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第9話 陰キャVSならず者

(スモーキー、前に『力の回復が十分じゃない』って言ってたよな?)

『言ったぞ。何が知りたい?』


 僕はあの時から疑問に思っていたことを尋ねる。


(あれって力があればスキルが使えるようになるってことだよね?

 言葉が分かるようになった言語スキルみたいに)

『ああそうだ。察しが良くなってきたな』


スモーキーは僕の〝選択〟を見極めたいのか、余計なことは言わずに答えてくれる。


(じゃあ今ならどんなスキルが使える? 少しは回復したんじゃないか?)


 詳しい説明は相変わらずなしだけど、荒野じゃそんな丁寧なものはないんだというスモーキーなりのスパルタ教育なのかもしれない。

 今必要なことを必要な分だけ知ることが重要だ。


『ほお、スキルを駆使して戦うか?』

(ここでブーツ舐めて何か好転するとも思えないし)


いじめられっこだから分かる。この手の奴は要求を呑むと更にいじめる。許すってことはまずない。


『それは同感だ。なら切り抜けようじゃないか、相棒』


 スモーキーは拳銃だから表情なんて読めないけど、どこか楽しそうに笑ったような気がした。


(ゴブリン戦の時の魔弾は貫通ピアッシング弾だったけど、あれの他にどんな種類がある?)

『すぐに使えるのは火炎弾、電撃弾、風裂弾なんかの基本的な攻撃魔弾だな。ただしレベルはそう高くないから単体にしか効果がない威力だ。それに――』


 一呼吸置いて、大事なことを告げる。


『今の力の回復具合だと、撃てる魔弾は1発だけだ』


 かなり分が悪い話だった。


(まずいな、ゴブリン撃った時と違って奴らバラけてるからそれじゃ一気にカタを付けられない。それに……)


 僕は更に気になることがあった。

 背後にいるアルや、町の人のことだ。


(奴らが僕に向けて応戦したら、流れ弾が危ない)

『つまり、お前の望みは――』


 スモーキーが頭の中で僕に言うのを、現実の怒号がかき消す。


「おい、さっさと跪いて靴を舐めやがれっ!」


 ならず者のアンルリーは気が短いようだった。


「それともこのまま死にてぇか?」


 奴は拳銃の撃鉄ハンマーを起こす。


 そして、僕はそれを待っていた・・・・・


 魔銃がホルスターの中で淡く妖しく光る。

 僕に〝スキル〟が付与された輝きだった。


「シッ!!」


 次の瞬間、僕は動いた。

 視界がスローになった。

 そのスローの中で、アンルリーが片手で構える拳銃を捉える。

 奴はこちらを舐めているから銃の握りが緩い。

 それを左手で払いのけるようしつつ、撃鉄の部分を掴んだ。

 これで払いのけた衝撃で引き金が引かれて暴発するのを防ぐ。

 握りの緩い拳銃をそのまま捻ると、面白いように回転して奴の手から離れ、銃の握把グリップがこちらへ向いた。

 そして、それを空いている右手の指を用心金トリガーガード……引き金の周りにある輪っか……へと滑り込ませる。


 この瞬間は0.5秒ほど。


「へ?」


 アンルリーは自分の持っていた拳銃の銃口が自分に向いていることに、間の抜けた声を漏らした。


 ズダンッ!!


 酒場に銃声が響いた。


「ぎゃああああああああっ!!?」


 銃声と同時に、アンルリーの絶叫も響き渡る。


「みっみっ耳がぁあああああ!?」


 それもそのはず、発射された銃弾は奴の片耳をぶち抜いていた。

 ほとんど耳元で発砲されたので、鼓膜もやられていることだろう。

 あまりの痛みに奴はその場に崩れ落ちた。


「てってめえっ!」


 手下も荒事を知らない連中ではないだけに、すぐにこちらへ銃口を向けてくる。

 ただ、ベルネッタを見張れと言われて銃口はそちらへ向いていたせいですぐには撃てない。


(遅いぞっ!)


 僕は奪ったアンルリーの拳銃はさっさと放り捨て、自分のホルスターに収まる魔銃を引き抜いた。

 構えた魔銃が青白く輝く。


電撃弾ライトニング・ショット!」


 次の瞬間、撃ったのは魔弾〝電撃弾ライトニング・ショット

 発射の時、銃身にはスパークしたような放電光が迸ほとばしった。

 これは命中すると敵を感電させる銃弾だ。

 でも、スモーキーの力が十分じゃない上に新たなスキルを今使ったから、一発しか撃てない。

 だから、狙うのは――レバーアクションライフルを持っている手下!


「あぎゃっ!?」


 電撃弾が当たったライフル持ち。

 当たったのは肩の部分で、そこを撃たれた衝撃でライフルの銃口が下がる。

 そして、そこへ電流が全身に走る。


「うぎゃあああああああ!?」


 感電して体が硬直し、倒れざまに銃口の下がっていたライフルが暴発した。


 ダァンッ!!


 暴発したライフルの銃口は、他の二人の足元へと向いていた。

 ライフル弾は貫通力が高い。発射されたライフル弾は仲間二人の足を続けざまに貫通する。


「ぐわあっ!?」

「うぎゃあっ!?」


 悲鳴を上げて床へ倒れ込む中、水平二連散弾銃を持っていた手下が発砲する。

 これは狙ったものではなく、天井を散弾で舐めただけだった。

 パラパラと散弾でささくれだった天井から木くずが落ちてくる音がする。

 さっきスモーキーが僕に言ったこと、それは――


『つまり、お前の望みは背後に流れ弾を出さずに奴らを一気に片づけられるスキルってわけだ。いいぞ、とっておきのがある』

(とっておき?)

『ああ。〝近接格闘術レベル5〟だ。魔弾を一発しか撃たない代わりにこちらのレベルを5まで上げるんだ』


 スモーキーは今の状況から一発逆転する手立てを考えていた。


『銃を手が届く位置にまでせっかく持ってきてくれてるときた。それが慢心だと思い知らせてやれ』

(なるほど、それなら……!)


 スキルというもののシステムはまだよく分からないものの、今はそれで十分だった。

 そして近接格闘術でアンルリーが不用心に突き付けていた拳銃を奪い、奴の耳を撃って無力化。一発だけ撃てる魔弾の射角と電撃特性を活かしてライフル持ちの暴発を利用して残りの手下を片付けた。

 水平二連散弾銃の銃声がした時はヒヤリとしたけど、幸い狙いはついておらずに天井を撃っただけで終わった。

 アルやベルネッタ、町の人達に怪我はない。

 そうして事が終わり、酒場の中にはならず者どもの呻く声だけが残っていた。


「ぐぐ……チ、チキショー……」


 図らずも、僕に土下座して靴を舐めさせようとしていたアンルリーは激痛にうずくまり、皮肉にもまるで僕の靴を舐めているような様子になっていた。


「こ、こんなことしてタダで済むと思ってるのか……!? マジノ強盗団はこの町を根絶やしにするぞ……!?」


 こういう時、どう言えばいいんだろ?

 あ、そうだ。簡単だ。

 僕は奴を見下ろし、無表情のまま言った。


「失せろ」

「うひっ……!?」


 奴は片耳を抑えながら、恐怖に顔を歪ませた。

 腰を抜かして床を這いずり、文字通りのほうほうのていで酒場から逃げ出していく。

 そしてスイングドアのところで振り返ってこう叫んだ。


「てってめえ……お、覚えてろよっ!!」


 凄い、初めてその台詞をマジで使う奴を見た。

 そんな感動を覚えながら手下の連中ともども背中を見送る。

 奴らの馬がけたたましく町を離れていくいななきと蹄鉄の音が遠ざかっていった。


「ふ……」


 僕はようやく魔銃をホルスターへ収める。

 趣味でやっていたいつもの癖で、華麗にガンスピンをキメた。

 くるくる、すちゃ!っとな。


「すっげえええ!!」


 すると、絶叫のような声が背後で起こった。


「すごいやキッドさん! アンルリーどもをひとひねりでやっつけちゃうなんて!」


 アルだ。

 振り返るとぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいる。

 子供らしい全身全霊の喜び方に思わず可愛いなと感じる。


「ハッハァー! どうだい見たかい皆さま方! キッドの兄いの実力を」


 次に声を上げたのはベルネッタだ。

 百聞は一見に如かずをまさかのタイミングで披露できたのだから、ここぞとばかりに畳みかける。


「信じたかい? 彼が〝ラストマン・スタンディング〟の息子だって!」

「あ、ああ」


 コリンズ町長が額の汗をハンカチで拭きながら頷いた。

 彼としては事を荒立てたくなかったのに、奴らをぶちのめしてしまったことがまだ気になるようだ。


「んじゃあ、あたいらを用心棒として雇うんだね?」


 腰に手を当て、ベルネッタが尋ねる。

 コリンズ町長はまだ迷っていた。

 彼は振り返り、町人の様子をうかがった。

 それを見たほとんどの町人が、大きく頷く。

 どうやら町の人たちも、奴らがぶちのめされたのは胸がスッとしたようだ。


「……分かった、君たち二人をこの町の用心棒として雇おう」

「決まりさね! 悪くない買い物だよ、町長」


 満足そうに彼女は笑う。


「皆もそう思わないかい!?」


 ベルネッタがそう問いかけると、酒場がわあっと沸き立った。

 町の人達の歓喜だった。

 すると彼らは一目散に僕の周りを囲んだ。

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