「そなたはどう思う」
「お、俺は……。俺は……」
突然ジークに指名されて俺は困惑していた。俺は俺でケイとは違う。今は病人だ。だけど、ここはしっかりと答えないといけない。
しかもこういうことを質問されたのは、初めてのこと、どう反応すればいいのかわからない。でも、ここはしっかりとアリスに聞いておきたかった。こういうの返し方は……。
「すみませんが……。アリスを旅に連れて行くことはできません」
「それはどうしてだ? 理由はあるのかね?」
「そ、それは……」
まずい……。ほぼ無計画で言ってしまった。このタイミングで俺が答えられなければ、だけど、言い訳も何も思い浮かばない。
「わたしを連れて行けないってどうして?」
「そ、それは……」
「カケル! どうしてなの!?」
「アリス……」
彼女はどこまで俺と一緒に行動したいんだ。たしかに俺の本音は連れて行きたい。でも、彼女の決意もしっかり聞きたい。
無計画だと思っていたことが、実際には自分の意図から来ているものだと、数秒遅れて理解した。
「じゃあ、アリス。これまで旅を成功させたことはあるか?」
「ありません……」
「俺たちのようなプレイヤーに勝ったことはあるか?」
「それもないです……」
「そんな危険な旅を、俺たちと意地でも成功させたい気はあるか?」
「え、ええと……」
できるだけ優しく言ったけど、彼女はものすごく曖昧な表情をする。この問いかけにかなり威力があったようだ。
アリスが悩んだ時間。考え込んだ時間は30分以上かかった。それでも、言葉が喉をつっかえるようで。回答が来ない。
そして一度アリスは決心したように頷く。俺とケイ。ジークはアリスに視線を合わせる。もう一度彼女が頷くと、話し始めた。
「たしかに、わたしは2回旅に出ました。しかし、2回とも失敗に終わりました。そして、旅に出ることをやめました」
「……アリス」
「でも、ケイやカケルと出会って、優しいプレイヤーもいることがわかりました。わたしは彼らのことを心から信頼しています」
アリスの身体が震え出す。言葉では信頼していると言っても身体は正直だ。実際には俺たちのことへの。容姿と立場での恐怖が拭い切れていないのだろう。
テントの中が張り詰める。アリスの唇が、歯がガタガタと小刻みに音を立てている。俺たちはそんな彼女を見守った。
「わたしは……! わたしはそれでも、カケルたちと一緒がいい……! 2人はとても優しいし、特にカケルのことが大好きだから。どんなに危険なことだろうと、離れたくない……。離したくない……から……!」
「そうか、大きくなったな。愛娘よ」
「お父様……」
「承知した。そこまで彼女が旅に出たいというのなら、彼女の命全てを彼らに任せるとしよう」
え? マジ?
このAI普通じゃない。俺たちの言葉に加え、会話に参加している人、全員の言葉を正しく理解している。
「アリスさん良かったね!」
「え……。わわ、わたしは、一体……」
「自覚してないならもう一度言うよ。アリスさんは、今日からギルド【アーサーラウンダー】の正式メンバー。一生の仲間になったんだ」
「わたしが……。ギルドメンバー……」
「そう。今度からは僕たちがアリスさんを護る。ずっとね」
ケイ。さすがすぎます……。ケイの言葉で張り詰めていた空気が元に戻った。もう心臓バクバクでどうなるかと思ったんだけど。
「ほら、カケルもなにか言ってよ」
「お、俺?」
突然振られても……。
「カーケール♪ よろしくお願いします!」
「お、おう……」
アリスは急に上機嫌だし……。
「ところで、ギルドは何すればいいんですか?」
「「そこから!?」」
アリスは天然なのか? いやいやそんなことは無いはずだ。ただ単に俺たちの言葉の意味を把握していないようにも見える。
さて、ギルドのことに関してAIにわかるように説明するには、どう言うのが正解か? 小さい子供向けにするのか?
それとも真っ直ぐそのまま言えばいいのか?
「アリスさん。実を言うと僕もギルドがどう言うものなのか分からないんだ」
「ケイも?」
「うん。だけどそのうちわかるよ」
「わかった」
リーダーが理解できてないのは、ある意味危険かもだけど、アリスはとても納得したそうで、早速出かける準備を始めた。
さすがにドレスは着ないだろうけど、色白――と言っても元々白いが――だからどんな色でも外れはない。
「えーとこれはこっちで、これはあっちで……」
「アリス。何してるんだ?」
「荷造りです。わたしにはストレージという概念が存在しないので」
「そうか。なら、俺が荷物持ちになってやる」
「ええ!? いいんですか!?」
「なんのなんの、その方がアリスも楽じゃん?」
アリスは身体をくねらせて、申し訳なさそうな顔をする。アリスの準備が終わったら、今度こそは作戦会議だ。
ラミアやファリナ。フォルテにバレンが待っている。俺はジークに挨拶すると、荷造りが終わったばかりのアリスを連れて外に出た。