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第84話 鬼皮蛇vs530人① 匹夫の勇か、烏合の衆か

【大坂都/廃校舎】


「いくぞ! 予定通りだ。10チームで虱潰しだ。あの大統領を投げ倒した鬼蛇皮さんだ。絶対に油断するな。相手はゴキブリ野郎だが、本当にゴキブリ同然で、どこにでも潜んでやがる」


 全体の統率をとるリーダーが言った。

 彼はジャニームズの大御所グループ『Executionerエクスキューショナー』リーダーの松岡。

 鬼蛇皮の虐待と引き換えに芸能界のトップに居る、魂を売ってしまった男だ。

 もちろん、メンタルクリニックにて大量に精神安定剤を処方されている、まごう事なき被害者の1人。


「このチームは基本的には俺とケイリョウユウが先陣に立つ。俺達は武道経験者であると共に、犠牲になる。皆はその隙を付け」


「松岡さん!」


 松岡を慕う後輩が心配で声を掛ける。


「良いんだ。もう俺も疲れたよ。最後に奴を道連れにして死ぬ! 他のチームは奴を見つけたら大声で知らせろ! 囲んだら勝ちだ。敵は両手両足の4本! 四方だけなら跳ね返されるかもしれないが、なら勝ち目はある!」


 松岡は最初から先頭と4人が死を含めた玉砕の役割を買って出た。

 ここで鬼蛇皮を殺せるなら死んでもいい覚悟を決めたのだ。


「良い作戦ですね」


「そうですね。現状、これがベストだと思います。不安は残りますが……」


 北南崎と紫白眼がその作戦を聞いて一定の評価をした。

 やはり、どうしても犠牲を払う必要がある。

 いわゆる死兵だ。

 古今東西、死ぬと心に決めた兵士は最強だ。


 だが、紫白眼は鬼蛇皮を指導しただけに一定の心配も残る。


「背後を突かれた場合ですね?」


「えぇ。そうなったら、そのチームは全滅確定かもしれませんね」


 北南崎と紫白眼が戦略を分析した。

 だが、その言葉を待っていたかの様に、松岡が指示をだした。


「最後尾には『Killing Machineキリングマシン』の精鋭メンバーが付く! 背後からの襲撃に気をつけろ! 白山! 頼むぞ!」


「おう! 任せろ!」


 Killing Machineリーダーの白山魔罪が答えた。

 Executionerとは同じ釜の飯を食い、同じ性獣に食われた仲間だ。

 同期としても頼もしい仲間だ。


 アイドル達は10チームで53人ずつに分かれ、それぞれ先頭と最後尾をテキパキと決めていく。

 彼らは、その戦略を最初から考えていたのだろう。

 軍では50人を小隊と定めている。

 故に、アイドル達の戦略はそんなに間違っていない。


「ほう! 油断も隙も無い。ちゃンと考えていますね」


「えぇ。戦争の基本ですね。最後尾が隊の後部を警戒する。自分達でたどり付いた答えなら大したモノです」


 アイドル達にも陸軍は協力している。

 戦場での基本移動方法から非常事態の時まで、あらゆる事態を想定して訓練し叩き込んだ。

 中には役作りの一環として経験者もいたので、その子は教える側にも回ったりしていた。

 ただ、現役引退し、普通のオジサンになってしまった元アイドルは戦力的には不安の種。

 だが彼らは声には出さないが、現役アイドルの盾になるつもりでいる。

 今を頑張る彼らに死んでほしくないのだ。


Psycho Killerサイコキラーの横山さんと若松さん。先輩の心意気には感謝します。本当は誰も犠牲にしたくないけど……」


 松岡が申し訳なさそうに言った。

 どんなに都合よく計算しても犠牲者無しはありえないと彼らは知った。

 そこに助けの手を差し伸べたのが引退した元アイドルだ。


「分かっている。我らはもうオジサンだ。存分に犠牲にしたまえ。それにこう見えても柔道有段者。簡単には負けんよ」


魔蠱斗マコトさん!」


「僕も付いている。太ったが、これでも空手有段者だ。一発位はブン殴ってみせよう!」


幽忌ユウキさん! ありがとうございます!」


 引退した元アイドルで、ここに居る者は使い捨ての覚悟を決めた者。

 まだ華も未来もある現役アイドルを死なせない為に死ぬのだ。


「こんなに悲しい連帯感があるんですね」


「それだけ彼らは魂を殺され続けたンでしょう。後悔する者は居ない。もし居るなら、ここに参加できなかった339人でしょうね」


「小学生には参加資格がないし、バットで殴られても痛くもかゆくも無い非力な者もいました。暴力の素質の無い者もいる。仕方ありませン」


 自分で仇討ち法を制定しておいてこの言い様だが、ここに居る者は全てを承諾してここにいる。

 この仇討ち法も5回目。

 1~4回目を一度も見なかった者は、居るかもしれないが少ないだろう。

 少なくとも全員死地に向かう眼つきになっている。

 アイドルオーラではなく殺気だ。


 憎い相手とは言え、それでも人を殺す覚悟を決めた者達だ。

 そんな姿を映像として流す事で、国民に犯罪への戒めとする。


「よし! 侵入口は2か所! 5組ずつに分かれて、分岐がある毎に分散だ! 見つけたら全員で叫べ! 行くぞ!」

 こうして松岡に先導され、アイドル、元アイドルの混成軍が校舎に突入していった。



【廃校舎/某所】


「ほうほう。元気な若い者は大好きじゃ。その精力がワシの生きる秘訣。さてだれから嬲ってやろうかのう? ヒッヒッヒ!」


 530人の突撃を余裕の表情で眺める鬼蛇皮。

 負けるつもりはサラサラ無い。

 勝って帰る。

 530人の精力であと50年は生きるつもりだ。


 鬼蛇皮は、鴨がネギを背負う、飛んで火にいる夏の虫など、そんな光景を思い描いていた。

 風流で残酷なことわざだが、最高に相応しい諺である事には間違いなかった。

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