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第130話 僕は悪魔との決戦を迎える

 フェリックスたちは中継地点を予定通り通過し、イザベラがレヴァンタと戦闘している中心街の広間に到着した。

 中心街ではイザベラ率いる軍隊と、アンデットの軍勢が激戦を繰り広げていた。


「イザベラ」

「フェリックス、よく来てくれた」


 フェリックスは部隊を離れ、イザベラと合流する。

 イザベラは魔力の消耗で疲弊しており、人口魔力を注入しているところだった。


「陛下、戦況は――」

「アンデットを増やさぬよう、防衛にまわっているところじゃ」


 リドリーがイザベラに戦況を聞く。

 イザベラは現状を端的に報告した。


「倒したはずのレヴァンタ・シャドウクラウンがアンデットを操っておるのじゃ」

「レヴァンタ・シャドウクラウン!? あいつは陛下がトドメを刺したはずでは――」


 イザベラがあげた人物の名を聞き、リドリーが驚いていた。

 フェリックスはレヴァンタのことをよく知らないが、リドリーの発言で大体のことは理解した。


「レヴァンタが黒幕なんだね」

「うむ」


 イザベラはアンデットと兵士たちが戦っている最前線を指す。

 最前線では、アンデットの動きが機敏になっており、苦戦している。

 アンデットに一人やられると、その者が即座にアンデットとなり、兵士たちに襲いかかる。地獄のような戦いが繰り広げられていた。


「このまま戦えば、わらわの軍の兵力が尽き、敗北する。なにか手を考えなければ……」


 イザベラは最前線の兵士たちを守ることで精一杯。

 皆も攻めるのではなく、犠牲と向こうの戦力を増やさないためにもと守りの陣形を取っている。

 退却し、体制を立て直すことも考えているだろう。


「レヴァンタはアンデットの向こう側にいるのか」

「うむ。じゃが……、わらわの軍は劣勢じゃ。退却し、体制を立て直すことも――」

「いいえ、それは無理です」


 イザベラの策をリドリーが否定する。


「私たちがここに来る間、アンデットの動きが活発になっていました」


 リドリーはイザベラと合流するまでの出来事について話す。

 それらのアンデットはフェリックスとレオナールの火の攻撃魔法とリドリーの雷の攻撃魔法で倒していたが、それがなんの関係があるのか。


「レヴァンタが領地中のアンデットをここに集結させているとしたら……?」

「ま、まさか!?」

「……退却も許さぬというわけか」


 アンデットはここだけではない、オルチャック公爵領全体に配置されている。

 それらをレヴァンタがここへ集めているなら、フェリックスたちに逃げ場はない。


「市街地付近のアンデットは私たちが一掃しましたが、時間稼ぎにしかならないでしょう」

「それに、トラヴィスのような強力な魔法を扱うアンデットが後から現れたら」

「我らの敗北じゃ」


 イザベラの軍が悪魔に負ける。

 これがフォルクス皇帝が予知夢で視た光景なのだとフェリックスは確信した。


(この状況を打開すれば……、この世界は平和になる)


 フェリックスはイザベラを見つめ、互いに頷く。

 イザベラはフェリックスがここに来るまで、被害を最小限に留めてくれていた。


(僕の行動でこの戦いの勝敗が決まる)


 予知夢の内容を変えられるのはフェリックスのみ。

 イザベラはフェリックスがこの場に現れることを今か今かと待っていたことだろう。


「アンデットの増援が来る前に、レヴァンタを討伐する」

「……それしかないようですね」

「この状況を変えるには――」


 フェリックスはバックの中に入っている強化薬に触れるも、すぐに考え直す。


(僕の光魔法は三回しか使えない。ここが使いどころなのか――)


 フェリックスの光魔法には制限がある。

 レヴァンタのトドメに一回残すとして、他に使えるのは二回。

 アンデットを蹴散らすために使うべきなのか、フェリックスは迷った。


「アンデットはレヴァンタって人の魔法で動いているんですよね?」


 クリスティーナが強引に会話に加わる。


「私の光魔法で無力化させるのはいかがでしょうか」


 クリスティーナがイザベラに提案する。


「フェリックス、この娘は――」

「僕の生徒だったクリスティーナです。彼女は光魔法という特別な魔法を扱います」


 現代のゲームでイザベラはクリスティーナの存在を知っていたものの、対面するのは初めてである。

 今のクリスティーナは髪を伸ばしており、大人びた表情をしているため、フェリックスが紹介した。


「ふむ……、時間もない。やってみよう」 


 イザベラはフェリックスとクリスティーナを前線に出し、二人の光魔法でこの場にいるアンデットたちを無力化する作戦に出た。


「クリスティーナ……、頼む」

「はい、フェリックス先生」


 最前線に出たクリスティーナは、すうっと息を吸い、杖をアンデットたちに向けて構えた。


「――フラッシュ!」


 クリスティーナの光魔法で場が眩く輝き、その光を浴びたアンデットたちがただの死体になってゆく。


「うっ、はあはあ……」


 だが、クリスティーナの魔力では一部のアンデットを無効化することしか出来ず、彼女は効果範囲を広げようと苦しい表情を浮かべていた。


(あいつがレヴァンタ……)


 クリスティーナの努力のおかげで、敵の姿が見えた。

 白髪の中年が邪悪な魔力を放っている。


(よしっ)


 フェリックスが風魔法で自身を浮かし、レヴァンタに接近する時だった。

 レヴァンタがこちらに気づき、彼が魔法を放つ。

 気づくのが遅れたフェリックスは魔法の直撃に備える。


(防御魔石を装備しているから、一撃は――)


 攻撃魔法が直撃しても、一撃は防げると判断したフェリックスは強化薬を口にする。

 パリン。


「えっ」


 割れたのはクリスティーナの防御魔石だった。

 レヴァンタの邪悪な魔法は防御魔石を貫通し、クリスティーナに直撃する。

 クリスティーナの光魔法が止まり、死体が再びアンデットへと変わろうとしていた。


「クリスティーナ!」

「せ、先生……」


 クリスティーナはその場に倒れる。


『フェリックス、止まるな! 行け!』


 苦しい表情を浮かべるクリスティーナを助けるために、風魔法を解除しかけたが、遠くのイザベラから通信魔法で怒られる。

 フェリックスはクリスティーナのことが不安になるも、レヴァンタの元へ向かう。



(く、苦しい……)


 レヴァンタの魔法を直に浴びたクリスティーナは全身の痛みに耐えられず、その場に倒れ込む。

 体内にある魔力が外に漏れ出ている。

 呼吸をするのも苦しくなり、視界も段々と暗くなる。


(私……、死ぬのかな)


 クリスティーナは死を予感した。

 そこで浮かんだのは娘のニーナだった。

 ニーナのニカッと笑った時の笑顔はクリスティーナにとって宝物。

 もうニーナの成長を傍で見守れないのかと思うと、悲しくなってくる。


「――ナ、クリスティーナ!」


 真っ暗な世界に一筋の光が見えた。


(私、まだ生きたい。ニーナとレオナールと一緒に)


 生きたいと強く願ったクリスティーナは光に向けて手を伸ばす。

 それに触れたと思った瞬間、レオナールの唇の感触がした。


「ん……」

「クリスティーナ、目が覚めたんだね」


 見上げると、涙を浮かべているレオナールがいた。

 気を失ったクリスティーナはレオナールに抱きかかえられていた。


「レオナール」


 レオナールはクリスティーナの腕に人口魔力を注入する。

 傍には空の容器が数本あり、何本も注入された後なのだと理解した。


「……学園祭のトーナメントの時みたいだね」


 涙目のレオナールを元気づけるため、クリスティーナは力なく微笑む。


「あの時は君がこうやって僕を救ってくれたんだよ」


 レオナールはクリスティーナの頬に触れる。

 その手は震えており、クリスティーナを失うのを恐れているようだった。


「ありがとう、惚れ直しちゃった」

「ああ、よかった。僕の女神」


 レオナールはクリスティーナを強く抱きしめる。


「二人で僕たちの天使を迎えに行くって、ミランダに約束しただろう」

「……ニーナのことを”天使”って言うのやめて」

「少し元気が出てきたようだね」


 クリスティーナはレオナールに寄りかかる。

 レオナールはクリスティーナに寄り添う。


(フェリックス先生……、戦いを終わらせてください)


 クリスティーナはフェリックスにすべてを託す。



 フェリックスは風魔法でアンデットの集団を越え、レヴァンタの前に降りた。


「フェリックス・マクシミリアン……」

「レヴァンタ、お前の野望は僕が終わらせる!」


 フェリックスは杖を構える。


(レヴァンタの倒し方、それはきっと――)


 フェリックスはこの戦いの間、レヴァンタの倒し方をずっと考えていた。

 フェリックスが出した答えは――、”悪魔”を光魔法で倒す。

 ゲーム通り展開することだ。


「アンデットよ、こいつを倒せ!」


 レヴァンタは魔法でアンデットたちをフェリックスにぶつける。

 その数は多く、ただの攻撃魔法では一掃できないだろう。

 チャージで火力を増すにも詠唱時間が足りない。

 並みの魔術師であれば、アンデットの量に負けるだろうがフェリックスは違う。


「フラッシュ!」


 フェリックスはクリスティーナ同様、光魔法が使える。

 眩い光がフェリックスの周りを包み、光を浴びたアンデットたちがぱたぱたと倒れてゆく。


「光魔法だと!?」


 フェリックスの放った魔法にレヴァンタが驚愕する。

 あの物言いだと光魔法の使い手はクリスティーナのみと思い込んでいたようだ。


(シャドウはレヴァンタに僕が光魔法を使えること、報告してなかったんだな)


 フェリックスは周囲のアンデットがただの死体に変わったところで、風の攻撃魔法でそれらを散らし、その先にいるレヴァンタの姿をとらえる。


「光魔法を使えるものが一人増えても問題ない」


 レヴァンタの杖の先に邪悪な魔力が集まる。


「これでもくらえっ」


 邪悪な魔法がフェリックスに放たれた。


(この魔法……、クリスティーナが食らったものと同じだ)


 この魔法は防御魔石を貫通する。

 直に食らったクリスティーナは瀕死の状態に陥っていた。


「リフレクト」


 フェリックスは光の壁を生み出し、レヴァンタの魔法を弾き飛ばした。


(あと一撃……!)


 フェリックスはレヴァンタに向けて最後の光魔法を放つ。


「グングニル」


 光の槍はレヴァンタに向けて飛ぶ。


「くそっ、負けるわけには!」


 レヴァンタも負けじと魔法を放つ。

 フェリックスとレヴァンタの魔法がぶつかる。

 こうなるとただの力比べである。


「うおおおおお」


 フェリックスは体内にあるありったけの魔力をこの魔法に注ぐ。

 この一撃がレヴァンタに貫通すれば、この戦いが終わる。

 前フォルクス皇帝の予知夢を覆せる。

 町で待っているミランダとハルトに会える。

 フェリックスの強い想いが、レヴァンタの魔法を凌駕し――。


「ぐはっ」


 レヴァンタの身体を貫いた。


「や、やった……」


 レヴァンタが倒れた。

 それと同時にアンデットたちの動きが止まった。


「うっ」


 勝利を喜ぶも、魔力が空になったフェリックスは意識を保てず、その場に倒れた。



(ここは……)


 フェリックスは地面も空もない不思議な真っ白な空間で目覚める。


「えっ、僕、死んじゃったの!?」


 不思議な空間で目覚めたフェリックスは自身が命を落としたのではないかと慌てる。


「ここは”生と死の狭間”」

「あっ、レヴァンタ」


 声が聞こえる方へ身体を向けると、真っ黒な空間があり、そこにはレヴァンタがいた。

 レヴァンタの姿が透明に見えており、もうじき死の世界へ向かうのだとフェリックスは察する。


(自分の姿ははっきり見えてる。僕はまだ生きているんだ)


 フェリックスは自分の手足を見て、生きていることを実感する。


「フェリックス・マクシミリアン……、お前さえいなければ!!」


 レヴァンタの姿が消え、彼がいた場所からくたびれたスーツを着た男性が現れた。


「……誰?」

「裏ボス転生して、光魔法使いのクリスティーナを倒したのに、なんでお前が光魔法使えるんだよ!! てか、お前【恋と魔法のコンチェルン】にいねーじゃん! なに主人公ぶってんだ」


 男はフェリックスに不満をぶつける。


(裏ボス転生……、【恋と魔法のコンチェルン】……)


 フェリックスは二つの単語から、男の正体を導き出す。


「君は……、現実世界でトラックに轢かれたか、過労で亡くなった転生者、なんだね」


 フェリックスたちを苦しめてきた黒幕、レヴァンタ・シャドウクラウンもとい”悪魔”の正体。

 それは、現代で何らかの理由にて死亡し、魂がレヴァンタ・シャドウクラウンに憑依した転生者だった。


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