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第102話 二人で買い出しに2

「……よし、これで大方揃ったかな。そろそろ学校戻る?」


「ええ、もう戻るの? せっかくだしもうちょっとゆっくりして行こうよ」


「いやダメでしょ。クラスのみんなは今頑張って装飾してるんだから」


 何言ってるの、とでも言いたげな顔で有美はそう告げてくる。


 いやまあ確かに絵の具は全て揃ったし、本来であれば俺もすぐ学校へ戻って作業を手伝った方がいいとは思うのだが。


「作業、今日の分は終わったらしいよ? ほら」


 先程同じクラスの女子からLIMEが届いていた。


『お疲れ様! こっちはもう今日の分の作業終わったからゆっくり買い物していいからね! あとで荷物取りにくるついでに教室に買ってきてくれたものと領収書だけ置いといて欲しい!!』


「ほ、ほんとだ」


 相変わらずうちのクラスの女子達は優しいというかなんというか。


 まあおそらく作業が終わったというのは本当のことなんだろうけど、こういった文章をしっかりと送ってきてくれるところを見ると。これが有美の人徳なのかな、と思う。俺は男子に応援してもらったことや背を押してもらったことなど全く無いけれど。彼女はみんなに頼られる傍ら、好かれているというのが普段からよく分かるから。


 多分この文を有美ではなく俺に送ってきたというのも、有美が最初にこれを見れば気を遣われたと簡単に理解してしまうからか。だからこれは遠回しにそうならないよう、俺がゆっくり帰るという環境を守れというメッセージというわけだ。


「……というか、さ。寛司って野瀬さんとそんなに仲良かったっけ?」


「え?」


「いや、だからその、いつの間にLIME交換したのかなぁっ、て」


「あっ……」


 まずい。有美がジト目でこちらを見ている。


 もしかして、疑われてるのか?


「ち、違うよ!? 個人的にLIME交換したんじゃなくて、ついさっきあっちから登録が来ただけだって! 多分グループから追加したんだよ!?」


「ふ〜〜〜ん。で、寛司は友達登録返したの?」


「そ、それは。ほら、登録返さないと返事できないし……」


「そうなんだ。寛司は私以外の女の子のLIME、持ってるんだ」


 な、なにその言い方!? まるで俺が女たらしみたいな!?


 違うのに。俺は有美以外に一切興味なくて、本当に。有美のことだけが大好きなのに。


「……私はお父さんと寛司しか、男の子のLIME持ってないのに」


「ひっ」


 ああ、嫉妬してる。


 ぷいっ、とそっぽを向きながらぼそり。そう呟いた有美は、珍しく少し面倒臭い、そんな心情で。


 有美がまさか俺とお父さん以外、一切LIME交換をしていなかったなんて。四人で仲良しグループを作っているからてっきり勇士とくらいは交換していると思っていたけれど。


 本当に、変なところで真面目だ。いや……この場合は一途、か。


 俺を特別扱いしてくれている、というのは本当に嬉しい。確かに今回は俺が悪かった気がするし、いつまでも彼女に拗ねられて会話が弾まないのは嫌だ。


 謝ろう。


「ごめん、俺が悪かったよ。俺だってお母さん除いたら今追加されたばかりの野瀬さんくらいしか女の子のLIME、無いからさ。後から事情話して登録解除しとくよ」


「べ、別に私怒ってないし。ただ、その……」


「その?」


 かあぁ、と紅潮した横顔が、こちらに向いて。まん丸な瞳が一点に俺の視線と交錯する。


「……寛司が誰かに取られるのが嫌な、だけだし」


「〜〜〜っっっっ!!」


 な、なんだよそれ。


 LIME交換一つで、危機感を覚えて。有美はそうやって嫉妬してくれるのか。


 ダメだ、そんなの。可愛い。可愛いが過ぎる。


「う、うう、うん。ほんと、ごめん。お詫びと言ってはなんだけど、前から有美が行きたいって言ってたカフェ、この建物にあるからさ。一緒に行こう?」


「……ほ、ほんとに怒ってないから、ね? カフェはその、行くけど」


 やがて嫉妬の感情を表に出してしまったことそのものに羞恥心を覚えたのか。さっきまで妬きモード全開だったくせに、有美はおろおろした様子で自分の本音を無かったことにしようとする。


 だが、もう遅い。 


「大丈夫。俺の全部は有美のものだよ。誰かに取られることなんて、絶対にないから」


「ば、ばっ!? ああもう、忘れてよさっきの!! あれは本当にその、違うから!!」


「なんで? 有美が可愛く嫉妬してくれたの、凄く嬉しかったのに」


「っううっ!! 寛司のいじわる。バカぁっ!!!」


 今日も今日とて、俺の彼女さんは本当に世界一可愛いな。




 照れて顔を隠す有美を見つめながら、そう。思った。

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