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第116話 三人でゲームを

「お待たせ憂太〜! お姉ちゃん達と遊ぼ〜!!」


「う、うん。いい……けど。お姉ちゃんなんか顔赤いよ?」


「へっ!? き、ききき気のせいだよ! ほら、ゲーム準備して!!」


 由那をたっぷり堪能し、夜の七時前。ここに来てから一時間半ほどが経過してようやく、俺たちは憂太のいるリビングへと降りた。


 相変わらず真面目な憂太はつい今まで勉強していたらしく、机の上には教科書と要点を綺麗にまとめたノートが広がっている。昔、まだ小さかった頃は勉強よりも遊び一択な無邪気溢れる子供だったというのに。こういう点では俺よりも大人なのではないだろうか。お姉ちゃんは……うん。むしろ昔よりも幼児退行している気がするけれど。


「お、俺も何か手伝うことあるか?」


「いい。ゆーしにいは座ってて」


「あっ……はい」


 やっぱりまだあの時のこと、怒っているのか。めちゃくちゃ冷たくあしらわれて、俺はちょこんとソファーに腰掛ける。


 由那もその異様な拒絶っぷりに思うところがあったのか、一瞬わなわなと動揺する素振りを見せたが。その口から言葉が出ることはなく、憂太とゲームの準備を進めていく。


 気まずい。その一言に尽きる。そういえば由那はSmitchの現物を見たのは俺の家でのが初めてだと言っていたが、これは最近買った物なのだろうか。由那が買ったのなら嬉しさのあまりLIMEでも送ってきそうなものだし、多分憂太のか。いつも勉強ばかりしてるイメージがあるからちょっと意外だ。


 なんて。頭の中では言葉が出てくるのに、それを種に会話を広げようとは中々できない。結局ゲームの電源がつくまで、俺は気まずさで無言を貫いてしまっていた。


「そ、そーだ憂太! せっかく久しぶりなんだし、昔みたいにゆーしの膝の上でゲームしなよ! その方が絶対楽しいから!!」


 お、由那が珍しく大人な気配りを。薄目でピクピクしてる表情筋は、多分我慢して無理やりお姉ちゃんしてる証拠なんだろうなぁ。


 だが由那よ。流石にそれは……


「いやいい。お姉ちゃんがゆーしにいの膝の上行きなよ」


「えっ、いいの!?」


 ほら。ってオイ。我慢効かなくなるの早過ぎだろ。めちゃくちゃ嬉しそうだな。


 とまあ、そんなこんなで。結局なんとか己の欲を自制した由那と俺の間に憂太を挟むという……凄く分かりやすい「仲良くしよう!」な感じの配置になった。


 ちなみに選択されたゲームはスマファザ。俺も家でたまにやるが、正直強さにあまり自信はない。ここで俺がめちゃくちゃ凄い実力の持ち主とかなら「憂太が楽しめるよう、接戦を演じるか……っ!」とかかっこいいことも考えられたんだけどな。


 このゲームの目的はあくまで友好関係の回復。前の喧嘩別れから気まずくなってしまった仲を元通りにして、昔のようにまた三人でいられる空気を作ることだ。


 我ながら難しいことを言っているのは分かってる。憂太にとって俺は好きな人を奪った張本人な訳で、好きな人を奪った奴とその好きな人と三人きりなんて。そう簡単に割り切れるものではないはず。


 けど、いつまでもこのままはやっぱり嫌だ。由那との今後は勿論、憂太とも仲良くしたい。自分勝手かもしれないけれど、それが俺の本音。


「ね、早くやろっ! 私は勉強しなさいっていつもお母さんにゲーム制限されちゃってるから、こういう機会が大切なんだよぉ!!」


「そうなのか?」


「……お姉ちゃん、放っておくとゆーしにいの写真見てニヤニヤしてるか電話してるかだから」


「あ〜っ……」


 思い当たる節がある。というか、容易に想像がついてしまう。


 ま、まあこの前のテストは俺と勉強してそれなりの点数で終われたわけだしな。うん……次のテスト期間もちゃんと勉強教えてやるか。


「そ、そこは深掘りしなくていいから! ほら、やろっ!!」


 俺の写真を見てニヤニヤしている、という点をバラされて恥ずかしがっているのか。赤面しながらわちゃわちゃとアピールする由那に思わず吹き出しそうになりながら。





 三人で、キャラ選択画面へと移動した。

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