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第86話 鬼皮蛇vs530人③ 虐殺

【大坂都/廃校舎】


 元Psycho Killerで現在はオジサンの横山と若松。

 2人は武闘家コンビとして売れていた。

 売れていた、であって現在は引退した唯の中年オジサンだ。


 アンチエイジングも不要になったので、芸能界時代では自制していた食欲を開放し食べに食べて今の体系になった。

 だが、芸能界に入る前から続けていた柔道と空手は健康の為にも続け、横山などはオリンピック選手も育てた実績がある。

 若松も芸能界引退後に総合格闘技に飛び入り、アイドルなのに強さを証明した。


 そんな時代から少々時が経ったので、今は、肉体も闘い向きよりは、オジサン向きの肉体だ。


「皆いいか? オレ達は1分間なら全盛期で戦える。その間に仕留めてくれ」


「はい!」


 彼らの武勇伝はアイドル達にも知れ渡っている。

 確かに小太り気味だが、可能性があるのは彼らしかいない。

 そんな彼らが異物を発見した。


「……なんだ?」


 廃校舎とは言え、学校にある物には見えない。

 廊下に山が出来ていたのだ。

 慎重に近づくと、段々と認識が出来るようになってきた。


「うっ……!」


「バンドの生存者は何人だ!?」


 横山と若松は『死体の山』から視線を切らせなかったので、後ろの誰かに聞いた。


「……480人です!」


「50人も殺されたのか!?」


 この死体の山はEnjoy&Excitingチームモノ。

 鬼蛇皮は、一旦現場を離れたが、やっぱり元に戻って全員に止めを刺し、このオブジェを作ったのだ。


「バケモンか!?」


「こりゃ……五体満足は当然、生きては帰れんかもな……!」


「どういう殺され方をしてるんだ?」


 横山が吐き気をこらえながら死体を検分する。

 鬼蛇皮は素手でのスタートだったハズだが、目や口を貫通した者が多い。

 首を折られた物もいるが、素手での貫通は不可能なので、大多数は武器による止めと判断した。

 もちろん、死体の山を崩して確認した訳ではないが、取り合えず見える範囲での確認だ。


「武器を見つけたか調達したか奪ったか?」


「だろうな。寝技の達人かと思っていたが違うのか? ……刺すだけなら技術は要らないか? いや、それなりに要るか」


 過去に襲われた者は、皆寝技で動きを封じられた。

 鬼蛇皮の名が示す通り、蛇に巻き付かれたと錯覚するおぞましさ。

 だが、武器術まで一流だと話が違う。


「木刀かバットか、モップか分らんが、何か長物を持っていると想定しなけりゃならんな」 


 若松がある種の覚悟を決めながら言った。

 こちらも捨て身なら一発なら耐えられる自信からの発言だ。


「俺が一撃貰う代わりに必ず一撃叩き込むから、横山はそのまま投げか締め技で奴を頼む」


「任せろ」


 締め技は場所を問わないが、投げ技はコンクリートの廊下に投げ落とせば、一撃死もありえる凶悪な攻撃となる。

 仕留めそこなっても大ダメージは確実だ。


「血の足跡が奥に向かっている。とりあえずそっちにいこう」


「あぁ」


 Psycho Killerチームは、死体の山を限界まで体から遠ざけて、血の足跡の向かう先へ歩みを進めた。


「ギャッ……!」


 小さく短い悲鳴が廊下に響いた。


「げぅッ!?」


「にびゃッ!?」


「ごふぉッ!?」


「鬼蛇ガァッ!?」


 立て続けに5人の悲鳴が聞こえた。

 特に最後の悲鳴は明らかに犯人の姿を見た悲鳴だ。


 その瞬間、横山と若松は後方に駆け出した。


「皆、俺たちの背後に回れ!」


「最後尾の奴らは何を……!? 死体があるから見られなかったのか。クソ!」


 まったくその通りで、最後尾は死体を視界に入れたくなくて、前を向いて歩いてしまった。

 その後は鬼蛇皮の独壇場だ。


 血の足跡が途切れるまで歩いて、横の教室で身を潜めていたのだ。

 血液は粘着性が強い。

 量を調整すれば、適当な所で目視不能になる。


 もちろん血液に反応するルミノール検査液があれば話は違うが、そんな物は用意していない。

 足跡が途切れても、その先へ行ったと思うのは当然だ、と言う隙を突かれたのだ。


「ヒャッヒャッヒャ! これだけ豪快に引っかかってくれると爽快じゃわいのう!」


 罠にかかった哀れな獲物に、鬼蛇皮は笑いが止まらない。


「クタバレ鬼蛇皮! ……ッ!?」


 駆け付けた若松が渾身の上段突きを放つ――鬼蛇皮は人差し指一本で若松の手首を掴み――若松の口に手を突っ込んで上顎を掴み――勢いを付けた所で投げる方向とは反対に下顎を掴み、口から顎を引き裂いた――


 若松の口から大出血が廊下上に飛び散る。

 横山は信じられない光景に驚くも――若松を掴んだ逆の手を掴み――逆一本背負いで投げる――鬼蛇皮は天井を蹴って投げの起動をずらし――横山の後頭部に頭突きを食らわせた――


 若松は出血多量で戦闘不能。

 横山は頸椎損傷で戦闘不能。

 年齢はともかく、武力的には最強格だったPsycho Killerの2人が、一瞬にして始末された。


「流石に頭突きは無茶じゃったか。痛いのう?」


 鬼蛇皮は頭をさすりながら、驚いて足が震えている残りのメンバーを受け身不能の投げ技で、廊下に、水飲み場のコンクリート角に、割れたガラスの上に、次々千切っては投げ、次々に死体の山を築いていく。


 正気に戻った一部のメンバーは我先に逃げ出し、足がすくんで動けないメンバーは全員投げ殺され、Enjoy&Excitingの上に積まれ、山の一部、いやピラミッドとして積み上げられていった。


「ピラミッドは王の墓というが、これでは逆じゃのう?」


 鬼蛇皮はアイドルから奪った煙草を咥え、若松と横山の遺体で作った椅子に腰かけ一服する――パァン!


「!?」


 鬼蛇皮は驚いて飛び退いた。

 鬼蛇皮をして、何が起きたか分からない攻撃が突如飛んできて、タバコを飛ばしたのだ――

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