朽木氏は外様衆とはいえ将軍偏諱を受ける家柄故、多少の遠慮がないでもなかった。それでも、ともに幕府方である限りは同陣営の仲間である。
朽木氏は高島郡に根を張る高島七頭の一つで、高島七頭とは、
清水山城の高島氏
平井城の平井氏
永田城の永田氏
朽木城の朽木氏
横山城の横山氏
田中城の田中氏
五番領城の山崎氏
のことである。山崎氏を除いてすべて同流の西佐々木氏だが、山崎氏も佐々木氏ではある。高島氏が惣領であったが、若狭街道を擁した朽木氏が勢力を大きく伸ばし、高島氏を凌ぎはじめていた。高島氏・永田氏・朽木氏は兄弟分で、平井氏は高島氏の分流、横山氏と田中氏は朽木氏の庶流にあたる。
朽木氏は先々代当主
「色々と難しい時代よな……」
元光には祖父・国信のように将軍家を支えていればいい時代ではなくなっている感覚があった。それは
父も将軍家を支えようとしていたし、元光もそれで畿内が平穏になるならば我が身の労苦など惜しみもしない。しかし、時代は最早足利家を推戴して立て直せるような状況ではなかった。幕府の求心力はほぼ無くなり、有力大名である細川京兆家に推戴されねば維持できない上に、その細川京兆家が分裂して争っている。それ故、積極的に幕府に関わろうという気は元光には無くなっていた。それよりも、独立独歩できる体制を整えることに奔走している。
そして、大名という立場から見れば、半独立の国人衆など目障りなだけである――という考えを元光も持っていた。武田氏とて、国人衆の仕置に苦労している。ましてや、同格の分家が多い近江はまとめ上げるのに気苦労の多いことだろうと六角定頼に同情もする。元光とて、信親派であった逸見氏の反撥に手を焼いているのだ。一門衆といっても、当主が
「あと
押し黙った元光に勝春が饒舌に父との思い出を話す。それでも
「御屋形様、如何なさいましたか?」
「いやな……いつまでこんな世が続くのかと思ってな」
応仁の乱――
「戦のない世など、どうしたら訪れるのか――などと考えても
そういいながらも行く手に見える朽木の渓谷を眺めながら、再び考えてしまう。
元光は若狭武田の当主であり、直臣や一門、その家族、家人を背負っている。宿老たちを上手く抑えながら家臣らの謀反の芽を摘み取り、より強く在らねばならなかった。
父が文化的な連歌や茶の湯に惹かれたのも分かる気がした。