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第77話 るみこ会議

【高山賂媚子/精神内】


「貴様! 昨日、いつの間にかしれっと混ざっておったが誰だ!?」


 高橋牢黴蠱が問い詰めた。


「……」


 高山賂媚子は無言でいた。


 昨日の大統領執務室での秘密会議。

 途中から知らない人格が高山賂媚子の体に顕現していたのだ。


「フフフ。わらわか? 妾は高橋ルミ子。まぁ簡潔に言うなら3人目の人格という事になるかのう?」


 その3人目が古めかしい言葉で自己紹介する。


「ルミ子!?」


「……」


 高橋が驚愕し高山は無言を貫いた。

 高橋は二重人格を自覚し、体の支配権を有していると思っていたが三重人格だとは思いもよらなかった。


「いつから、と聞いたがそれは知らん。妾も気が付いたら存在していたからな。まぁ貴様ら2人のやり取りを眺めて暇を潰しておったわ。多重人格なぞ稀も稀なのに、その人格にすら気付かれない妾の存在たるや、凄いじゃろう? そう凄いのじゃ。これがどういう意味か分かるか?」


「……何が言いたい!?」


 高橋は、唸り声を上げて威嚇する狂犬の如くな態度は崩さなかった。


「クックック! この体の支配権は妾にあるのじゃよ。高橋牢黴蠱。貴様が高山を自由自在に操っていたと勘違いしているかも知れんが、妾がその都度権限を貸し与えていたに過ぎぬ」


 ルミ子が断言した。

 それは『もう自由は無い』と宣告したも同然だ。


「馬鹿なことを言うな! 高山! 踊れ!」


「……」


 高橋の命令に無反応の高山。

 高山の精神内なのだから、生きているのは間違いないが、反応は無かった。

 眼球すら動いていない。


「ククク。無駄だ。現に高山はさっきから一言も喋ってすらおらんだろう? 妾の支配下だからだ。ただし、今、動きを封じているが、高山は妾の存在に気が付いていたな?」


「……」


「あぁ、喋っていいぞ?」


「クッ! 時々高橋牢黴蠱の人格が妙だとは思っていました。それがまさか三重人格だとは思っていませんでした。まさか高橋牢黴蠱は傀儡だったとは!」


「何だと! 誰が傀儡ギャッ!?」


 高橋が反抗的な態度を見せるが、一瞬輪郭がボヤけ霧散しそうになった。


「騒ぐな。貴様は基本的に煩い。それ以上騒ぐと人格を消すぞ?」


「クッ! お前は我々の人格管理者なのか!?」


「そうだ……そうそう。貴様の北南崎への恋愛感情は見苦しい。その感情が外に出ていないからまだ良いが、北南崎様は我らの希望であるぞ。人格を消されたくなければ大人しくしろ」


 それはアンタもじゃないのか――

 幼少期に救ってもらった恩人なのだから、どの人格にも大なり小なり恋愛感情がある。

 高山も高橋も喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。


「こうして妾が顕現した以上、好き勝手にはさせぬ。人格を消されたくなければ、妾の意に沿うがいい」


「逆らえないなら従うしかありませんが……一つ確認があります。天下布武Q。この命名は貴女なのですか?」


「フフフ。ルミ子で構わぬぞ。同一人物なのだからな。で、天下布武Qの件は、そうだ。妾の命名だ。信長公と読ませるのも全部妾の仕掛け。正確には高橋にそう思わせて命名させたのだがな」


「グッ! この……ッ!!」


 自分の意志で動いていなかった事を知り、憤慨爆発寸前だが、もうその感情が自分の意志なのか、そう思わされているのか高橋には分らなかった。


「手島鬼未恵の馬鹿者がよりによって北南崎様に『Q』の意味を問うたのは、執務室で聞いたな? ちなみに、手島の知る『Q』の意味はQuestionクエスチョン。意味は疑問や質問だが、それは表向きの答え。『天下布武Qは世間に対して常に問いかけ疑問を呈しているのだ』というお題目。まぁ偽装であるが間違ってもいない。犯罪者狩りを政府に成り代わり行っておるのだからな」


「犯罪者狩り? 放火だけでは無かったの!?」


「あぁ。放火は高橋の命令だな? 正確には妾がそう命じさせていたが、ごく少数には妾が直接命じていた。だが驚いたよ。政府も犯罪者狩りを行っていたとはな。闇の部隊か。流石は信長真理教出身者。考え方が同じだ。いや、これは父上の方策を利用しているのだったな。ハハハ」


 何が可笑しいのかルミ子は笑った。


「話が脱線したが、『Q』の真の意味だったな。『Q』とはQualityクオリティ。質の意味だ。日本人失格の者共を刈って日本人の質を上げているのだ」


「そんな横暴な……! 確かに質は上がるでしょうが……!」


 高山は抗議する。


「そう言う事か」


 高橋は憤慨していた事も忘れ納得した。


「納得したかな?」


『納得したでしょうねぇ』


「え、誰?」


 突然の声に高山賂媚子が驚いた。


「誰だ!?」


 突然の声に高橋牢黴蠱が驚いた。


「何者だ!?」


「えっ」


 突然の声に高橋ルミ子が驚き、高山賂媚子と高橋牢黴蠱がルミ子の態度にも驚いた。


『QとはQuartetカルテット (4人組)であり、Queenクィーン (女王)でもあります。『Q』の真の意味は、我々の事なのですよ。高山賂媚子、高橋牢黴蠱、高橋ルミ子、そして私こと『高山るみ子』。そんな御大層な意味はありません。表向きに無理やり意味を付けただけです』


 突然現れた人格が、ペラペラとしゃべり始め、他の3人は黙って聞いていた。


わたくしこそが原初の人格なのです。喜怒哀楽に分裂してしまった『タカハシルミコ』の統率者。私は喜びを司ります。高山賂媚子さんは哀、高橋牢黴蠱さんは怒、高橋ルミ子さんは楽。どうです? 哀しかったでしょう? 怒りが沸き上がったでしょう? 楽しかったでしょう?』


「……」


『あっ。どうぞ。もう喋れますよ』


「……」


『ん? 何も質問が無い? ならば私は気配を消しますので、3人で話しあって方針を決めて下さいな』


「ちょ、ちょっと待て!」


 高橋牢黴蠱が引き留めた。


『何です?』


「色々聞きたい事が山盛りだが……結局お前の意思には逆らえないんだろう!?」


『いいえ。貴女達が逆らえないのは高橋ルミ子の意思だけですよ。例えば……全員、踊りなさい』


「はい……踊ります」


 その言葉に反応したのはルミ子だけで、不思議な踊りを踊り始めた。

 楽を司るだけあって楽しそうだ。

 他の2人は唖然とするしかない。


『ね? 私は貴女達には直接干渉出来ないのよ。自分が支配する体なのに不思議ね。ルミ子を介しないと命令できないのよ。まぁともかく頑張ってね。今まで通り活動していれば文句はないわ。それと一つ。この寺の地下5mにプレゼントが埋まっているわ。上手く使いなさい』


 そう言い残して高山るみ子は消えた、と同時にルミ子のダンスも終わった。


「どうするのです?」


「そりゃ、こっちが聞きたいぜ」


 高山賂媚子と高橋牢黴蠱が愕然としながら、困惑する。

 そんな中、るみ子の代理であり傀儡でもあるルミ子が指示をだした。


「とりあえず信者を使って地下5mを掘らせなさい。あと妾の踊りは忘れなさい!」


「はい……。分かりました……」


 その瞬間、二人の人格に刻まれた踊りの部分が消えうせた。

 こうして『るみこ会議』は終わった。


「あっ」


 高山賂媚子が何かに気が付いた。


「何だ?」


 高橋牢黴蠱が面倒くさそうに聞き返す。


「一応聞きますけどQuintetクインテット(5人組)じゃないですよね……?」


「ッ!?」


「わ、妾は聞いておらん!」


 高橋ルミ子が全否定をした。


 こうして今度こそ『るみこ会議』は終わった。

 なお、地下5mから発掘された物は厳重に封印が施され『☢』のマークがお札の如く張られていた――

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