「あっはっは、ほんとに面白い子だねー」
「しおりお姉ちゃん笑いすぎじゃない?」
「ボクあんまりまりんちゃんの配信見たことなかったからあんなに面白い子だなんて知らなかったよ」
「まあ、私もいつものまりとのギャップで頭おかしくなりそうだよ……」
まりんの配信が終わったあと、笑いすぎて腹筋崩壊しかけたしおりお姉ちゃんを連れて一緒にお風呂に入っている。一回入ったことでハードルが下がって抵抗がなくなったこともあり、普通の姉妹のようにお風呂に入りながらおしゃべりしている。
「はぁ……お姉ちゃん、頭洗ってー」
「はーい、痒いところはないですかー」
しおりお姉ちゃんは、丁寧に私の髪の毛を洗ってくれる。しおりお姉ちゃんは、私が甘えられる数少ない人だ。そういう事情もあり、甘えきってしまっている部分が多い。あまり負担をかけないようにしなきゃと思っていても、ついつい本能で甘えてしまう。さっきまでまりんの配信で心が疲れているのもあるかもしれないが。
「今度は頭流してー」
「はいはい、じゃあ流すから目つぶってね」
「ん、ありがと」
頭を流して、お風呂の中に二人で入る。少し狭いがしおりお姉ちゃんに後ろから抱きつかれるのは好きだ。そしてしおりお姉ちゃんも私を抱き枕がわりにするのが好きらしい。
「ねぇ、お姉ちゃん。――お腹つまむのやめて!?」
湯船でゆったりしているとき、しおりお姉ちゃんにお腹をつままれてそんな声が出てしまった。しおりお姉ちゃんは、私の反応が面白かったのかずっと私のお腹をつついてくる。私は必死に抵抗を試みるも、しおりお姉ちゃんに抱きつかれている状態ではまともに抜け出すことができない。
「やーめーて! しおりお姉ちゃん!」
「えへへ、可愛いなぁ」
抵抗空しくお腹をひたすら揉まれる。しおりお姉ちゃんは、時折私のお腹をつまんだり撫でたりとしてくる。これは、恥ずかしがっている私を見て楽しんでいるのだろうか。
……いや、しおりお姉ちゃんは純粋につまむのを楽しんでいるのだろう。そこまでお肉はついていないはずだが、つまむ行為そのものが楽しいというのはわからないでもない。お腹がぷにぷにだと言われているみたいで癪だけど。
「しおりお姉ちゃんのいじわる!」
「はいはい、ごめんなさいねー」
まったく反省する気を感じられない謝罪をしてくるしおりお姉ちゃん。私がジト目で睨んでいると、しおりお姉ちゃんは苦笑いしながら私の頭を撫でてくる。
「そろそろ上がる?」
「うん、さっき暴れたからのぼせそう……」
「それは大変だ。急いで出ようか」
お風呂に入っているうちにだいぶのぼせていたらしく、ふらふらしていたのでしおりお姉ちゃんに支えられながらお風呂を出て体と頭を拭く。まあ、元はと言えばしおりお姉ちゃんのせいなんだけど。
「はい、お水」
「ありがと、しおりお姉ちゃん」
しおりお姉ちゃんからもらった水を一口飲む。どうやら体は水分を欲していたらしく、ただの水なのにとても美味しく感じた。
のぼせている状態から回復した私は、リビングでのんびりしている。しおりお姉ちゃんが髪を乾かしてくれているので、されるがままだ。しおりお姉ちゃんなりに反省しているらしく、髪を乾かす際に頭を撫でてくれている。
「よし、乾いたよ」
「ありがとー」
しおりお姉ちゃんがドライヤーを片付けに行っている間に、私はソファに座ってぼーっとしていた。しばらく何も考えずにソファの柔らかさを堪能していると、しおりお姉ちゃんが飲み物を持って戻ってきて私の隣に座る。
「コーヒー牛乳持ってきたよ」
「なんだか銭湯みたいだね。でもありがと」
コーヒー牛乳を受け取り、ちびちび飲みながらまったりする。しおりお姉ちゃんもコーヒー牛乳を飲んで一息つく。
しばらくの間、沈黙が流れる。こんな空気は珍しくて、なんだか落ち着かない。しおりお姉ちゃんの方をちらりと見ると、何やらスマホをいじって真剣な表情をしている。
「しおりお姉ちゃん、何やってるの?」
「ん? あぁ、さっきのまりんちゃんの配信を見ていたリスナーの反応を追ってたんだ。かなちゃんの配信に活かせるところがあればいいなって」
しおりお姉ちゃんのスマホを覗き込み、先ほどのまりんの配信の反応を見る。まりんの配信と私の配信ではスタイルが違いすぎるけど、だからこそ参考になるものがあるかもしれない。
私はコーヒー牛乳を机に置き、しおりお姉ちゃんのスマホを覗き込む。突然のことにも驚いたり嫌な顔をしたりせず、しおりお姉ちゃんはこちらに画面を向けてくれる。
「ほら、見てこれ。【途中から大喜利大会になって面白かった】とか【けーちゃんとは違って変態さ隠しきれてないのいいよな】だってさ。やっぱりまりんちゃんはいいキャラしてるねー」
「普段はしっかりしてるのになぁ……配信だと性格変わるんだよね」
配信中は、普段の日常とは全く違うキャラを演じているまりん。演じている……というよりは自然体すぎて配信中の方が本来の性格なような感じがする。とはいえ、まりんは普段はとても真面目だ。そんなまりんだからこそ私はコラボしてみたいと思ったわけだし。
まりんと一緒ならもっとすごいことが出来そうで、まりんと一緒ならきっとトップまで上り詰めていけそうな……そんな予感がする。まあ、まりんにその気があるかはわからないけど。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ寝なきゃね」
しおりお姉ちゃんがスマホを見ながらそんなことを言ってくる。時計を見たら日付が変わっていた。もうそんなに経ってしまっていたのか。
「今日こそボクと一緒に寝るー? なんて……」
「いいよ」
「へ?」
冗談めかしてそんなことを言ってくるしおりお姉ちゃんに、私は即答する。まさか私が乗ってくるとは思っていなかったのか、しおりお姉ちゃんは目を丸くしている。
「ほ、ほんとにいいの?」
「あんまり聞かれると心変わりしそうになるからそっとしといて……」
目を輝かせているしおりお姉ちゃんの視線がなんだかむず痒くてついそんなことを言ってしまう。私がそう答えるとしおりお姉ちゃんは余計に目を輝かせて嬉しそうにしている。
「じゃあ寝る準備しようか」
「う、うん!」
なんだか恥ずかしかったが、しおりお姉ちゃんは嬉しそうにしていた。まあ、私も心の底ではしおりお姉ちゃんと一緒に眠れるのは楽しみだったので気持ちはわかるのだが。
いそいそと寝室に向かうしおりお姉ちゃんを追いかけていると、いつものフローラルな香り中にコーヒー牛乳の甘い香りが混じっていて不思議と口角が上がったのだった。