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第106話 僕は親友の力を借りて難点を克服する

 気を失ったフェリックスは保健室のベッドで目を覚ました。


「フェリックス先輩」

「ライサンダー、運んでくれてありがとう」


 フェリックスは身体を起こした。

 酷い頭痛がする。


「アルフォンス先輩によるとフェリックス先輩は”魔力酔い”を起こしたそうです」


 ライサンダーがフェリックスの症状を説明してくれた。

 魔力酔い。


(四属性を合わせようとしたせいだよな)


 要因は光魔法を使おうとしたから。四属性を同時に発動しようとしたからだ。


「子供ような無茶をする」


 容態を診てくれたアルフォンスが魔力酔いの飲み薬を持ってきてくれた。

 フェリックスはアルフォンスから貰った薬を飲む。

 口の中に苦みが広がる。

 水を何度も飲んでも苦みが消えない。


「クリスティーナはそれに成功したがな」

「僕も条件を満たしているのに、どうして……」

「さあな。立てるなら早く家に帰れ」


 アルフォンスはフェリックスに自宅へ帰るよう促す。

 フェリックスは上着を着て、ベッドから起き上がった。

 そしてフェリックスたちは保健室を出る。


「俺はこいつと独房に帰る」

「カトリーナも一緒!」


 透明になっていたカトリーナが姿を現し、アルフォンスに抱きついていた。

 アルフォンスはよしよしとカトリーナの頭を撫でる。

 カトリーナはアルフォンスの身体に頬を摺り寄せ、甘えている。


(前までは保護者と子供という感じだったけど、今は恋人のようだ)


 フェリックスは二人の関係を見て、そう思った。


「自分は二人を軍部に送りますので」


 三人は軍部へ帰って行った。


 残されたフェリックスは自分のバックがある職員室へ向かう。

 そこには雑談をしているリドリーとミカエラがいた。


「あっ! フェリックス君だ!」


 ミカエラに声をかけられる。


「同好会の活動中に倒れたと聞きました」

「はい……、情けないです」


 フェリックスは苦笑しつつリドリーに答える。


「二属性の複合魔法を唱えられたので、光魔法に挑戦してみたら――」


 フェリックスは倒れた経緯を二人に話した。

 結果”魔力酔い”になり、アルフォンスに処方された薬を飲んだことも。

 フェリックスの話を聞いたリドリーは考えている。


「火属性と水属性、土属性と風属性、それぞれ相性の悪い属性を同時に発生させるからかもしれません。私も火属性と水属性の魔法を合わせるときは苦労しましたから」


 複合魔法に熟知しているリドリーが魔力酔いを起こした要因を推測する。


(氷魔法は水属性と風属性、泥魔法は水属性と土属性……、リドリーの考えは理に適っている)


 フェリックスはリドリーの意見に納得する。


「苦労する分、威力はすごいですよ」

「その……、リドリー先輩は克服するのにどれくらいかかりましたか?」

「魔法学校を卒業してから四年かかりましたかね」

「四年……」


 本来、複合魔法習得にはかなりの年月を要するようだ。

 秘術があるソーンクラウン家、光魔法の適性者であるクリスティーナを除き、複合魔法を一から習得しようとなると大変なようだ。


(そんなに習得に時間をかけていられない)


 光魔法習得に四年なんてかけていられない。

 悪魔はもうじきクリスティーナたちの前に現れるのだから。


「まずは火属性と水属性を合わせることから始めるといいでしょう」

「はい。そうします」


 リドリーのアドバイスをフェリックスは素直に受け取る。


「では、僕は帰ります」

「フェリックス君が元気みたいなので、私も帰りまーす」

「ミカエラさん、お疲れさまです。フェリックス君、お気をつけて」


 フェリックスはバックを持ち、ミカエラと共に職員室を出た。

 廊下を少し歩いたところで、ミカエラが口を開く。


「フェリックス君、悪魔は四年も待ってくれないよね」

「うん。悪魔はもうじき現れる」

「その悪魔ってさ、フェリックス君の日記では、イザベラ女王に取り憑いてるんだよね」


 ミカエラの問いにフェリックスは頷く。

 悪魔がクリスティーナの前に現れるのは真のエンディングを進むとき。

 悪魔はイザベラに取り憑いており、彼女は悪魔が囁かれ、皇帝や息子を毒殺し、国民に苦しい政治をしていたことがゲームの終盤で明かされる。


「少し無茶をしていいなら、あたしに考えがある」


 光魔法習得の最大の課題"魔力酔い"についてミカエラに解決策があるようだ。

 難題が解決しそうで、フェリックスはミカエラの手を握り「ありがとう」と感謝の気持ちを伝える。


「明日の朝、決闘場に来れる?」


 明日は休日。

 属性魔法同好会の活動がない日だ。

 幸い、明日は特に予定がない。

 ミランダに「残った仕事を片付けたい」と言えば、何も疑われないだろう。


「うん。行けるよ」

「じゃあ、明日、試してみよう」

「わかった。ミカエラ、また明日」

「またね、フェリックス君」


 フェリックスはミカエラと約束をし、別れた。


 翌日、フェリックスは約束通り、チェルンスター魔法学園の決闘場に来た。


「待ってたよ」


 決闘場ではミカエラが待っていた。


「ミカエラ、君に考えがあるって聞いたけど」

「うん、あるよ」


 ミカエラはフェリックスに魔法薬を差し出す。

 それは強化薬だった。

 フェリックスは強化薬を受け取るのをためらう。

 フェリックスが知る強化薬は未完成で、服用すると魔力暴走を起こし、瀕死の状態に陥るからだ。

 以前、レオナールが服用し、魔力切れで生死を彷徨ったり、革命軍が服用して自爆したことがある。


「フェリックス君が怖がるのもわかる」


 なかなか強化薬を受け取らないフェリックスにミカエラが話しかける。


「フェリックス君が見た強化薬は未完成。あたしはこれの責任をとって魔法研究所を辞めた」


 ミカエラの話は続く。


「この薬があたしの初めての失敗。だから、この一年、改良を重ねて完成させたんだ」

「ミカエラ」


 強化薬はミカエラが職を失う要因になったもの。彼女も因縁を持っており、一人で改良に努めていたようだ。


「フェリックス君が初の被検体だよ」

「えっ」


 改良を重ねたものの、誰も飲んだことはない。

 その話を聞いたフェリックスは思わず声が漏れた。


「大丈夫? 飲んでも死なない?」

「死なない……、かな」

「すっごい不安なんだけど」


 笑顔で強化薬を差し出され、フェリックスは渋々それを受け取った。

 しばらく強化薬を睨む。


(光魔法を早く習得するには、これを飲むしかない)


 フェリックスの力だけで悪魔を倒すため、その先にあるミランダと産まれてくる子供の幸せを守るため。

 フェリックスは意を決して強化薬を飲み干した。


「……どう?」

「身体がぽかぽかする」


 強化薬を飲んですぐ、フェリックスの身体に変化が起こる。

 身体が熱く、飲酒したようなふわふわした心地よい気持ちになる。


「……やってみる」


 気分がいいフェリックスは杖を構える。

 同時に四属性を発生させ、それを合わせる。

 昨日は合わせる途中で気を失ったが、今は全然だ。

 発動条件は満たした。


「グングニル」


 フェリックスは光の槍をイメージし、光魔法を唱えた。

 杖から眩い光が一直線に突き抜けた。


「フェリックス君、ストップ!」


 威力はクリスティーナのそれよりも強く、危うく決闘場の壁を突き破ってしまうところだった。

 ミカエラに言われ、フェリックスは慌てて光魔法を止める。


「できた……」 

「やった! やったよ、フェリックス君!!」


 光魔法を放てたフェリックスは呆けた顔し、隣で見ていたミカエラは喜びのあまりフェリックスに抱きつく。


「フェリックス君、体調はどう?」


 抱擁を解いたミカエラがフェリックスの体調を問う。


「酒酔いに近い感覚がある。魔力暴走は今のところないね」

「じゃあ、他の魔法も試してみたら?」


 自身の容態を正直にミカエラに答える。

 まだ続けられそうだと、フェリックスは他の光魔法も試した。

 フラッシュもライトオーラも上手くいった。


「うっ」


 ライトオーラを解除した直後で強化薬の効果が切れたのか、身体がだるくなり、頭がガンガンと痛む。


「き、気持ち悪い」


 フェリックスは頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。


「この感覚……、ひどい二日酔いみたい」

「効果中は光魔法を放てるけど、効果が切れたら具合が悪くなっちゃうのか」

「魔力もかなり持っていかれてる。この状態だと、属性魔法がちょっと撃てるくらいかな」


 ミカエラはフェリックスの腕に人工魔力を注入する。

 少しすると、頭痛が和らいできた。


「これならどう?」

「うん、普段通り魔法が撃てるかも」

「なるほど……」


 フェリックスの体調を聞き、ミカエラは考え込む。


「強化薬の使用は非常時、使用後はすぐに人工魔力を注入する必要があるね」

「……わかった」


 検証の結果、強化薬を飲めば光魔法を使うことが出来るが、上限が三回までで、使用後は人工魔力の注入が必要なことが分かった。

 リスクはあるものの、光魔法がすぐに扱えるようになるのはフェリックスにとって嬉しいことだ。


「これなら悪魔に対抗できるかな」

「……どうだろう」


 決闘場を出て施錠した直後、ミカエラがフェリックスに問う。

 フェリックスは訝しむ。

 三回の光魔法で、悪魔を倒せるのか。


「それだったら、悪魔が憑依しているイザベラ女王をどうにかしたほうがよくない?」

「イザベラを?」


 ミカエラの案にフェリックスは首をひねる。


「今のイザベラ女王はあたしたちを悪法で苦しめてないし、革命軍を上手く抑え込めてるよね」

「うん」

「それって……、まだイザベラ女王に悪魔が憑依してないからじゃない?」

「あっ」


 ミカエラの一言でフェリックスは気づく。

 ゲームでは悪魔が憑依したからイザベラが悪女になっていた。

 だが、現在のイザベラはその傾向がない。

 ミカエラの言う通り、悪魔が憑依していない可能性があるのだ。


(でも……、皇帝と息子、王女たちを殺害したのはイザベラだ)


 フェリックスの表情が曇る。

 イザベラは過去に女王の地位を手に入れるため家族を手にかけている。悪魔はその時期に憑依しており、転生したフェリックスの魅力のおかげで抑え込めている可能性もある。


「フェリックス君?」


 その事実はミカエラに話していない。

 イザベラ当人からも過去のことを訊いていない。


「う、ううん。なんでもない」


 ミカエラに声をかけられ、フェリックスはなんてもないフリをする。


「実験も終わったことだし、あたしは社宅に帰るね」

「ミカエラ、協力してくれてありがとう」


 用を終えたミカエラは社宅へ帰っていった。


(次、イザベラに会ったら……、喧嘩になるかもしれないけど皇帝と第一皇子について、聞かなきゃ)


 そう決意しながら、フェリックスはミランダの待つ自宅へ帰宅する。



 自宅の前に軍部の人間が大勢おり、フェリックスは困惑する。


(どうして軍部の人たちが僕の家に!?)


 勇気を出して、フェリックスは軍部の人に声をかける。


「あの、僕の家でなにを――」

「フェリックス殿だ!!」

「今すぐお連れしろ」

「へっ!?」


 フェリックスの存在を見つけるなり、軍部の人たちが予想外の行動に出た。

 風魔法でフェリックスの体重を軽くし、突然担ぎあげたのだ。

 当然のことで呆気にとられていたフェリックスはそのままの体勢で近くの住宅に連れて行かれる。


(ここは空き家だったはず)


 ミランダと共に挨拶回りをした際、この家を訪ねたことがある。

 その時は空き家で、誰も住んでいなかったはずだが――。


「フェリックス、待っていたぞ」


 その家にはイザベラがいた。

 豪華なソファに足を組んで座り、寛いでいる。


「イザベラ!? えっと、その日だったかな」

「うむ。その日じゃ」


 イザベラがフェリックスの元を訪れるのは、肉体関係を結ぶとき。

 イザベラが正当な世継ぎを孕むためである。

 フェリックスがイザベラに用件を問うと、彼女は肯定する。


「今日からわらわがフェリックスの子を妊娠するまでずっとな」


 イザベラは今までと違う要求をフェリックスに叩きつけた。


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