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第122話 三年生になった義息子とその周辺

 チェルンスター魔法学園に着き、職員室の自分の席にバックを置く。


「おっはよー、ハルト君」

「ミカエラ、おはよう」


 フェリックスはミカエラをみる。

 ミカエラは朝のホームルームを終えたようでご機嫌だ。


「エリオットの様子はどう?」


 フェリックスはエリオットの様子について問う。

 ミカエラはエリオットが在学する三年A組の副担任をしている。

 イザベラの頼みでミカエラは月に一度、エリオットの健康状態を確認しているのだ。


「体調に変わりないね。フローラちゃんについて悩んでるくらいかな」

「フローラね……。クラスに復帰してから人気がすごいからなあ」


 エリオットはフローラのことが好き。

 フローラは一年生のとき、誘拐され複数人の男性から乱暴された辛い過去がある。

 一時期、カトリーナと共に支援学級で個別授業を受けていたが、二学年に進級するとクラスに戻った。

 まだ、男性に対する恐怖はあるみたいだが、カトリーナやエリオットのサポートもあり、少しずつ克服しているようだ。


「進展なしかあ……」

「エリオットは何度もフローラをデートに誘ったり、告白したりしてるみたいだけど……、全部断られてるみたいでさ」

「フローラちゃんは全部断るよね。アルフォンス先輩一筋だもん」


 フェリックスは義理の父親としてエリオットの恋愛相談にのり、色々助言しているもフローラには全く効かない。

 フローラの好意は全てアルフォンスに向いているからだ。


「けど、アルフォンス先輩……、生徒には絶対手を出さないって息巻いてるじゃん」

「二人して俺の話をしているようだが……?」

「「アルフォンス先輩!?」」


 話が盛り上がっているところに、一番聞かれてはいけない人物が割り込んできた。

 アルフォンスは生徒から回収した資料を脇に挟み、険しい顔で二人をみている。


「また俺がカトリーナに手を出したんじゃないかって噂してたんだろ」

「してないです」


 アルフォンスはカトリーナと親密なことから、教師や生徒たちに『二人は親戚の仲を越え、恋人になっているのではないか』とよく噂されている。

 カトリーナの甘え癖は抜けておらず、アルフォンスに抱き着いている目撃情報をよく聞く。

 教師と生徒の恋愛はご法度。

 職を失いたくないアルフォンスは必死にカトリーナとの関係を”親戚だ”と否定している。

 この状態でフローラの好意を受け止めることはしないだろう。


「そうですよー。エリオット君とフローラちゃんの話をしてました」

「あの二人か……」


 エリオットとフローラの話題は尽きない。

 フローラはもちろんだが、エリオットもモテている。

 エリオットはここ二年で背がぐんと伸び、顔立ちも大人びてきた。

 容姿もそうだが、エリオットの正体は、イザベラとフォルクス前皇帝の息子エリオル。

 その正体を知っている上級貴族の娘たちがこぞってチェルンスター魔法学園に入学してきた。

 狙いはもちろんエリオットの恋人の座で、女同士の戦いがエリオットの周りで毎日繰り広げられている。


「俺の名前が聞こえたが……?」

「気のせいだと思います」

「あたし、授業の準備しなきゃ~、じゃあねフェリックス君、アルフォンス先輩!」


 アルフォンスは二人の会話で自分の名前を訊いたと首をかしげる。

 フェリックスはすぐに気のせいだと否定し、ミカエラは言い訳をして逃げるように職員室を出て行った。


「まあいい。フェリックス、時間はあるか?」


 アルフォンスはフェリックスの隣の席に座る。

 今年からアルフォンスはカトリーナとフローラがいる三年C組の担任を務めており、フェリックスは副担任としてアルフォンスの補助をしていた。


「はい。授業は二限目からなので」

「そうか」


 アルフォンスはフェリックスの机の上に紙束を置く。


「この間配った”進路希望”の回答がきた」


 三年生となると、進路を決める時期。

 フェリックスは紙束を手に取り、順に回答をみる。


「大学進学、軍部や研究所へ就職、護衛騎士を目指す子もいるんですね」

「これを参考に三者面談を行うことになる。フェリックスは大学のレベルと生徒の成績を照らし合わせてほしい」

「わかりました」


 フェリックスはアルフォンスの指示に従う。


「あっ」


 フェリックスは一人の生徒の回答を見て、手を止める。


「カトリーナ、何も書いてない」

「あいつ……」


 カトリーナは白紙で提出していた。


「先輩、カトリーナとは進路について話してますよね」


 フェリックスの問いにアルフォンスは「ああ」と頷く。

 アルフォンスは軍部の独房で一年過ごしたあと、家を借りてカトリーナと共に暮らしている。

 カトリーナは二学年時に編入試験を受け、チェルンスター魔法学園の二年生として正式に認められた。


「俺は王都の大学の推薦がいいと言っているんだが……、その話をするとカトリーナの機嫌が悪くなってな」

「カトリーナ、全部の成績でトップですからね」


 カトリーナは文字の読み書きを覚えてから、勉学の成績がぐんと伸び、今では学年一の成績を誇る。

 成績優秀、運動神経抜群、魔法の才能もあり、容姿端麗。

 カトリーナはこの二年で非の打ちどころもない完璧美少女に成長した。

 このまま行けば、王都の大学も推薦ですんなり通るだろう。


「推薦が通れば、特待生として学費と寮費が免除になる。一流の教育を受けられるせっかくの機会なのにどうしてあいつは反対するんだ」


 アルフォンスは王都の大学への進学を望んでいるが、カトリーナはそうではない。

 いつもアルフォンスの要求には素直なカトリーナが、進路の話になると要求を拒否し、不機嫌になってしまう。

 その理由が判らず、アルフォンスは悩んでいるようだ。


「アルフォンスに反抗して進路希望を白紙で提出したんですね」

「その件で頼みたいことがあるんだが……」


 アルフォンスから頼み事とは珍しい。


「カトリーナにそれとなく進路について聞いてくれないか」

「わかりました」


 フェリックスはアルフォンスの頼みを聞き入れる。


(カトリーナが進学を拒むのは――、いや、僕がここで教えたら未来が変わっちゃうかもしれない)


 フェリックスはアルフォンスに伝えたい気持ちをぐっと堪えた。

 本当はカトリーナがアルフォンスに反抗する理由を知っている。

 だが、それをフェリックスが代弁したら、未来が変わってしまうかもしれないため必死に黙っている。


「部活でカトリーナに会ったら聞いてみます」

「頼んだ」


 フェリックスは属性魔法の授業をしつつ、副担任としてアルフォンスから指示された仕事をこなす。



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