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第76話 大統領執務室②

【大坂都/大統領執務室】


「ッ!?」


《ッ!?》


《ッ!?》


「大統領! これは!!」


 と紫白眼達が驚いて目を限界まで見開いた。


「えぇ。紙質からして現物ではなくコピーですが、この中の名前の何人かは、別の押収資料にもありました。本物のコピーに間違いありませン」


 この名簿の意味を知るものは戦慄した。

 一方、知らない者の反応は見たままの感想しか出てこない。


「えっと……何でしょうソレは? 名簿? アルファベット?」


「名簿にしては五十音順ではありませんな? 鈴木賭喪和-D、加賀白栄-S、神谷離拿-E……?」


 金鉄銅と風斬刃は、『コレ』が一体何なのか分からず、しかし、ただ事では無い雰囲気から、とてつもない機密資料なのだと察した。


(なぜコレが!?)


《どういう事だ!? お前の差し金か!?》


(違います! 私はに逆らえないのですよ!?)


《……何故だ!? 《《妾》》の知らぬ事など無いハズ!》


 るみこ達も狼狽する。

 そんな中、事情を知る北南崎が説明した。


「えぇ。これは名簿です。報道されていない大犯罪の資料の一部。しかもこの資料は超大犯罪のついでに発覚した資料。本当の犯罪に比べれば可愛いモノです。いや、コレも相当に酷い代物ですが……」


「本当の狙い? 可愛いモノ? ならばコレはどういったモノで?」


 金鉄銅が悪気なく聞いた。

 別に、尋ねる事自体に善悪はないが、何か居心地の悪いモノを感じつつ聞いた。


「……と言うか尋ねて良かったのですか? 知らない方が良さそうな雰囲気ですが、退出した方が良いですか?」


 自分で尋ねたが、何か聞いてはいけない気がしてならない。


「いや、居ても良いですよ。仇討ち法にも関わっているかもしれない組織ですからね。聞いた事は墓まで持っていってくれれば大丈夫です。金鉄銅君、風斬刃君は信頼に足ると思っていますから」


 こうして、北南崎は20年前に起きた事件を話した――


「か、核テロ……!」


「人身売買……!」


 金鉄銅は当然ながら、鍛え上げられた精神を持つ風斬刃まで動揺を隠せなかった。


「み、皆さんは、その時からの盟友と言う訳ですか?」


 金鉄銅が訪ねた。

 急に疎外感が強くなり、距離を感じてしまった。


「盟友……。確かに盟友じゃな。金鉄銅君に風斬刃君は安心したまえ。同じ秘密を共有する仲となった。我らの活動を手伝えとは言わん。理解してくれれば満足じゃ」


 南蛮武が苦笑いをしながら言った。

 20年間、仲間は居れど孤独に戦ってきたのだ。

 闇の部隊として、45代大統領として。


「北南崎君、紫白眼君、乱蛇流君などは教団出身者でありながら政府要職についておるが、誤解しないで欲しい。今の日本が信長真理教に支配されている訳ではない。むしろ逆。彼らは善良で、孤児として引き取られ、それでいて騙されていた信者。当時の北南崎君が教団の腐敗を我らに知らせなければ、どこか4か所で核爆弾テロが起きていたのじゃ」


 決して、教団に国が乗っ取られた訳では無い事を強調した。

 北南崎こと、当時の東西岬は教祖に大変な恩義を感じて活動していた。

 孤児の自分をここまで育ててくれた恩があるのに、迷いなく裏切ったのだ。


「じ、人身売買の被害者は?」


「救える人は救いました。……生死に関わらず。まだ全員を見つけていませンが、例え私が大統領を辞任しても、コレだけは完遂します。闇の部隊の一員となって」


 北南崎の奥歯がバリバリと異様な音を立てる。

 怒りだ。

 世話した者、育てた者、教育した者、皆幸せに旅立ったと信じていたのに裏切られた。

 知らなかったとは言え、動かない訳にはいかないのだ。


 それに追随して、高山賂媚子がはっきりと決意を述べる。


「私は、父の罪を償うべく教祖の娘として、大統領に情報を提供しています。まだ信長教が、昔の信長真理教だと勘違いして接触してくる輩もいますので……。《死すべき者です。どんな手を使っても》《始末せねばならぬ。跡形もなく。罪人は皆平等にな!》」


 るみこ達が使命を語った。


「一つお尋ねしたい」


 風斬刃が訪ねた。


「何でしょう?」


「その信長真理教の暗部と、それらと戦い続けているのは理解しました。大事な使命なのも間違いないでしょう。疑問なのは、大統領となって最初に打ち出した政策が『仇討ち法』でしたよね? 仇討ち法はそれらとは関係ない大統領の政策ですか?」


「風斬刃さンは仇討ち法反対派でしたね。良いでしょう。話しましょう。私の真意を。と言っても単純な話ですがね。まず国民に向けて語った凶悪犯罪率の類を見ない増加に対する対策はウソではありませン。大統領である以上、信長真理教だけに構っていられませン。風斬刃さンにとって良し悪しはあるでしょうが、理解はして頂けたハズ。自宅に訪問した時に」


「そうですね。今は賛成派ですのでご安心を」


「ありがとうございます。で、裏の事情ですが……当時の教団の暗部に積極的に加担して居た物を炙り出したいのです。実は……高山さン」


「えっ? 私ですか?」


 風斬刃向けの話かと思っていたら、急に話を振られて賂媚子は驚いた。


「信長真理教の高橋海鷂魚逸えいいちは生きています」


「えっ!?」


《えっ!?》


《えっ!?》


「闇の部隊が関わった事件は、司法に回されませン。その場で殺害されるか、捕縛したならば、用済みになるまでそのまま一生独房です。ここの地下深くに」


「だ、大統領?」


「何でしょう紫白眼さン?」


「ずっと黙って聞いていましたが、そもそも『闇の部隊』って何ですか? 誰も質問しないので妙に思っていましたが、副大統領の私が知らない組織があるのですか?」


《ソレは確かに! 何だ闇の部隊って!?》


「あるのです。今日私は、信長公から400年間続いた禁を破りました。この闇の部隊は、存在してはならない部隊故に名称も仮です。歴代大統領と、陸軍大将、そして所属する者しか知らない。法で裁けない悪を滅する部隊でありながら、完全なる違法行為でもあるので、警察に逮捕される恐れもあれば、敵に捕まっても救出はされませン」


「なっ……!」


《なっ……!》


《なっ……!》


 乱蛇流、南蛮武と、闇の部隊内定の風斬刃以外の、紫白眼とら他の人間が一様に驚いた。


「ここに居る人達を信頼しての暴露です。まぁ仮にこの情報を流しても誰も信じないでしょうし相手にもされないでしょう。そして紫白眼さン、これを聞いたからには、次の大統領は貴女ですよ?」


「えっ? は、はい!!」


 急な後継者内定に紫白眼は驚くが、北南崎の覚悟を受け取り己も腹を括った。


「で、話が脱線しましたが、仇討ち法の表の理由は先ほど言った通り。裏の理由は、逃げた旧教団幹部の誘き寄せを狙っています。高橋教祖と共に積極的に人身売買に手を染めていた者。テレビを見れば、私が北南崎ではなく東西岬である事は見抜くはず。ならば接触するハズです」


「断言するのですか? だいぶ不安定な作戦にも思えますが……」


 真実を知った紫白眼が、当然の疑問を口にする。


「紫白眼さンが不安に思うのは当然ですが、この仇討ち法は、高橋教祖の日本征服後の統治法でもあるのです」


「父の!?」


《親父の!?》


《父上の!?》


「幹部はソレを漏れなく聞いています。だから必ず網にかかると信じています」


「な、なるほど……」


「私を傀儡として高橋教祖が背後にいる。私はそう見える様に振舞ってきました。その甲斐あって、何人かが接触し捕縛できましたが、まだ全員ではない。最後の一人まで捕らえ、売られた子達を救います」


 これが南蛮武と北南崎が考え出した、行方の分からない売られた子供達救出の為の、最後の手段だったのだ――

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