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第75話 大統領執務室①

【大坂都/大統領執務室】


 執務室には、北南崎大統領、紫白眼副大統領、目冥木官房長官、乱陀流陸軍大将、白洲御最高裁判官、南蛮武元大統領、そして民間人の高山賂媚子が今回の事件の総括をしていた。

 警護には信頼の置ける人間として、朱瀞夢、菅愚漣、金鉄銅と、元は今井だった剣士の風斬刃かぜきりやいばがいた。


「さて、今回の仇討法の総括をしたい所ですが、まずその前に報告です。加藤家が全焼してしまいました」


「……」


 元今井、現風斬刃が微かに反応したが、そのまま押し黙った。

 もちろん犯人だから動揺した訳ではなく、関係者だから反応しただけだ。


「もう無人の空き家だったので人的被害はありませンが、油断しました。既に放火犯は仇討ち第三号で処刑したので、もう同じ事は無いと思い込ンでいました。あンなに見せしめにしたのに……」


 北南崎が全員に向かって頭を下げた。

 放火に加担した7人の内6人は、北南崎、紫白眼、乱陀流に圧倒的武力で殺され、あるいは行動不能にされ、残る一人も被害者遺族の木下に殺された上で、全員、ナパームで頭部を焼かれ止めを刺された。

 視聴者にとっても見るに堪えない凄惨な光景だったはずだ。


 だが、それでも再犯が起きてしまった。


「同じ天下布武Qの残党なのか、模倣犯なのか分かりませンが、隙をつかれました」


《申し訳ありません北南崎様。頭を上げて下さい! 警備が無くなるタイミングを待っていただけなのです!》


「加害者の痕跡は何一つ残さない、と言う強い意志を感じるのは気のせいかのう?」


《それはその通りです、南蛮武さん》


「皆はどう思う? 警護の者も思う所があれば言いなさい」


 南蛮武が率直な感想を述べ、警護人にも意見を促した。

 今はこう言う率直な意見が欲しい所だ。

 的外れでも良い。

 そこから何か閃くかもしれないのだ。


「それでは当事者である私が」


 風斬刃元今井が手を挙げた。

 風斬刃は闇の部隊配属が決まっているが、まだ、この時は偽装心臓発作をしていない。

 とりあえずSPとして、乱陀流に帯同しているに過ぎない。

 後に、傷の完全回復を待って心臓発作になる予定であり、今は車椅子と点滴の状態で参加である。


「犯人は、私の戦いを中継で見たと思います。故に焼却したのでは?」


《は?》


「どういう意味ですか? その言い分ですと、犯罪が理由では無い様に聞こえますが?」


 この場にいる全員が、話の意図を理解できなかった。

 その雰囲気を感じた風斬刃が補足をする。


「……その何と言うべきか、自分でもあの戦いを見返すと、自分は完全に凶悪犯側でした。勝者が凶悪です。それを見て、もし今回の放火が天下布武Qの残党なら、仲間が処刑を思い出し、より過激になるのが自然だと思います」


「な、成程……?」


 風斬刃が理解できる様な、できない様な、要点がボヤけた話をする。


《違うわ! 何を言ってんだ貴様は!? 馬鹿か! 何だ!? 我々が意気消沈していると勘違いしてんのか!? 貴様は遺族であり勝者! 何なら犯罪者を見せしめにするという点で貴様は満点だ! そもそも過激も何も最初から方針は変わっておらんわ!》


「成程。より過激になったと。風斬刃君が凶悪犯に見えたかどうかはともかく、あの凄惨な戦いを見て、再度使命に準じる。無くは無い考えだと思います」


 北南崎は一定の理解を示した。


「う~ん。私も分かる気もします、ってのは勝者の風斬刃さんに対して失礼ですが、しかし、悪人に見えようが何だろうが、風斬刃さんは被害者遺族なので、憎悪のまま戦って、仮に見苦しく戦っても良いのです。ですよね? 大統領?」


「えぇ。その通りです。と言うより、憎悪で犯罪者を怯ませるのが仇討ち法の狙いなので、何も間違っていませン」


《紫白眼! |妾《わらわ》の北南崎様に色目を使うな!》


「そうじゃのう。しかし裁かれ死んだ者の遺品すら許さないのは、死者に鞭打つどころでは無い。古代中国王朝じゃあるまいしのう。今回も天下布武Qの仕業なら奴らは中国系マフィアなのか?」


 死者に鞭打つとは、中国のことわざであると以前書いたが、古代中国では他にも、新勢力に負けた旧勢力の建物や墓は徹底的に破壊される。

 旧勢力が悪で、新勢力の正当性の宣伝として使われ破壊される。

 故に始皇帝の兵馬俑や、曹操の墓が見つかるのは奇跡なのだ。


《南蛮武さん! 日本人が死者に鞭打ったって良いじゃないですか!》


「中国系マフィアが日本の為にですか? 仮にそうだとして、そんな事をしでかす恐れのあるマフィアは中国系に限らず、殆ど滅んだと


 乱陀流がそう言うが、滅ぼしたのは、闇の部隊を率いる当の乱陀流なので『聞いています』と濁した。


「いや、わかっとるよ。荒唐無稽なのは。しかし天下布武Qの存在を知って、未だに尻尾も掴めんとは、精鋭揃いなのか狂信的なのか少数精鋭なのか?」


「狂信的……。高山さんは、信長教教祖としてどう思います? 仏教とは違うので判断は難しいでしょうが、信長公の研究第一人者として、宗教的意見として、如何でしょう?」


「《乱陀流か! ホレ! 出番だぞ!》えぇ。信長公も、戦国時代では敵対した勢力は滅ぼしました。今とは時代が違うので、また、当時は乱世なので、徹底的に滅ぼす事もありました。ですが、統一後は、全て法で管理し、当時の政治に基づき判断されています。信長公らしいか? そう言われれば『らしい』ですが、世界基準の統一者の行動ではありません。乱世の信長公、治世の信長公とも違う。この攻撃性は信長公の解釈を捻じ曲げている天下布武Qの思想に近いと思います」


 高山賂媚子は天下布武Qなる謎の組織が原因だと言った。


《それでいい》


「天下布武Qですか。彼らだとして、何か気付いて欲しいメッセージでもあるのでしょうかねぇ?」


《北南崎様! そうです!》


「あっ。メッセージと言えば、仇討ち第三号の加害者である手島鬼未恵が事情聴取の時に言ったンですよ。『一つ訪ねましょう『Q』って何の意味だと思います?』と。それにすっかり忘れていましたが、『天下布武Q』と書いて『信長公Q』と読ませるとも」


 北南崎が急に思い出した様に訪ねた。


《ッ!? 手島!? 死んだ後に|妾《わらわ》を困らせるとは許し難い! ヒントを残して優越感に浸っているつもりか!?》


「高山さン、申し訳ないですが、どうしても信長教と信長真理教と天下布武信長公Qは関連性があると、疑いはしませンが、高山さンが知らない何かがあるのかと思ってしまいます」


 それはもう、疑っているも同然の言葉だが、高山が巻き込まれている可能性も暗に指摘した。


「真理教時代の高橋教祖は何か言っていませンでしたか?」


「《関連性大ありです! 北南崎様! あぁ! 全てを打ち明けて褒めてもらいたい!》……私が5歳の時の話になりますね。聞かされていたかもしれませんが……その……」


 高山こと高橋牢黴蠱は困ってしまった。

 高橋教祖の寝言の如き野望は一切覚えていないが、現在も別人格が暴れているのは知っている。

 今、表に出て喋っている人格は、原初の人格である高橋牢黴蠱。

 だが、体の支配権は別人格が握っており、今も、凶悪な人格が高橋牢黴蠱を支配している。

 この高山が、高橋が覚えていない事も知っているが、話そうにも話せない。

 強力な精神拘束が働いているのだ。


「すみません、確証が無い事しか……。むしろ北南崎大統領や南蛮武先生の方が詳しいかと……」


 元信長真理教の幹部だった東西岬こと北南崎。

 信長真理教の核テロを防いだ南蛮武。

 一番詳しいのはこの2人のはずなのだ。


「ワシらか……。そうじゃな。年齢的にも当事者としても、ワシらが知らなければ、誰も知らんよな。仕方ない北南崎君。アレを出すしかあるまい」


「そうですね。皆さんコレをご覧ください」


 北南崎は懐から一枚の紙を取り出した。

 名前の横に英字記号が書かれている資料。

 これは南蛮武邸に取材に来た、記者達が持ってきた資料だった。

 信長真理教が人身売買に手を染めていた証拠である。


「ッ!?」


《ッ!?》


《ッ!?》


 も驚く資料が出てきた――

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