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第110話 僕はもう一人の自分と語り合う

 丁度、大翔は【恋と魔法のコンチェルン】の制作者に会う予定を取り付けていた。


「あのゲームは俺、清良、イザベラがいた世界そのままだ」


 フェリックスもその疑問をずっと思っていた。


「世界の未来をクリスティーナ中心に描いている」


 大翔は紅茶を口に含む。


「まるで予知夢みたいに」

「予知夢……、もしや」


 大翔の発言にイザベラが反応する。


「予知夢を使いこなした人物。俺は一人知っている」


 大翔とイザベラはゲームの制作者の正体に心当たりがあるようだ。

 だが、フェリックスにはピンとこない。


「あくまで俺の仮説だ。それを証明するためにあのゲームの制作者に会いに行くんだ」


 ゲームの制作者には明後日会うという。


「行く! わらわもそやつに会いたい!!」


 大翔が『一緒に来るか』と尋ねる前に、イザベラが同行したいと申し出た。

 現代にやってきておどおどしたきりのイザベラだったが、今だけはいつもの調子に戻っていた。


「決まりだ。それまでの間は客間を利用してくれ」

「客室はニ部屋あるので、フェリックスさまと陛下を別々にすることが可能ですが……、いかがいたしますか?」

(えっ、このマンション、広いリビングキッチンの他に三つも個室があるの!?)


 それまでの間、フェリックスとイザベラはこのマンションの客室に泊ってもいいのだとか。

 清良が部屋を別々にするか、一緒にするか確認する。

 フェリックスは答える前にマンションの広さに驚愕していた。


「一緒で構わぬ」


 そのため、イザベラが代わりに答える。


「わかりました」


 その答えを聞くと、清良は席から立ち上がる。


「では、陛下。私と一緒に来てくださいますか? 色々、用意しなければならないものがありますので」

「うむ」


 清良はイザベラと共に、個室へ消えていった。


「あそこは俺と清良の寝室だ。少ししたら戻ってくるだろう」

「そう」


 清良とイザベラが席を離れ、残されたのはフェリックスと大翔のみ。


(なんか不思議な気持ちだなあ)


 フェリックスは大翔を見つめ、そう思った。

 目の前にいる大翔は、元々は自分の身体だ。

 それなのに、フェリックスの魂が入ったことで自信に満ちた若者に見え、カッコよく見える。


「なんだ? 俺のことをじろじろと見て」


 視線に気づいた大翔は、目を細めている。


「いやあ、僕の身体だったはずなのに、君の魂が入ると別人みたいだなあって」

「それは同意する」


 フェリックスが本音を大翔に伝えると、彼は頷いていた。


「俺を俯瞰的に見るなど……、思ってもみなかった」

「そうだね」

「お前については清良の話でしか聞いていなかったからな」

「僕も君が遺してくれた日記やミカエラの話でしか知らない」

「ミカエラか……、アイツは相変わらず奔放だな」

「うん。ミカエラは僕の正体をすぐに見破ったよ」


 フェリックスと大翔。

 本来なら出会うことのない二人。

 互いに初めて顔を合わせるが、共通の話題をきっかけに会話が弾む。


「あっ」


 フェリックスは大翔との会話であることを思い出した。

 棚の上に置いていた自身のバックを持ってきた。


「これっ」


 バックから取り出したのはフェリックスがセラフィに贈った結婚指輪だった。

 指輪は小箱に入っており、それを目にするなり大翔はガタッと足を机にぶつけ動揺していた。


「それは――!」


 自宅のどこかに置いていると、いずれミランダに見つかるかもしれないと心配し、彼女が絶対に探さないであろう仕事用のバックの中に隠していたのだ。


「君たちの大事な指輪。セラフィが息を引き取る直前に預かってたのさ」

「ああ……」


 大翔は小箱を受け取ると、それをゆっくりと開いた。

 大粒のカッラモンドの指輪が輝いている。


「ありがとう。清良も喜ぶよ」


 小箱を閉じ、それはテーブルの中央に置かれる。


「ところでさ、話題が変わるんだけど……」


 フェリックスはずっと気になっていたことを告げる。


「僕がセイラの大ファンだってこと……」

「俺も知ってるし、もちろん清良も知ってるぞ。それがきっかけで再会できたんだ」

「それはとてもいいことなんだけど……」

「なんだ、歯切れが悪いな」


 フェリックスは大翔の顔色をチラチラとうかがっており、大翔はなかなか本題を言い出さないと顔をしかめていた。


「セイラさんと結婚したってことは、君は僕の身体でセイラさんと――」


 フェリックスが気にしていたのは、元の自分が推しと結婚したことだった。

 ヘッドフォンをし、セイラのASMR音声で色々な妄想していたフェリックスにとって大事な確認である。


「夫婦なんだから、キスやエッチなことをして当然――」

「ああああああ!」


 大翔の答えを聞いてフェリックスは耳を抑え絶叫する。

 ずっと妄想していたセイラとのムフフなシチュエーションを清良の夫である大翔が全て体験済みであるという現実をフェリックスは受け入れられないでいた。



 フェリックスが現実を受け止め始めたとき、清良とイザベラが寝室から戻ってきた。


「かわいいっ」


 戻ってきたときには、イザベラはドレス姿ではなくチェックのロングワンピース姿で現れる。胸元にフリルが付いた白いシャツとリボンが可愛さを際立てていた。

 フェリックスが洋服の感想をイザベラに言うと、彼女は胸を張ってご機嫌だった。

 シャツがイザベラの豊満な胸でパツパツであり、胸を張ったことで更に生地が伸びる。


「イザベラは私よりウェストが細いのに胸は大きいし、ほっそりとした脚なのに太ももとお尻はムチムチで――、私よりも洋服を着こなしててズルいわ」


 寝室でイザベラの衣装選びをしている間に打ち解けたのだろう。

 清良がイザベラの事を『陛下』ではなく、名前で呼んでいる。

 イザベラの体型は女性の理想形であり、清良が嫉妬するのも無理はない。


「お前だって、あのイザベラを俺の身体で抱いてるんだろう? 羨ましくて仕方がない」


 イザベラの姿を見た大翔がフェリックスに耳打ちする。

 互いに現状を羨ましいと思っている。


「用意しないといけないものは全部ネットで購入しました。夕方届くそうなので……、フェリックスさま、受け取りをお願いしてもいいですか?」

「うん。色々準備してくれてありがとう」


 フェリックスは清良に礼を言う。


「清良、フェリックスがな――」


 大翔はテーブルの上に置いていた小箱を持ち、清良に見せた。


「これは、私がフェリックスさまに預けていた指輪!」


 清良は小箱を大翔から受け取り、それを開く。

 婚約指輪を目にし、清良の喜びの声が漏れた。

 清良は小箱から指輪を取り出し、左手の薬指につけた。

 結婚指輪と共に清良の指で輝く。

 清良は婚約指輪を愛おしげに見つめていた。


「ありがとうございます」

「やっぱり、君が持っていた方がいいよ。とても似合ってる」


 フェリックスは清良に率直な感想を述べた。


「その指輪は――」

「前世で大翔が清良に贈った指輪だよ」

「私の宝物」


 イザベラは指輪について問う。

 フェリックスは指輪について簡単に説明し、清良が宝物だと述べた。


「う、うむ……。『女に興味がない』とそなたが申していたのは、清良だけを愛しておったからなのじゃな」


 イザベラは大翔が前世で縁談を全て断っていた理由に納得する。


「皇帝になっていれば俺は――、いや、この話はよそう」


 大翔が話題を断ち切る。

 もし、皇帝の座を受け継いでいればセラフィと幸せになれたかもしれないと言いたかったのだろう。


「二人の居場所を提供する礼は……、この指輪で充分だ」

「私たちはお二人が元の世界に戻れるまで、全力でサポートいたします」


 大翔と清良の意見は一致しており、現代での衣食住は二人が支えてくれるのだとフェリックスは安堵する。

 その後、フェリックスとイザベラは清良が作った夕食を美味しく頂き、風呂に入り、イザベラと共に眠った。



 翌日、大翔は朝早くに仕事へ出掛ける。

 フェリックスとイザベラが目覚める頃にはもう家を出ていた。


「おはようございます」


 清良は二人の朝食を用意していた。

 前世がメイドということもあって、現代でも料理と家事は完璧だ。


「私は午後からアニメの収録に出かけます」

「そっか」

「その収録のアニメがですね――」


 清良はウキウキした表情で、フェリックスに検索したスマホの画面を見せる。


「えっ!?」


 そこには”【恋と魔法のコンチェルン】アニメ化!”というタイトルのニュース記事が映されていた。


「あのゲーム、アニメになるの!?」

「はい。今年の夏に第一話が放送されます。今日は最終話の収録なんです」


 清良はミランダ役で参加している。

 ミランダが最終話で登場するということは、クリスティーナとの決闘の場面だろうか。


「ここだけの話ですが、二クール放送なのでゲームの終盤まで描かれます」

「わあ! 二期の台本ってもうあるの?」

「残念ながら、二期ではミランダさまはクリスティーナさんとの決闘に負けて、学園を退学されているので私の出番が全くないのです」

「あ……、そうだった」


 ゲームのミランダは清良の言う通りの結末を迎える。

 二クール目ではクリスティーナが三学年になり、ライサンダーが登場するところから始まるのだろうか。


「アニメではどのルートに進むんだろうね」

「やはり”真エンディング”ではないでしょうか」


 フェリックスと清良はアニメの話題で盛り上がる。


「のう、アニメとはなんじゃ?」


 二人の話題が途切れたところで、朝食を平らげたイザベラが疑問を口にする。


「あっ、ごめんイザベラ。アニメっていうのは、アニメーションの略でね」


 フェリックスは清良からスマホを借り、動画配信サイトのアプリを開いた。

 そこで【恋と魔法のコンチェルン】のアニメ告知PVを再生し、イザベラに見せる。


「お、おお!」


 イザベラはスマホの画面に釘付けになった。


「絵を何枚も重ね合わせて、動いているように見せる技法だよ」

「ふむ。これなら文字を読めぬ子供でも物語が楽しめるな」

「他にもピクトグラムとか漫画とか絵で表現する方法が沢山あるんだ」

「なるほど……」


 イザベラはフェリックスの話に関心を持つ。

 それが国の発展につながると考えるところが、一国を統べる者の思考だなとフェリックスは思った。


「イザベラが勉強したいなら、帰りにいくつか専門書を買ってくるわ」

「ほんとうか!」


 清良がアニメの仕組みや絵の表現技法について書かれている専門書を購入すると申し出ると、イザベラは目をキラキラと輝かせた。


「それと昨日の会話で”ゲーム”という会話が飛び交っていたが……」

「リビングのテレビにゲーム機を繋いであるから、すぐにプレイできるわよ」

「ゲームとやらをやってみたい!!」


 イザベラは未知の体験ができると、目を輝かせていた。


「フェリックスさま、後片付けは私がやりますので、イザベラにゲームを教えてくださいませんか?」

「うん。イザベラ、一緒にゲームで遊ぼう」


 フェリックスとイザベラはリビングのソファに座った。

 テレビをつけ、ゲーム機を起動し、イザベラにゲームのコントローラを握らせる。


「イザベラ、せっかくだから制作者に会う前に【恋と魔法のコンチェルン】で遊ぼう」


 フェリックスはイザベラにコントローラの操作方法を教え、【恋と魔法のコンチェルン】が始まる。


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