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第85話 鬼皮蛇vs530人② 鬼皮蛇無双か老人虐待か

【大坂都/廃校舎】


「何度この日を夢見た事か!」


「ああ! ブッ殺してやる!」


 Enjoy&Excitingエンジョイ&エキサイティングの永田賭卑汚とひおと鈴木否借ひかるが、折角のベビーフェイスを鬼の形相に変貌させて、木刀を手に校舎内を捜索する。


 彼らは剣道有段者。

 剣術を修めている訳ではないので真剣は握ったことは無い。


 ただし、竹刀を木刀に変えての戦いは初めてではない。

 ヤンチャしていた頃に鬼蛇皮に拾われ、大切に育てられ犯された。


 剣道で鍛えた技も精神も、寝込みを襲われては何も役に立たなかった。

 だが今は違う。


 木刀で惨殺は出来ないが、どこでもいいから当たれば骨折確定の木刀だ。

 彼らは木刀で大統領の面を叩いたが、木刀は粉砕された。

 驚愕よりも感動さえ覚えた経験だったが、その大統領が鬼蛇皮には勝率7割だという。


「油断しなければ、奇襲を許さなければ、必ず俺たちの剣が先に届く」


「お前たちは、俺たちが一撃を入れたら、一斉に襲い掛かって殺せ」


「はい!」


 このチームはEnjoy&Excitingを先頭に探索を進めている。

 あの老人は、名前の通り蛇だ。

 しかも小柄で小さいので、思いもよらない隙間に潜んでいる可能性もある。

 カーテンの裏、ロッカーは当然、赤ん坊ぐらいしか入れない引き出しも念入りに調べる。


「……居ないな。外れか?」


「そうかもしんねぇけど気を抜くなよ?」


「あぁ。ここで『油断して死にました』じゃ、死んでも死にきれねぇ。この木刀を奴のケツに突っ込んで串刺しにしてやる……!」


 異物を体に突っ込まれる苦しみは想像を絶する。

 それが必要な行為であってもだ。

 例えば胃カメラ、鼻カメラ、大腸カメラの苦しみは言うに及ばず、注射針が皮膚を突き破っただけでも痛いのだ。


 ならば、木刀なんか突き刺したら地獄の苦しみだろう。

 そんな苦しみが鬼蛇皮にこそ相応しい。


「おっ? 最初の獲物はお前達か」


 妖怪の声が廊下に響いた。

 もちろん妖怪など存在しないが、そうとしか思えない鬼蛇皮の声だった。

 どこに潜んでいるでもなく、堂々と廊下のど真ん中を歩いて、彼らと鉢合わせた。


 完全に偶然だ。

 狙ってもいなければ、潜んでもいない。

 その行動に移る途中でもない。


 ただ散歩していたら遭遇しただけだ。


「鬼蛇皮ッ!?」


「呼び捨てとは酷いのう。いつもは『ジャニームさん、ジャニームさん』と親しかったではないか。寂しいのう」


 鬼蛇皮が不気味なキス顔をして舌なめずりをする。

 見るに堪えないおぞましさだ。


「グッ! あの地獄の代償を払ってこの業界で売れたんだ! 貴様にはへつらうしか無かったんだよッ!」


「本気で親しみを込めて呼ばれてると思ってたのかッ!?」


 憎悪の叫びが廊下で乱反射し、あちこちに言葉の刃が突き刺さる。

 そんな錯覚が見えてしまう程の憎悪だった。

 だが鬼蛇皮が返した言葉は単純明快だった。


「あぁ、もちろんじゃ。愛し合った仲じゃしのう?」


「ッ!? こ、このッ!!」


「こ、殺すッ!!」


 2人は廊下を駆け出し勢いそのままに木刀を振り下ろす――パスッポン――

 木刀が鬼蛇皮の手のひらに優しく収まり――全く身動きが取れなくなった――


「動かねぇ!?」


「グッ! テメェ何しやがったッ!?」


「別に~? 君らが手加減してくれたのだろう? 何だかんだ言ってもワシに惚れとるのじゃろう?」


 もちろん手加減ではなく、鬼蛇皮が技を使っている。

 木刀の勢いを殺しつつ受け止め、今度は木刀越しに相手の力を打ち消している。

 これは紫白眼から盗んだ技術の一つ。

 何も、体が触れてなくても良いのだ。

 力が伝わる『何か』に繋がっていれば、どうとでも料理できる。


「さすがワシの育てたアイドル。演技が上手いのう。 ツンデレかのう? む? もうツンデレは死語か? ククク!」


「み、皆! 今だ! 両手が塞がっている今なら倒せるぞ!!」


「ッ!? お、オォ!!」


 2方向からの木刀の攻撃を難なく受け止めた状況に信じられず、後方で固まっていたアイドル達が一斉に目が覚めたかの様に動き出した。


「フフフ……。そりゃ!」


 鬼蛇皮が手首を軽く動かした。


「うおっ!?」


 突如木刀に超重量を感じた2人は膝を付いた。

 とても支えきれないのだ。


「ほいっ」


 今度は木刀が超軽量、と言うより浮き出す感覚に捕らわれ2人は立たされた。


「さすがアイドル! リズム感に優れておる。タイミングバッチリじゃて。愚か者が!」


 鬼蛇皮は目をカッと開くと、永田と鈴木が、扇風機の羽根の様に回転しながら後方に吹き飛ばされた。

 一方、突進してきたアイドルたちは、飛ばされた2人と激突して、将棋倒しになぎ倒されていった。

 廊下という、狭い空間が、最悪の悲劇を生みだしたのだ。


「さぁて、お楽しみタイムと行きたいが、悲鳴を聞きつけて他の奴が来るかもしれん……のッ!」


 両手に奪ったままの木刀の先端を柄側に持ち替えて、鬼蛇皮はアイドルたちの喉をや眼、口を木刀で突き刺していった。

 完全に止めを刺している暇はない。

 死んでくれればラッキー程度で、動けなくなれば良い。


「フフフ~ん♪ フッフッフフフフ♪ フフッフHu~♪」


 かつて自分が作詞作曲し、永田と鈴木に提供した楽曲を鼻歌で歌いながら、両手で次々に止めを刺していく鬼蛇皮。

 将棋倒しで下敷きになった者は藻掻いて脱出を図るも、鬼蛇皮の行動の方が素早かった。


「貴様で最後か? 何人死んだかな? 13人か」


 鬼蛇皮が腕のバンドで確認する。

 530から517に人数が減っている。


「ご、ごめんなさい……!」


 すっかり怯え、腰も抜けて動きも取れないアイドルの1人が、泣きながら謝罪する。

 しかし鬼蛇皮はそのアイドルを見ていない。

 バンドの数字に夢中だ。


「ごめんな……さいッ!」


 鬼蛇皮の油断を見たアイドルは謝りながらバットで脛を狙った。

 そのスイングを足裏で無造作に受け止める鬼蛇皮。

 視線はバンドに向いたままだ。


「えっ!? ごべんッ!!」


「成程。脈動が止まったもの13人。重体の者37人か。いや36人で、これで死者14人じゃな」


 木刀が謝罪を繰り返したアイドルの口を貫いた。

 合気道の技では無いが、攻撃技の応用だ。

 木刀程度に先端が丸まっていても、人間を貫くのに苦労はない。

 鬼蛇皮は50人のうち14人を殺し36人を重体にして去っていった。


「Ah~♪」


 去っていく後ろ姿は、瘴気で穢れていた。



【校舎内モニター室】


 生存者の数が512に減っている。

 重体だった者の何人かが息絶えたのだ。


「やりますねぇ鬼蛇皮さン」


 北南崎大統領は、腕を組みながら、鬼蛇皮の戦いを見届けていた――

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