目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第74話 💀 お悩み相談所 天下布武Q 💀

 完全カルト宗教、天下布武Q。


 ↑おいッ!?

 何だコレは!?

 カルト宗教とは失礼な!

 我々は、織田信長公の真の理解者にして理想の体現者!

 歴々の皇帝および大統領を、陰ながら支えてきた真に日本を憂い救う者だ!

 ふざけた事をヌかすとブッ殺すぞ!?


 ――と、うっかり信者の前で『カルト』呼ばわりすれば、烈火の如く怒る信者は、天下布武Q表向きの小物信者で教団の金ヅルに過ぎない。

 本物の信者は、普段は善良な市民だが、陰ながら支えてきた真に日本を憂う、命をも二の次に考えるエリート義士なのだ!

 ――と、厄介極まりない団体である。


 第三回仇討ち法で裁かれた7人。

 即ち――


 農上他蚊尋

 沓名夜酢拾

 佐野唇耳

 杉浦賭藻丈

 湯田苦身子

 手島鬼未恵

 大泉窃子


 彼ら彼女らは熱心なエリート義士で、(長期間の活動の割には)教団初の(発覚してしまった)殺人に手を染めた。

 とは言っても、犯罪加害者の家を焼いたら、ついでに無関係だが社会のゴミを焼いたら死んでしまっただけで、明確な殺意は無かった。

 人を焼いた意識もない。


 だから粗大ゴミへの放火であったなら罪を受け入れたが、殺人での死刑は心外だ。

 当然ながら裁判でその言い訳は通用しない。

 だが、彼らにとって、これは本当に殺意は無くて、事故だったのだ。

 本気でそう思っている辺り、病的に厄介な組織である。



【某所/天下布武Qアジト】


 杉浦卑露滓ひろかず

 池田慰詐汚いさお

 大見泌唆之ひさゆき


 呼び出された幹部が教祖の前でひれ伏している。

 これから教祖のありがたいお言葉と、次の指令が下されるのだ。


「加藤の愚か者が今度は復讐をされる側に堕ちた! これは喜ばしい結果である!」


 狂気の笑みとしか表現しようが無い顔で教祖が高笑いする。

 まだ若い。

 歳はまだ20代半ばだろう。

 その歳で、女で、この圧倒的なカリスマと狂気と覇気と神秘性。


 誰が真似できようか?

 見れば誰もが平伏せざるをえない。


「はッ! 農上達の半端な結果に比べたら、文句の付けようの無い成果かと!」


 大見が、教祖の偉業を称えた。


「たわけ!!」


「ッ!?」


 だが、教祖は全く満足していなかった。

 成果は成果だが、もっと上手くやりようがあったハズだと思っている。


「この程度で、北南崎大統領閣下の改革に、胸を張って役に立ったと言えるのか!?」


「も、申し訳ありません!!」


 言葉に押しつぶされそうになる。

 教祖の言霊が宿っているとしか思えぬ叱責が飛ぶ。


「貴様……! 『何で俺? 何が失言か!?』と思っておるな!?」


「ひっ……!」


 余りの恐怖に、大見は気絶しそうだ。


「そうだ。失言だ!」


 教祖の髪が逆立ちそうな怒りを発するが、その怒りが急に切れた。


「だが許す。心で嘘はつけぬ。結果は確かに喜ばしいが、加藤家はもっと追い詰めてやるつもりだった。何せ、奴は仇討ち法第一号の生き残りにして遺族、そして第四号の加害者。世間と大統領の為にも、もっともっと劇的に演出し、劇薬の投入をしなければならなかったが、加減を誤ったわ。これは私の責任でもある」


 教祖は心底悔しがっていた。

 歯で噛んだ唇から血が滲む。


「我らは北南崎大統領の政策に従い支援する天下布武Q! 仇討ち法は今後も加速していくだろう! 杉浦! 池田! 大見! まずは加藤家に行き、全てを灰にして来い! これが犯罪者の末路! 何もこの世に残らないと示してくるのだ!」


 その言葉に杉浦が、恐怖で顔を引き攣らせながら必死に諫言かんげんをする。


「お、お待ちください! 加害者への放火は天下布武Qの犯行だと既に割れております! また同じ事をしたら、ますます疑われてしまいます!」


「たわけ!」


 必死に翻意を促す杉浦に、手の甲で杉浦の頬を張り飛ばした。

 まぁまぁの大男である杉浦が吹き飛ばされて壁に激突した。


「だから何だ!? 貴様は頭が働かんのか!? 模倣犯に偽装する発想が無いのか!?」


 犯罪に連続性が疑われる場合、模倣犯が付き物である。

 それが世間を賑わし恐怖に陥れるほど、俺も私もと便乗し罪を肩代わりしてもらうのが模倣犯だ。


 だが、杉浦卑露滓ひろかずが心配しているのはソコでは無かった。


「……あぁ、成程。ココの場所が発覚するのを恐れているのか」


 その心を教祖は読み取った。


「その心配はない」


「え?」


「だってそうだろう? 貴様、口を割るつもりか? そんな事をしないだろう? 死刑になってもなぁ?」


 杉浦卑露滓ひろかずの心配を教祖が否定した。


「前に捕まった貴様の弟賭藻丈ともたけも場所だけは口を割らなかった。捕まったのは許しがたいが、最低限の忠誠を見せて殉教してくれた! で? 兄の貴様はどうなのだ? 卑露滓ひろかず? 貴様は弟以下か?」


 教祖が喋るとともに、メキメキと音がする。

 教祖が、儀式に使っている祭具を握力で潰したのだ。


「いえ! 決してそんな事はありません! 口を割るなら自害して見せます!」


 杉浦の嘘の無い忠誠に教祖はやっと満足した。


「池田! 次の死刑候補は見繕っておるな!?」


「は、はい! 恐らくはこの鬼蛇皮きだかわ邪煮無じゃにむによる大量性的暴行が有力候補です!」


「あの芸能事務所か。……アレを燃やすのはチト骨が折れるな」


「そうですね」


 心底無念そうに池田がいう。


「ほう? 池田。安心しているのか?」


 池田の心は見透かされていた。


「あ、いや!? 鉄筋コンクリートのビルとなると、手段を練らねばならず、また被害者も所属しているビルですので、救済対象を燃やしてしまう可能性を考えておりました」


「それで、不可能と判断し、安心したのか? たわけ!」


「ひぃッ……!」


「浄化の炎を下すのは我らの義務であるぞ? 案ずるな。やり様はある。実に簡単な方法がな! ククク!」


 教祖は邪悪な笑みで計画を提示し、3人に命令を下した。

 3人が退室した所で、教祖が胡坐をかいて座った。


《ふう。やれやれ。貴様、さっきから煩いぞ?》


 教祖は心に問いかけた。


《やめなさい|賂媚子《るみこ》! 父は愚かだった! その意思を継ぐ事と北南崎さんに寄り添うとは全然違う道よ!?》


《黙れ|牢黴蠱《るみこ》! 心の弱い貴様が生きていけるのは誰のお陰だ!? 感謝しろ鬱陶しい奴め! 貴様は善人面して相談を受けていれば良いのだ! 私は北南崎様の為にやるべき事をやる! 邪魔すれば貴様の心を破壊してやるぞ!?》


 さっきまで怒気をまき散らしていたのは、の人格を乗っ取っただった。

 高山賂媚子は、正真正銘、テロリスト兼信長真理教教祖、高橋海鷂魚逸えいいちの娘、牢黴蠱であり賂媚子でもある。


 高山賂媚子とは、高橋牢黴蠱が承認保護プログラムで受けた偽名から生まれた別人格。

 つまり二重人格者だ。

 父の思想と悪意をすべて押し付けてしまい生まれた人格が、現在の高山賂媚子だ。


 当時5歳の子供にして、他人の嘘を敏感に察知ししてしまい、更に父の大罪が重くのしかかり、5歳の精神をいとも簡単に潰した。

 悪の感情に耐え切れず、心が分裂してしまった。


 加藤の相談を受けたのは正真正銘、善の高橋牢黴蠱。

 だが、即座に獲物と見抜いた悪の高山賂媚子が、相談を途中から乗っ取った。

 早々に加藤の精神が持たない事を見抜いた高山は、この世に不必要の烙印を押し、犯罪に導き後押しするべく、丁寧に慎重に、偽善心を全開にして大統領との会談を約束した。


 その後、大統領から電話がかかって来た時はガッツポーズだった。

 ただ、そこで思わぬ事件を耳にしてしまった。

 まだまだ追い詰めるつもりの加藤が、もう犯罪を犯してしまっていたのだ。 


 高橋も高山も心を読めるが、完璧に他人をコントロールできる訳でもない。

 賂媚子は、もっと自分の手で突き落としたかったが、悔いても手遅れだ。

 結局は、アレが丁度良い塩梅の悪魔の囁きだったのだ。


《アッハッハッ! 安心しろ! 無実の人間を巻き込むのは本意ではない。大切な日本国民なのだ! 底辺を雑に扱うのも気を付けてやろう。それなら文句あるまい!?》


《あるに決まっているでしょう!?》


《そうか。しかしこの体の支配権は私にある。心の弱い貴様は、私と北南崎様の世直しを見届けるがいい! 嫌なら支配権を奪い返して見せろ! 無理だがな! ハハハハハッ!》


 山梨県信長教の社務所兼天下布武Qアジトで、地図上では『卍』が記載されている場所で、高山賂媚子の笑い声が木霊する。


《あぁ……北南崎さん!! あたしはどうしたら……!!》


 高橋牢黴蠱はどうにもならない現実に、心が引き裂かれそうになる。

 だが、そうなればなるほど、高山賂媚子の支配力が強まる。

 完全に詰んでいた――

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?