丁度、昼食を持ってこなかったこともあったので、達也と興水は偵察を兼ねて、おにぎり専門店・グッデイへ向かっていた。
達也たちの会社、佐倉企画から、電車で一駅。
オフィスと学校のある地域の、駅近くにあった。店は、雑居ビルの一階に入っていて、『おにぎり』の上りが立っている。間口は狭そうだが、奥はそれなりに広そうだった。
「……おにぎり専門店って、テイクアウトだけじゃないんだね」
狭い間口から入って行った奥の方には、席が用意されている。イートイン用のスペースらしい。カウンターと、テーブルがあった。作りとしては、町中華の店のような作りだった。
長いカウンターの中では、白い和食の調理服と、白い調理帽を被った長身の人が右往左往しながら、働いているのが解ったが、客は、二人しか居ない。
「興水、今何時?」
「十二時十分」
ランタイムとも思えない、人の少なさだった。人が少ない。イートインで食べているのが二人。テイクアウト客は、皆無だった。
「……ランチタイムなのに、全然いないな……」
「そうだな」
「どうする?」
「そうだな……、イートインで食べて行こう」
おにぎり屋へ入って行くと「いらっしゃいませ」と声がしたが、よわよわしい。男性ひとりで切り盛りしているらしい。
「イートイン、良いですか?」
「あ、はい……それなら、お好きな席で……」
カウンターは、男性客二人がいたので、テーブル席へ向かう。オシャレな白木の壁だったのだろう。けれど、今は、お品書きがベタベタと貼られていて、おしゃれ感は皆無だ。そして、なんとなく、店内は薄暗い。
掃除は、されているのだが、なんとなく、居心地の良さとはかけ離れていた。
「おにぎりセット……か」
好きなおにぎり二つと、お味噌汁が付く、イートイン専用のセットのようだった。
「俺は、おにぎりセットにするよ。達也は?」
「そうだなあ、俺も、おにぎりセットかな……。あ、おにぎりセットDXっていうのがあるから、そっちにしよう」
DXと名前は付いているが、なにが違うのか、全く書いていない。
価格は、百二十円ほど高くなるので、なにか、惣菜系がつくのかも知れない――が、記載が無いのが、何分怖い。
メニューには、おにぎりと、惣菜があった。
おにぎりは、じつにオーソドックスなものが並んでいる。鮭、梅干し、しらす、めんたいこ、おかか……など。一律三百五十円だった。コンビニのおにぎりと比べて、割高感がある。
惣菜は、ポテトサラダ、マカロニサラダ、唐揚げ、コロッケ、タコさんウインナー、卵焼きなど。これは、一口二口のサイズ感で、百五十円だった。
おにぎりセットは、おにぎり二つと味噌汁で、九百円。DXになると、千円を超える。まず、価格帯が高めという印象だった。例えば、これが都内のおにぎり専門店で、高級具材路線で行くならばこれでいいのだが……。
そして、ワンオペが、全く回っていない。
電話注文も受け付けているらしく、電話を受ける。テイクアウト客の対応をする。そちらで手一杯になっていて、達也と興水の注文は、十五分近く取りに来なかった。ランチタイムでは、これは致命的だ。
注文から、届くまでも十五分以上掛かった。
食事を済ませて会計まで済ませると、店内に入ってから、一時間弱過ぎている。ついでに、会社にお土産を買っていこうと思って、達也は、おにぎりを十個ほど買った。
「……もしかして、皆に差し入れ?」
興水が小首を傾げて、聞いてくる。
「えっ? うん、。そうしようと思って……」
「じゃあ、俺も半分出すけど?」
「いや、いいよ。残ったら今日の晩飯にしようと思ってたから」
会計をするが、それも、のんびりしたスピードだった。店員は、チラチラと興水を見ているようだったが、興水は気にもしなかった。おそらく、興水は、こうして見られることに慣れているのだろう。
おにぎりを受け取って、電車に乗り込んで会社に戻った。
おにぎりは、あちこちに配り歩くと、すぐに売れてしまった。夏なので、早く食べるように言って渡したが、少々、心配にはなった。
席に戻ると、興水からチャットが入っている。
『かなり改善点、出せそうだな』
『そうだね。オペレーションとか、そう言うところもそうだったし、店内の様子とかもね』
せっかく、高額のコンサルがはいったというのに、壁にお品書きを張り出して、雰囲気は、完全に壊れている。白木が貼られた明るくておしゃれ感のある店内は、適当に書かれた、手書きのお品書きが張り出されていた。コンサルが後日、確認に来たら、卒倒するかもしれない。
興水とチャットをしている時、ふと、違和感に気が付いた。
(あれ? いつもだったら……興水とやりとりしてたら、凪は、何かを言ってくるのに……)
今日は、何も言ってこなかった、それに、違和感があった……。