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第104話 新婚さんみたいに

 俺達が買い出しを頼まれたのは、ガムテープに画用紙。加えて色んな色の入ったマーカーペンだ。


 当然、全て百均にいけば片付く。元々このホームセンターに来たのは学校から一番近い百均がこの中に内蔵されているから。


 手早く買い出しを済ませ、領収書に俺の名前を記載。こうしてたった十分ほどで、このホームセンターへの用事は終わったのだった。


「よお〜し、デートだぁ! ここからはデートだよ、ゆーし!!」


「はいはい、そーだな。で、どこ行くんだ? 一回学校戻ってこれ置いてからどっか行ってもいいけど」


「ん〜……はっ! そうだ、私欲しいものあったんだ〜!!」


「欲しいもの?」


「うんっ!!」


 由那の欲しいもの、か。やっぱり女の子だし、化粧品とか? ……って、うちの学校化粧禁止か。というか素の顔が完成され過ぎている由那は、俺との休日デートでも化粧の類をしてきたことはないし。これ以上可愛くなられても……困るし。


 なら服、か? そろそろ夏が近づいてきてて衣替えの季節だし。なんか前の水着事件を彷彿としてしまいそうだが、まあ。彼女の服を一緒に選べるなんて彼氏としては幸せな事この上ないけど。


「小さい本棚が欲しいんだぁ。最近欲しい漫画があるんだけど、よく考えたら私の部屋って本開ける場所ほとんどなくて。そこは教科書で埋まっちゃってるから」


「小さいってどれくらいの?」


「本当に小さいのでいいよ〜。ベッドのそばに置けるくらいの!」


「おお、じゃあ本当に小さいやつだな」


 本棚と聞いて一瞬ギョッとしたが。その程度のサイズなら自転車で充分持って帰れるか。組み立てタイプのやつなら尚更、数枚の板とネジとかだけだろうし。カゴに入れれば楽勝だろう。


 ちょうど俺達は今ホームセンターにいるわけだしな。一緒に見て帰るとしよう。


 百均から離れて、家具コーナーへと足を運ぶ。


 ソファー、ベッド、机、椅子と来て。一番奥のところに、棚類のコーナーはあった。


 大きな本棚から衣料棚、ディスプレイケース等々。棚に分類される物の組み立て後見本が並ぶ中で、由那の望む小さな本棚というやつを探す。


「これじゃ、ちょっと大きすぎるか」


「むむむ。サイズ感は可愛いんだけど、縦がちょっと大きいかも。一段の横長なやつをポンって置きたいから」


「ならこっちか?」


「あ、これ好き! ちっちゃくて可愛い〜!!」


 どうやら由那が買おうとしていた漫画は五巻で完結している物らしく、他に買う可能性もあるけれど今は本当に小さい物でいいらしい。


 なので結果的に候補に上がったのは、コミックサイズの本が三十冊しか入らない一段の棚。形は長方形で、横長のコンパクトなサイズ感だ。お値段もかなりリーズナブルで二千円にも満たない。


「えへへ、えへへっ」


「? そんなに本棚見つかったの嬉しかったのか?」


「それもあるよぉ。でも、ね?」


 きゅっ。恋人繋ぎしていた手を握る力が強くなる。それと同時に身を寄せてきた由那は嬉しそうに、言った。


「なんか、新婚さんみたいだなって。こうやって一緒に家具選んでるの」


「っえ!?」


「あ〜、照れたぁ♡ やっぱり無自覚だったんだね、ゆーしっ」


 し、新婚さんって。


 いや確かに、言われてみればなのかもしれないけど。どうりでずっと幸せそうだってのか、コイツ。


「こうやって、いつか二人で一緒に住む家の家具を選んだりできる日が来たらいいな。ゆーしとなら、絶対楽しく暮らせるもんっ♪」


「ん、んぐぐっ。馬鹿、変な妄想するな。こっちまで恥ずかしくなるだろ……」


「えへへぇ。妄想じゃなくなるよう、ゆーしさんにご協力お願いしたいなぁ〜」


「まだ、無理だって。俺たち高校生なんだから」


「まだ? じゃあ将来的には期待してもいいのかにゃ〜?」


「…………考えとく」


「やったぁ♡」


 ああもう、甘々幸せオーラ振り撒きやがって。


 由那と一緒に暮らす? そんなの、そんなの……


『お帰りなさい、ゆーし♡ お風呂にする? ご飯にする? それとも────』


(幸せ、すぎだろぉ……)



 変な妄想をしてしまう自分に、気持ち悪いなと一人ツッコみつつ。意外とずっしりしていて重い組み立て前の本棚をカゴに入れて、レジへと向かうのだった。


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