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第123話 属性魔法部

 夕方のホームルームが終わり、部活動の時間となる。

 フェリックスは顧問として職員室から決闘場のカギを借り、決闘場へ向かう。


「フェリックス!」


 決闘場の前にはカトリーナとフローラがいた。


「今、開けるからね」


 鍵を使い、決闘場の扉を開くと、カトリーナが駆けだした。


「カトリーナ、張り切ってるね」

「今日は入部してくれた一年生にカトリーナたちが魔法を披露する日だもん!」

「フェリックス先生、今年の新入部員は八名いますのよ」


 カトリーナが張り切っているのは、新一年生に先輩の実力を見せるため。

 三学年のカトリーナ、フローラ、エリオットと二学年の部員五名が尽力し、新一年生を八名獲得した。


「エリオットは部室で新一年生に活動内容を説明しています」

「最初は三人とライサンダーで始まった同好会も、部員を増やして今や”部”に――」


 フェリックスは同好会を設立した三年前を振り返る。

 現在ミランダ、クリスティーナ、ヴィクトルはチェルンスター魔法学園を卒業し、ライサンダーは学園の襲撃後、教師を辞め、軍部へと戻った。

 ライサンダーと文通をしているミランダの話によると、今はソーンクラウン公爵の補佐をしているとか。

 プライベートではレオナールとフローラの姉ルクレーアと結婚し、もうじき父親になるそうだ。

 創設メンバーは皆、チェルンスター魔法学園を離れたものの、活動は後輩たちに受け継がれている。

 その結果、フェリックスが顧問を務める属性魔法同好会は属性魔法”部”へ昇格し、部室が出来た。


「二人ともー、準備できてるか?」


 フェリックスが感動している間に、エリオットが新入部員たちを連れて入ってきた。

 二年生の部員はすでに集合しており、新入部員を歓迎している。


「カトリーナはいつでも戦えるよ」

「じゃあ、最初は俺とカトリーナで模擬決闘な」

「うん!」

「フェリックス先生、審判お願いします」


 まずは部長のエリオットと副部長のカトリーナの模擬決闘である。

 フェリックスは審判として壇上に上がる。

 二人はそれぞれ防御魔石に魔力を込める。

 エリオットのものは青色、カトリーナのものは緑色に光る。


「――始め!」


 フェリックスの合図と共に、模擬決闘が始まった。



「ウォーター ボール」


 先制したのはエリオットだった。

 エリオットは水属性の攻撃魔法が得意な魔術師に成長した。

 水の球がカトリーナに向けて放たれる。

 カトリーナはそれを持ち前の運動神経でひょいと避けるも、エリオットが放った水の球はくいっと曲がり、再びカトリーナを狙う。


(エリオットは遠隔操作がとても得意。普通なら一直線に飛んで消えるのに、曲げちゃうんだもん)


 フェリックスはエリオットの攻撃魔法に感心していた。

 遠隔操作が得意なのは、母親であるイザベラ譲りだろう。


「エリオットの魔法、しつこいっ」


 水の球に追いかけられているカトリーナは、風魔法を自身に唱えた。


「ウィンドオーラ」


 風属性の魔力を身を纏ったカトリーナは、素早い動きで水の球の追尾を振り切った。


(カトリーナは風属性の特徴であるスピードを活かした近接戦闘が得意)


 カトリーナは風属性が得意な魔術師に成長した。彼女は元々近接戦闘が得意なため、ライサンダーのような戦い方をする。


「ウィンド ナイフ」


 カトリーナはエリオットとの距離を一気に詰めると、ウィンドオーラを解除し、杖に風属性の魔力を込め、短剣を創り出す。


「これでカトリーナの勝ち!」


 短剣をエリオットに突き刺す。

 カトリーナは勝利を確信しているが、まだ模擬決闘は終わっていない。

 エリオットの防御魔石が割れるまでは。


「甘いぜ、カトリーナ!」


 カトリーナが短剣を突き刺したエリオットの身体が水の塊に変わる。

 カトリーナは直に水の塊を浴び、制服がびしょ濡れになっていた。


(水属性の魔力を身体に纏わせて、一撃を防いだのか)


 フェリックスはエリオットの戦術に感嘆の声が漏れる。


「俺のか――」


 カトリーナに攻撃魔法を使おうと杖を向けるも、エリオットの目の前から突如、カトリーナが消えた。


「えいっ」


 パリンッ。

 カトリーナが姿を現したと同時に、エリオットの防御魔石が割れた。


「戦いやめ!」


 審判のフェリックスは模擬決闘の勝者を告げる。


「勝者、カトリーナ!!」

「やった、カトリーナの勝ち〜」


 模擬決闘に勝利したカトリーナは、制服がびしょ濡れであることを気にせず、その場をぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 制服がカトリーナの凹凸のある身体に密着しており、男子部員は目のやり場に困っていた。


「姿を透明にするのはズルだって言ってんだろ! 反則だ反則!」


 エリオットは模擬決闘の結果に抗議する。

 フェリックスはカトリーナの制服を火属性の魔法で乾かしながら、エリオットに話す。


「授業の模擬決闘だったら、カトリーナの反則負けだね。でも、これは部活の模擬決闘だから。相手がどんな手を使っても、防御魔石を割ったほうが勝ちなんだよ」

「……」

「姿を消したように相手を錯覚させる魔法だってある。それを使われても、反則って言うのかい?」


 フェリックスの主張にエリオットは納得いってないようで、舌打ちをしながら壇上を降りた。


(新入生の前で格好良く勝ちたかったんだろうな……)


 エリオットが悔しがっている姿を見て、フェリックスは同情する。


「フェリックス先生」


 エリオットと入れ替わりでフローラが壇上にあがる。


「今度はわたしがカトリーナの相手をしたいです」


 フローラは防御魔石に自身の魔力を込める。

 防御魔石は淡い黄緑色に光っていた。


「げっ、フローラ」


 カトリーナはフローラを相手に苦い顔をする。


「えっと、模擬決闘の第二開戦を始めます!」


 フローラとカトリーナの模擬決闘が始まった。


「プラント テンドル」


 フローラが魔法を唱える。

 フローラの杖の先から、植物のつるが伸びる。

 彼女の魔法に新入部員が「わあ」と感嘆の声をあげる。

 フローラは火属性、水属性、土属性を掛け合わせた”植物魔法”に目覚めた。


(二学年の時、”透明”と判別されて落ち込んでたけど、部活で複合魔法の特訓をしたら三属性合わせられるようになったんだもんなあ)


 フローラは二学年で”透明”と判別されたものの、属性魔法部にてじっくり魔法の特訓をし、火・水・土の三属性を均等に扱う才能があることに気づいた。

 フェリックスはその才能に着目し、複合魔法について教えた結果、フローラは”植物魔法”に目覚めたのだ。


「わっ」


 カトリーナは風魔法でつるを斬るも、何度も再生する。


(フローラの魔力量はエリオットやカトリーナよりも多い。つるを斬るだけじゃ勝てないぞ)


 パリン。

 カトリーナの防御魔石が割れる。


「勝者、フローラ!」


 フェリックスは勝者の名を呼ぶ。

 それと同時にカトリーナに絡まっていたつるが解かれる。


「これで三年生の模擬決闘は終わり」


 ふてくされている部長のエリオットと悔しがっている副部長のカトリーナに代わって、フェリックスがこの場を取り仕切る。


「フローラが使った魔法は属性を掛け合わせた”複合魔法”といいます。属性魔法部では個人の様々な魔法の可能性を磨いてゆくことができます。部活動で自分の”強み”を磨いてゆきましょう」


 パチパチ。

 フェリックスの言葉に生徒たちが拍手を贈る。


「エリオット部長、あとはよろしくお願いします」

「はい……」


 あとは調子の戻ってきたエリオットに任せ、属性魔法部での活動が終わった。



 仕事を終え、フェリックスは帰宅する。


「おかえりなさい、フェリックス」


 エントランスではミランダとハルトが出迎えてくれた。


「ただいま、ミランダ、ハルト」


 フェリックスはバックを置くと、ミランダにキスをし、ハルトを抱っこした。


「ニーナとハルトはどうだった?」

「二人ともお利口にしていたわ。ニーナはわたくしのも抵抗なく飲んでくれたから、明日も大丈夫そうね」


 ミランダに疲れた様子はない。

 これは本心とみて、よさそうだ。


「メイドもハルトの世話が少なくなって助かる、と言ってるわ」

「そっか」

「夕飯にしましょう。今日はクリスティーナからパイをもらったの」

「それは楽しみだ」


 チリン。

 リビングへ戻ろうとしていたところで、呼び鈴が鳴る。


「こんな時間に来客?」


 フェリックスはハルトを降ろし、扉を開く。


「久しぶりじゃの」

「イザベラ!?」


 来客者はイザベラだった。


「フェリックス先生、うっす」

「エリオットも」


 イザベラの後ろにはエリオットがいた。

 エリオットの腕の中には赤ちゃんがいた。

 赤ちゃんの名はフォルクス。フェリックスとイザベラの間に生まれた男の子で、生後三か月になる。


「イザベラ、早かったね」

「訪れるのは明日でもよかったのじゃが、早くフォルクスを見せたくてのう」

「なら、明日でもよかったのでは?」


 イザベラは明日の朝、町に到着する予定だった。

 予定より早く到着したようで、フェリックスの帰宅を狙ってやってきたみたいだ。

 目的を果たせてご機嫌のイザベラとは対照的に、家族との時間を邪魔されたミランダは不機嫌になっている。


「ほう、その子供がハルトか」


 ハルトはミランダの後ろに隠れてしまう。

 見慣れない人にする行動だ。


「真っ白な肌と髪……、小娘にそっくりじゃ」


 イザベラはエリオルからフォルクスを受け取ると、ミランダに見せつける。


「対してフォルクスは髪、瞳、肌の色はもちろん、目元や唇の形がフェリックスにそっくり」

「それがどうしたというの?」

「きっと将来はフェリックスのように素敵な男に成長する。まだ産まれて三か月だというのに、丸と四角の区別が理解できて賢いんじゃぞ」

「あら、ハルトは一歳なのにレディの扱いに長けていますわよ。将来は立派な紳士に育ちますわ」

「いいや、フォルクスの方が――」

「いいえ、ハルトの方が――」


 イザベラとミランダは互いの子供自慢を始めてしまった。


(一歳になったばかりの子供と生後三か月の子供を比べてもなあ……)


 二人の言い合いを見て、フェリックスは心の中でため息をついた。


「フェリックス先生、母ちゃんがなんかすみません……」


 エリオットが申し訳なさそうにしている。


「えっと……、エリオットは弟に会ってどうだい?」

「フニャフニャして可愛いっす。俺にもあんな時があったんだろうなって思いました」


 フェリックスはエリオットに話題を振る。

 フェリックスはコルン城にてイザベラの出産に立ち会っているものの、エリオットはこれがフォルクスとの初めての対面だ。

 エリオットも産まれた弟にデレデレのようで、自然と笑みがこぼれている。


「母ちゃんがしばらく町にいるみたいなので、その間フォルクスの相手をしたいっすね」

「それがいいよ。赤ちゃんの成長はあっという間だからさ」


 フェリックスとエリオットはフォルクスの話題で盛り上がっていた。


「ふんっ」


 その間にミランダとイザベラの口喧嘩も収まったみたいだ。


「今日のところはこれで帰ろうかの」


 イザベラはそう告げ、エリオットにフォルクスを預けた。


「フェリックス、明日は大事な話がある」

「うん」

「では、またの」

「さようなら、フェリックス先生」


 イザベラ、エリオット、フォルクスが家から出た。


「イザベラさまには困ったものね」


 イザベラたちが帰ったあと、ミランダは深いため息をついた。


「フェリックスも知らない間にイザベラさまとお揃いの結婚指輪をつけているんだもの」

「そ、それは――」


 イザベラと会うとミランダは決まってフェリックスの二個目の結婚指輪について言及する。

 この話題になると、フェリックスは決まって口をつぐむ。

 イザベラと共に現代にいた話はミランダに秘密だから。


「わたくしが”一番”、イザベラさまが”二番”よ」

「う、うん」


 ミランダはイザベラよりも自分を愛してくれるなら二個目の結婚指輪についても許してくれるようで、フェリックスはミランダの自論に甘えていた。



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