凪に髪を乾かして貰い、そのまま一緒に寝ることにした。
達也のスウェットを貸して、一緒のベッドに眠る。
普段ならば、おなじベッドの上に上がったら、それは、すなわちセックスということだったから、帰って新鮮な気持ちになる。
シングルベッドなので、手狭ではある。凪は、ぴったりと達也にくっついてきた。
うっとうしいとは思ったが、今は、人肌も悪くはないと思い直して、何も言わずにそのままにして居る。
横向きになった達也を、背中から抱きしめている凪の、腕の中すっぽり収まっているような感じだ。それも、悪くはなかった。
見知った体温だから、安心感がある。
「……達也さん」
「ん?」
「……このベッドで、別の男とヤった?」
とんでもないことを聞かれて、動揺しそうになったが、「なんで」とだけ返しておく。
達也の身体を抱きしめる、凪の腕の力がすこし強まった気がした。
「……気になる」
「……そんなこと、気にしなくても……」
「だって、気になるんですよ……。俺、達也さんが……好きだから……」
気にしても、仕方がないだろう、と達也は思う。
わざわざ、嫉妬するような事を言わせたいのだろうか。よく解らない。
「なんで、そんなこと知りたいの?」
「達也さんは、知りたくないんですか?」
「……んー、別に、知りたくないな。嫌な思いをするだけじゃないか?」
嫌な思いなら、できるだけ避けた方がいい。そう思うのは当然ではないのだろうか?
達也はそう思うのだが……。
「それでも、達也さんのこと、知りたいです」
絞り出すような声をして言うから、思わず、ぽろっと教えてしまった。
「このベッドでしたこと、あるよ」
凪が息を飲むのが解った。あからさまに動揺するくらいなら、聞かなければ良いのに、と達也は思う。
「どんな人?」
「……マッチングで会ったセフレで……、Sっけ強くて、縛られたり、いろいろされたりしたかな」
凪が、硬直しているのが解る。
もともと知っているだろうよ、と達也はため息を吐きたくなった。
マッチングで知り合ったのが、凪との最初だ。そして、凪は、達也が、色々な相手と気軽な性行為を楽しんでいたというのを知っているはずだった。
「そういう、『プレイ』みたいなの、好みなんですか?」
声が、かすかに震えているような気がした。
「別に、好みのプレイとかはないよ。……俺としては、気持ち良ければいいし、後ろで、イければそれでいいだけだから。だから、セルフでは、満足感が得られないだけで……」
自分では、届かないところ。そこを暴かれた身体は、その刺激を求めている。
「俺が、いつもします」
「……だから、社内だと面倒だし、そろそろ諦めろ。どうせ、付き合いはしないんだから」
「いいです」
凪は言って、達也の首筋にキスを落とす。「いいです。セフレで」
「でもさ、俺はそれで良いんだけど、お前って、その……気持ち良くなれてるの? それがなかったら、ちょっと」
「達也さん、変な事を気にしてるんですね。俺は、もう、達也さんじゃないとイヤなのに」
「俺じゃないと、イヤ……って?」
「こんな風に触れあっているのも、達也さんじゃないとイヤだし、キスも、達也さんじゃないとイヤ。抱き合ったりするのも、全部、達也さんじゃないとイヤ……達也さん以外、触れたくない。達也さんを他の人に触れさせたくない。絶対に……過去まで全部、塗り替えられたら良いのに」
凪から寄せられる独占欲にクラクラしながら、達也は「なんだよそれ」とだけ呟く。
「俺だけのものになってくれたら良いのに」
ぎゅっと、凪が抱きついてくる。慣れているはずなのに、存外逞しい腕の感触だった。それが、心地よい。ただ、心地よかった。
「……なんだよ」
「全部、俺のものになって。身も心も、全部……」
それは出来ないんじゃないか? どこまで行っても、達也は達也で、凪は凪ではないのか? すべてまるごと相手のものになるというのは、あり得ないのではないか?
そう思っていたが口には出来なかった。
急に唐突な眠気がやってきて、達也の意識を飲み込んでいったからだった。