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第165話 長い祭りの幕閉じ

『全員に通達! あと十分くらいで六時だから、ぼちぼち戻って来てくれ〜! 文化祭終了前に一回集まって締めなきゃいけないんだと!!』


 クラス全員が入っているグループライムに、在原さんから通知が届く。


「は〜ぁ、もう終わりかぁ。文化祭、毎日続けばいいのになぁ……」


「毎日は流石に飽きるだろ。やり過ぎても特別感無くなるし」


「え〜。でも文化祭毎日やってくれたら、堅苦しい授業なんて受けずにずっとゆーしとデートできるんだよ?」


「……要するに授業受けたくないだけ、と」


「ち、違うも〜ん。ゆーしと毎日日中からデートしてたいだけだもん!」


 プラネタリウムを出た俺たちは、そんなくだらない会話をしながら廊下を進む。


 結局、途中からはアナウンスの解説なんて耳に入らず。綺麗な星空の景色すら見ずに、イチャイチャキスを堪能してしまった。


 おそらくスマホか何かで動画を流していたのだろう。再生時間が終わり、箱の中がいきなり暗くなった時は焦ったが。幸い箱から顔を出しても案内役の人は待ち構えておらず、事なきを得た。


 我ながら暴走し過ぎた、とは思う。煽られて我慢できなかった。まあ……する必要もなかったのかもしれないけれど。


 しかしところ構わず、それこそさっきみたいに人に見られる可能性がある場所でああいったことをするのはあまりよろしくない。少しくらいは自制できるようにしておかないとな。


「それにしてもプラネタリウム、綺麗だったね〜。ね、いつか本物のお星様も見に行こうよ! というか夏休みに行こ!!」


「お、いいなそれ。ってか、そうか。もうすぐ夏休みなんだよな」


「ふふっ、夏休みも毎日会いたいなぁ。色んなところ行きたいし、一日まったりごろごろも。休み、足りるかなぁ?」


「さあ、どうだろうな。まあでもなるようになるだろ。どうせずっと一緒にいるんだし、な」


 夏休みに由那としたいこと。思いつくだけで山ほどある。


 海に行きたいし、山に星も見に行きたくなった。また由那の家に行って憂太も含めて三人で遊びたい。映画を見に行ったり、遊園地もいいかもしれない。


 これは、中々に出費もかさみそうだ。中学まではあまりお金を多く使う機会がなかったからお年玉やら誕生日のお金やらが貯まっていて、今もそれらとお小遣いをやりくりしてなんとかしてはいるけれど。


 いずれはバイトなんかも考えなければいけないだろうか。……いや、由那と一緒にいられる時間が減るのは嫌だな。


「まあでもその前に期末テストだな。赤点取ったら夏休みに補修の教科もあるらしいぞ。ずっと一緒にいるためにはまず、勉強を頑張らないとな」


「うへぇ。急に現実に戻さないでよぉ。せっかく考えないようにしてたのに……」


「安心しろ。勉強会はいくらでも付き合うからな」


「ひっ。彼氏さんの優しさが怖い……」


 前回の中間テストもそうやって乗り切ったのだ。今回も同じように、計画的な勉強をすればきっと何とかなるだろう。


 夏休み、毎日一緒にいるためだ。頑張ってもらわないとな。


「って、やば。もうあと数分で六時だ。みんなもう教室集まってるかも」


「えっ、もう!? よぉし、急ごゆーし!」


 こうして、静かに。そして平和に。俺たちの文化祭は幕を閉じていく。


 楽しかった。文句なしでこれまでの人生の中でぶっち切り一位の楽しさな文化祭だった。


 彼女が……由那が、隣にいてくれたから。





 願わくば来年も、同じように由那の隣を歩いていられますように。そう、強く願った。

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