違って四属性を扱えるように見せかけているだけなんです」


 リドリーは自身の実力をフェリックスに明かした。


「さて、ここからは実践といきましょう」


 リドリーは杖を構える。


「フェリックス君、これから、ゆっくり魔法を唱えますから、私の杖の先をよく見ていくださいね」


 フェリックスはリドリーの言う通り、彼女の杖の先端を見つめる。


「サンダー フォール」


 雷魔法が発動する直前、火属性・水属性・風属性の魔力が同時に出現し、混ざり合って雷が発現した。


「このように、複合魔法は複数の属性を同時に練って発現させます。フェリックス君が複合魔法を唱えられない要因は、無意識に得意な属性を先に呼び出しているからでしょう」

「分かりました。やってみます」


 フェリックスはリドリーに習って、水属性と風属性の魔力を同時に出そうとするも水属性の魔力が先に出現してしまい上手くいかない。


「むむ……」


 何度試してみても結果は同じ。

 コツを教えて貰ってもそれができない自分がもどかしい。


「では、杖の先端を意識しながら”ファイアカッター”を唱えてください」

「わかりました」


 フェリックスは”ファイアカッター”を唱える。

 杖の先端から火属性が発現した後、風属性が加わり、火の刃として放たれた。

 複合魔法を唱えられないのはこの癖があるからだとフェリックスは理解する。


「フェリックス君が複合魔法を体得する場合、得意属性を先に出そうとする癖を矯正することから始まるかと」

「右利きを左利きに矯正するような感じですね」

「まあ、そのような感覚です」

 リドリーに課題を提示してもらい、フェリックスは複合魔法体得の一歩だと喜んでいた。

「では、補講はこれで終わりにしましょう」

「リドリー先輩、ご指導ありがとうございました」

「いえ、ライサンダー君やレオナール君を任せたツケをここで返しただけですから」

「……」


 あの二人を属性魔法同好会に押し付けた件、リドリーも悪いと思っていたらしい。


「では、期待していますよ」


 リドリーとフェリックスの補講はこれで終了した。



 リドリーの補講から一週間。


「アイス ミスト」


 フェリックスは水属性と風属性を同時に発現することに意識を集中する。


(二つの属性を同時に出す……)


 癖を矯正する。

 そのため、フェリックスは利き手ではない左手で杖を持ち、魔法を唱えるようにした。

 左手から魔力を送るのはとても難しかったが、そのおかげで得意属性を先に出すことが減ってきた。

 特訓の成果もあり、フェリックスの杖の先端から冷気がでる。


「やった!」


 威力は低いが氷魔法を唱えられた。

 これをきっかけにフェリックスは杖を右手に持ち替え、氷魔法を初級まで扱えるように成長した。


(これなら光魔法も――)


 調子に乗ったフェリックスは光魔法を放とうとする。


「グングーー」


 魔法の詠唱の途中で視界がぐにゃりと歪み、全身から力が抜ける。

 フェリックスの光魔法は不発に終わり、彼はその場に倒れた。


「フェリックス!?」


 カトリーナの声が聞こえる。続いてライサンダー、ヴィクトル、フローラの声。


(あ、だめだこれ……)


 フェリックスは皆に返事をすることなく、意識を失った。




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