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第101話 二人で買い出しに

「う〜ん……塗料ってこんなに種類あるんだ。買ってくるの、具体的には書かれてないから悩む」


「そうだね。量も質も物によって全然違うし。そもそも絵の具にペンキ、スプレーとか。何塗るかで必要なものも変わってくる」


 俺達は今、ホームセンターにいる。


 有美と買ってきてほしいと渡されたメモに書いてあったのは、恐らく段ボールなどを塗る用であろう白と赤、黒の塗料。


 それに加えて、もし段ボールが貰えそうなら貰ってきてほしいとのことだ。あとから勇士達にも買い出しをさせる予定らしいが、そっちには細かい備品系を頼むそうだ。


 と、いうわけでとりあえず自転車を走らせ、近くのホームセンターまで足を運んだわけだが。流石の品揃えで候補が多すぎることもあり、俺と有美は頭を悩ませるばかり。


「段ボールってペンキと絵の具、どっちで塗ったほうがいい感じの色になるんだろ? スプレーはどっちかというと壁とかに使うイメージだから、選択肢から外していいよね」


 さて、ひとまずそんなことは置いておいて。


(なんかこうしてると有美、ちょっとした主婦みたいだな……)


 今日は少し蒸し暑く、長い黒髪をポニーテールにしていつもとは違う雰囲気を醸し出している彼女は、妙に買い物カゴを片手に持つ姿が様になっている。


 主婦、というよりもしかしたら弟にご飯を作るための買い出しに来たお姉ちゃん、と言った感じだろうか。有美は一人っ子だけど、クラスの女の子の相談とかにもたまに乗ってあげてるらしいし。女子に対しては人当たりがいいから、意外に人気者だ。


「ね、聞いてる?」


「……ごめん、なんだっけ?」


「もぉ、何ぼーっとしてんだか。しっかりしてよね」


 なんかいいな、こういうの。


 気を遣ってくれた女子のみんなには感謝だな。こうやって一人、有美の可愛いところを独占できて。


 俺の家に来る時の完全オフな甘々モードもいいけれど、外でする凛々しい顔もやっぱり死ぬほど可愛い。


 なんだか一目惚れしたあの頃を思い出すようで、少しふけってしまった。自分の話をちゃんと聞いてくれなかった有美は不満そうに、むくれている。


「で、どーするの? 予算とかもあるし、ちゃんと考えて買わないと足りそうにないよ」


「そーだね。いい感じに安いの探そっか」


「あ、ちょっ。頭撫でないでよ……」


「ごめんごめん。可愛くてつい。似合ってるよ、ポニーテール」


「っっっ!? や、やめる! ポニーテールやめる!!」


「なんで? せっかく俺のあげたシュシュつけてくれて、しかも似合ってるのに」


「……うるさい、バカ」


 そう言って、有美は黒髪を靡かせてポニーテールを解く。


 ふぁさっ、と艶やかなそれが舞うと、ほのかに甘い匂いがして。気づけば本音がまた、漏れ出る。


「あ、いつもの髪型もいいね、やっぱり。本気で可愛い」


「〜〜っ!? やめ、やめて。ほんとにっ!!」


 可愛い。赤面して恥ずかしがるその顔を見てもう一度頭を撫でようとすると、ぶんぶんと首を横に振って。まるでその姿が猫みたいに見えて、思わず笑ってしまう。


「……もぉ」





 ホームセンターデートは、のんびりと続いていく。

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