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第113話 飲酒した女王は淫らに酔う

 過去を語り終えたイザベラは憔悴していた。


(皇帝の毒殺を目論んだのはイザベラの父親)


 真実を知ったフェリックスは耳を疑った。

 シャドウクラウン家はスレイブを使い、暗殺や諜報をすることで帝国に貢献していた元伯爵貴族。

 その彼がイザベラを利用して国家転覆を図ろうとしていたとは。


「……」

「わたしの話が信じられない?」


 イザベラが不安げな声でフェリックスに問う。


「ううん、イザベラの話を聞いて混乱しただけ」


 フェリックスは激しく首を横に振り、イザベラに優しく語り掛ける。


「辛いことを教えてくれてありがとう」


 フェリックスはイザベラの頭を優しく撫でる。


「私はお父様の提案を断った。夫を毒殺なんてしていない」

「君は本当に皇帝を愛していたんだね」


 イザベラは皇帝を毒殺した疑惑をフェリックスにかけられ取り乱している。


(イザベラは嘘をついていない。だったらゲームの出来事は一体なんだ?)


 取り乱しているイザベラをなだめながら、フェリックスに新たな疑問が生まれる。

 ゲームでは悪魔に取りつかれたイザベラが権力欲しさに皇帝と息子を毒殺し、女王として君臨したことになっている。

 しかし、イザベラの話では権力が欲しかったのは彼女の父親、前シャドウクラウン当主だ。

 イザベラが命令を拒否した結果、皇帝とエリオルは事故死し、その後を追うように第一皇女、第二皇女が亡くなった。


(だけど気になる点はある)


 なぜ、第一皇女と第二皇女が亡くなったのだろうか。

 不審死として処理されているらしいが、それはスレイブの仕業ではないだろうか。

 どうして二人の世継ぎを殺害する必要があったのだろうか。

 それに、エリオルの遺体は発見されていない。


(もしかして、エリオルは――)

「難しい顔をしてる」

「ちょっと考え事があって」

「その顔、夫によく似てる」


 イザベラの手が伸び、フェリックスの顔をベタベタと触れる。


「考える仕草とか……、笑った時の目元と口元がそっくり」


 イザベラはフェリックスに微笑む。

 その笑みは意地悪なものではなく、年相応の女性の笑みだった。


(今のイザベラにこの話をするべきではないな)


 イザベラは辛い過去をフェリックスに話し、繊細になっている。

 話題を掘り返していいことはないだろう。

 フェリックスは疑問を飲み込んだ。


「僕は女王として君より、素直な気持ちを伝えてくれる今の君の方が大好きだよ」


 イザベラの表情を見て、フェリックスは率直な気持ちを告げる。


「わたしもフェリックスが大好き」

「イザベラ」


 イザベラの顔が近づく。

 フェリックスはイザベラの柔らかい唇の感触を深く感じようと目を閉じた。

 ピンポーン。

 二人のキスはインタホーンに遮られてしまう。



 夜になり、清良と大翔が仲良く帰宅する。

 清良が手際よく夕食を作り、テーブルに並べた。


「フェリックス、ビール飲むか?」

「あ、うん」

「イザベラは?」

「ビールとは……、酒か?」

「ああ。麦酒だ」

「うむ! いただこう」


 すべての食事が並ぶと、ビール缶を持った大翔がフェリックスとイザベラに勧める。


「そういえば、イザベラは成人したんだっけ」


 大翔の話題でフェリックスはイザベラが成人していたことを思い出す。


「そうじゃ、わらわはフェリックスと共に酒を飲むのを楽しみにしておったのに、小娘と結婚しおって」


 イザベラの誕生日はフェリックスとミランダの結婚式の一週間前だった。

 そのため、フェリックスはイザベラの誕生日会はキャンセルしていたのだ。

 気まずい気持ちになったフェリックスはイザベラから視線を逸らす。

 その間、大翔がフェリックス、イザベラ、清良のグラスにビールを注ぐ。

 ビールと泡の対比が美しい、完璧な注ぎ方だ。


「君のは僕が注ぐよ」


 フェリックスはビール缶のプルタブを開け、大翔のグラスに注ぐ。


「……へたくそ」


 慎重に注いだつもりだったが、大翔のグラスはビールの泡だらけになっていた。


「ごめん」

「まあいい、乾杯しよう」


 大翔はグラスを掲げる。


「フェリックスとイザベラを歓迎して、乾杯」


 乾杯の言葉を合図に皆のグラスが重なる。

 フェリックスはビールに口を付けた。

 ピリッとした苦みは向こうの世界のそれとは違う。

 こっちのビールに馴染みがあるフェリックスには懐かしい味だった。


「苦い……」


 隣でビールを口にしたイザベラが顔をしかめている。

 向こうの世界の麦酒は苦みが少ないため、イザベラの舌には合わなかったようだ。


「甘いお酒が良かった?」


 イザベラの様子を見た清良は席を立ち、冷蔵庫から炭酸水、オレンジジュース、氷、キッチンからカクテル用のリキュールを持ってきた。

 清良はそれらを手早く混ぜ、イザベラ用のカクテルを作った。


「残りは私が飲むわ。イザベラはカシスオレンジをどうぞ」

「甘くておいしい!」


 イザベラは甘い酒を味わえてご満悦だ。

 フェリックスは清良の手際の良さに驚く。


「転生してから清良は酒が好きになってな――」


 大翔が清良について語る。


「この世界には色々な種類のお酒があって、仕事柄、酒の席が多いので先輩たちにお酒の良さを教えて貰っていたらハマってしまって……」


 清良は言葉を濁すも一杯目のビールをすぐに飲み干し、二杯目の冷酒をお猪口に注いでいた。


(ビールの次は日本酒!? あのセラフィがアルフォンスみたいに酒をがぶがぶ飲むなんて)


 フェリックスは前世からは想像もできない飲みっぷりにショックを受けていた。


「私は結婚式が終わったらしばらくお酒を楽しめませんから、今のうちに飲んでおかないと」


 そう言いながら、清良はお猪口に注がれた日本酒をぐいっと飲み干す。

 味わったことのない甘いお酒を早いペースで飲み干したイザベラは清良に「おかわり」とカクテルをねだっていた。


「イザベラが付き合ってくれるから、今日はお酒が進むわね」


 清良はイザベラという酒飲み相手がいてご機嫌だ。


「清良のペースで飲んでいたら、確実に潰れる。俺たちはつまみを味わいながらちびちび飲もう」

「そうだね」


 大翔はオニオンフライを口にしながらビールをちびちび飲んでいた。


(僕も大翔もアルコールの強さは並みだからなあ)


 酒の強さはほぼ同じ。

 元々自分の身体のため、大翔のアルコールの強さは熟知している。

 フェリックスは大翔のペースに合わせて酒を飲む。

 清良のペースで飲んでいたイザベラは二杯目のカクテルを飲み終えていた。


「あまくてのみやすい!」

「イザベラ、次は甘いお酒ではなく日本酒を飲まない?」

「にほんしゅ? にがくない?」

「水みたいにするっと飲めるわ。一杯どうぞ」


 イザベラはろれつが回っておらず、とろんとした目をしている。

 その状態で清良に勧められるまま日本酒を「にがくなくておいちい」と言いながらすいすい飲んでいた。


「セラフィ、ほどほどにしろよ」

「だってフェリックスが付き合ってくれないんだもん。それに酔ったイザベラ、とっても可愛いじゃない」


 大翔が清良に注意すると、清良はぷくっと頬を膨らませ文句を言う。


(確かに酔いが回ったイザベラは可愛いけど)


 清良の言う通り、酔っぱらってご機嫌なイザベラはとても可愛い。

 言葉遣いがいつもより幼いところや、素のイザベラが見れてとてもいい。


(家飲みだし、酔いつぶれても大丈夫か)


 フェリックスはご機嫌で酒を楽しんでいるイザベラを見て、水を差すようなことを言うべきではないと判断した。


 それから一時間後。


「ふぇりっくす、くらくらしてきた」


 限界を迎えたイザベラがフェリックスにもたれかかる。


「からだがぽかぽかするの」


 イザベラはフェリックスの首筋に触れる。


「フェリックスの肌。冷たくてきもちいい」

「イザベラ!?」


 イザベラはフェリックスの服のボタンを外してゆき、彼の肌着をめくりあげ、そこに顔を突っ込んだ。

 フェリックスはイザベラの奇行に身動きが取れなくなる。


「だ、駄目だって。肌着が伸びちゃう」


 フェリックスはイザベラの身動きを止めるため、彼女の身体をぎゅっと強く抱きしめた。

 動きが止まったところを見計らって、フェリックスはイザベラを肌着から出した。


「酒の飲み過ぎだ。水を飲め」

「ん」


 大翔から水を受け取ったイザベラはそれをちびちびと飲む。


「ふぇりっくすにものませてあげる」


 フェリックスはトロンとしたイザベラの表情に見とれていると、水を口に含んだ彼女に強引に唇を奪われる。

 口移しで水がフェリックスの口内に注がれる。


「ふぇりっくす、もっときすしよ」


 イザベラはフェリックスの首をホールドし、大翔と清良の前で熱烈なキスを見せつける。


「イザベラ、た、タイム」


 呼吸が苦しくなったフェリックスは力づくでイザベラから離れ、ぷはっと深く息を吸い込む。


「……ミランダさまより激しいキスだわ」

「あんなキス、映画でしかみたことない」


 清良と大翔はイザベラのキスを呆けた顔で見つめていた。


「ふぇりっくす、もっと」


 酔って理性が吹っ飛んだイザベラは止まらない。


「わたしにいっぱいキスして」


 イザベラは自身の衣服を脱ぎ、下着姿になる。

 細かなレースのついたブラジャーを目にし、フェリックスの酔いが一気に醒めた。

 ホックを外す寸前で、フェリックスは「わかったから、続きは寝室でしよう」と言い、イザベラの脱衣をやめさせる。

 清良は手で大翔の視界を塞いでいた。

 フェリックスは性欲の獣になっているイザベラを寝室へ連れて行く。


「いいだろ、見るだけなら」

「だめ。イザベラの胸を見たら、私じゃ満足できなくなるもの」


 フェリックスがドアを閉じる直前、良いムードになった大翔と清良がキスをしていた。


「ふぇりっくす、よそみしちゃだめ」


 イザベラがベッドに仰向けに横たわり、腰をくねらせ艶やかなポーズでフェリックスを誘う。


「……誘ったのはそっちだからな」


 衣服を脱ぎ、パンツ一丁になったフェリックスはイザベラの上に覆いかぶさる。

 その後、二人は激しく愛し合った。




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